Chapter2 エピローグ 使徒の力
ランデアとポルダの間に位置する巨大な河川、ニール川。
ポルダ攻略を目指すモンブルム帝国第三軍は、その歩みを巨大な川の前で止めていた。
およそ五千もの大軍を指揮するのは、第三軍でゲールの右腕とも名高かったゴルド中将だ。
仮拠点の中に座るその表情は厳しく、近くにいる彼の部下たちも話しかけることができない。
「あのアリアとかいう小娘は、何をしているのだ?」
ゴルドは、部下に問いただす。
「はっ! 昨日ここに着いたときから、微動だにしておりません」
「……どういうことなのだ、一体」
部下の報告に、ゴルドは頭を抱えていた。
あのアリアとかいう少女は、ニール川の前に着くなり、「しばらく集中するから、話しかけないでね」と言い放つと、そのまま動かなくなってしまったのだ。
やはり、あの少年と少女の口車に乗ったのは間違いだったかと後悔する。
少年のほうが、何やら得体の入れない力を持っていたのは事実だが、少女にも同じような力があるのだろうか。
仮に魔法のような非現実的な特殊な力を使えるのだとしても、五千もの大軍を移動させるのに役立つ力だとは考えにくい。
やはりここで急造の船か足場を作るべきか。
それか全員泳がせるかだ。
船や足場をつくれば、それだけ時間がかかる。
食糧ももつかどうか微妙なところだが、デムロムから運べばなんとかなるだろう。
全員泳がせる場合は兵糧の心配はあまりないが、五千のうちの何人が犠牲になるかわからない。
ましてここは、大陸一の長さと幅を誇るニール川だ。
流れも速く、ゴルド自身すら泳いで渡れるかと聞かれれば五分五分といったところか。
ゴルドが頭を悩ませていると、部下の男が血相を変えて走ってきた。
「た、大変です!」
「どうした、騒々しい」
「あの、アリアとかいう少女が、その……説明が難しいので、とにかくいらしてください!」
「む……とにかく、状況に動きがあったのは間違いないのだな?」
「はっ!」
その報告を聞き、ゴルドは腰を上げてアリアの様子を見に行くことにした。
彼女の周りには人だかりができ、川の様子がよく見えなくなっている。
「おい、これはいったいどうしたんだ?」
「ゴルド様! すごいですよ! まさに神の奇跡としか言いようがありません!」
「神の奇跡?」
訝しげな様子のゴルドの前、人だかりが割れ、ニール川への道が開かれる。
そこには。
「……なんだ、これは」
ゴルドは茫然と立ち尽くしていた。
ニール川が、真っ二つに割れていた。
よく見ると、アーチ型のように割れた川は上のほうは繋がっており、川自体の流れに大きな違いは見受けられない。
地面の部分は、透明なガラス板が敷かれたかのように、薄膜の下の水の流れがよく見える。
その透明なアーチ全体がやわらかい光を放っているため、夜間でも通ることができそうだった。
神の奇跡にも等しい、その驚くべき変化をもたらしたのは――。
「やっとできたわ。けっこう長かったわね」
「……これは、あなた様が?」
「ほかにだれがやるっていうのよ」
大あくびをしながら、少女――『第七使徒』アリアはそう言ってのける。
ゴルドは確信する。
彼らは本当に、神から力を与えられた超人、特別な人間なのだと。
「さ、これで進めるでしょ。アンタから号令でもかけなさいな」
「は、はい」
目の前の現実に理解を追いつけながら、ゴルドは声を張り上げる。
「諸君! ここに『第七使徒』アリア様の奇跡の力により、ポルダへの道が開かれた! あとは我々の手でポルダを、ペリゴール皇帝陛下のもとへ捧げるのだ!!」
「おおおおおおおおッ!!!!」
空気が爆発したかのような歓声が上がる。
目の前で奇跡を目の当たりにした兵士たちの士気は、大きく上がった。
「ありがとうございます、アリア様。これで心置きなくポルダ攻略に力を注げます」
「そう。頑張ってね」
アリアはどうでもいいとばかりの態度だったが、ゴルドはそんな些細なことは気にしない。
五千もの軍勢を以って、必ずポルダを落とす。
ゴルドの胸に秘めた野心が、炎となって燃え上がる。
「……待っていろ。必ず、我が物にしてくれる」
彼の栄光への道は、目の前のつれない少女によって、開かれたのだから。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました!
これにてChapter2は終了となります。
キリがいいタイミングなので、少し宣伝を。
9/3(日)、コミティア145にサークル星合として参加します! 場所は東5ホール さ09aになります。
サークルとしては初となるイラスト本を制作しました。
小説のほうの既刊も持っていきますので、よければぜひお立ち寄りください。
Chapter3の開始時期についてですが、コミティア145終了後の9/3〜を予定しています。
それまでの間、なろうのフォーマットだと読みづらいと感じる部分があったので、本文の行間など少し修正したいと思います!




