雪の保存食
シンシンと雪が降っている。
シンシンと。
シンシンと。
「凍りもち」というものが有る。
長野県で作られる「凍りもち」は、昔は多くの家庭で作られていた保存食だ。
お菓子として、離乳食や病気の時の流動食としてもたべられる自然食品だ。
おもちを細長く切って、和紙に包んで……え~~と……。
ワラやビニール紐で編み、二日から三日ほど水に浸した後は~~。
確か寒中の軒下につるして、寒風にさらして凍みた状態のまま乾燥させたやつだ。
"フリーズド・ドライ"のような感じみたいだね。
という事を説明しながら眼前の女子に食わせる。
因みに、これは僕が作った「凍りもち」ではない。
貰い物である。
まだ難しくて作れないんだよね~~。
「ほうほう」
それを口に入れながらパリパリと食う居候の女子。
というか唯の厄介者。
正確に言えば保護した遭難者。
というか東京から秘湯に入りに来たというフザけた大学生女子である。
しかも知る人ぞ知る秘境にある長野の温泉に行きたくて真冬に来たんだとか。
正直真冬の長野を舐めてる。
そうとしか思えないと言おう。
しかも交通機関が麻痺してるので暫く養わんといけん。
本当に厄介者である。
「お菓子みたいで美味い」
「人の保存食を食い荒らして其れだけか?」
「足りん」
「二日分食っといて足りんのかい」
「スカスカして腹にたまらん」
「普通はそのまま食わんのだが?」
「別の食い方を試したい」
「もう無いわ」
「他のを食べさせて」
「……」
ここは長野県の豪雪地帯の一つ。
慣れない者が来れば遭難するのは当然である。
というか長野では一番の遭難の名所なんだが……。
知らんのだろうか?
特にこのあたりは。
一見さんは冬に来たら、ほぼ遭難する場所何だが……。
こいつ知らないのか?
「はあ~~分かったよ売り物だけど取って置きをだしてやる」
「待ってました」
「料金は後で請求するから」
「善処する」
「払えないなら体で返させる」
「……」
外に出て目印のある場所に行く。
目印の有る雪を掘る。
更に掘る。
「売り物なんだが……」
雪の中からリンゴを取り出す。
雪の中で保存していたリンゴだ。
糖度が増して美味いんだよね~~。
それを家で待っている大学生女子に持って行った。
「足りない」
「おい」
リンゴを食わせた大学生女子。
五個ほど食っといてまだいうか?
自分は家の中で温まってる癖に。
というか客人ですら無いのだが……。
「……」
うん。
絶対代金払わせる。
何としても払わせる。
再び僕は家の外に出て別の目印を探す。
今度は雪中野菜だ。
野菜を雪の中に冬眠させることで、野菜の糖度をさらに高める雪国ならではの保存方法だ。
長野県特産のリンゴも、雪中埋蔵することで甘みが凝縮されてうまくなるんだ。
足りないの一言だったけど。
ムカつく。
雪の中での保存には色々なメリットが有るんだよね~~。
温度・湿度が常に一定"天然の冷蔵庫"
雪の中では、常に0℃の気温と90%程度の湿度を保持することが出来る。
その結果だが。
気温が氷点下であってもだ。
安定した気温・湿度を保つことができるから~~。
野菜を凍らせずに保存することができるんだよね~~。
キャベツに大根や人参其れに長ネギ。
肉は山で取れて保存してたのを使おう。
二時間後。
雪中野菜と保存してた肉で寄せ鍋を作る。
それを大学生な女子の眼前に置く。
「沢山食えや」
「おお~~」
鍋にした雪中野菜を見て目を輝かせる居候。
もとい遭難者の大学生な女子。
交通機関が復活するまでの我慢だ。
うん。
「美味い~~美味い~~」
「そうだろう~~そうだろう~~」
沢山食いましたね。
大学生な女子。
というか遭難者。
ついでに僕も食われました。
性的に。
おい。
深夜に夜這いされました。
ええ。
そのまま朝まで絞られました。
何でしたかと理由を問うたんだが……。
「え? 体で払えと言われたんで」
そのままかいいいいいいっ!
労働力として期待してたのにっ!
労働力としてっ!
気持ちよかったけどっ!
気持ちよかったけどっ!
交通機関が回復したら問答無用で帰しました。
ええ。
一年後。
再会した大学生女子。
というか……。
またも遭難しやがった。
大学生女子。
「妊娠たので責任取って下さい」
「……」
再会して初めの一言に崩れ落ちたのは言うまでもない。
ええ。
そういえば避妊してませんでした。
ゴムも。
お薬も使いませんでした。
うっかりしてました。
良いんだけど。
良いんだけど。
予定が。
予定が狂った。
本当に。
保存食にするつもりの食肉を衝動に任せて帰したのもそうだけど……。
妊娠させるとは想定外だ。
本当に。