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Chapter2-5 聖女さま、舞い降りる 3




 たどり着いたのは、広場のような場所だった。

 レンガ造りの広い空間の中央に、巨大な時計塔が立っている。

 遠くから見ても、ある程度方向がわかるようになっているのだろう。

 ご丁寧にも、時計塔の下には十字架のようなものが二つ設置されている。

 アレクとリッツバーグのために用意したものとみて間違いないだろう。

 罪人の処刑はよく行われていることらしく、今日も大勢の住民たちが広場に集まっている。

 それは恐ろしい光景だった。

 彼らは皆、アレクたちが死ぬのを待っているのだから。

「ほら、ここに腕と足を通すんだ。早くしないと通す腕と足をそぎ落とすぞ」

「ひっ!」

 レオンが脅すと、リッツバーグはせこせこと自分の手足を十字架の拘束具に通し始める。

 アレクも、自分の足は自分で拘束した。

 直立するような形になるので、少し窮屈さを感じる。

 腕の拘束はレオンの護衛が行った。

 こうしてみると、本当に罪人のようだ。

「いや、モンブルムでは僕も立派な罪人か……」

 モンブルム帝国だけではない。

 もしランデアでアレク以外の、王族以外の勢力がランデアの復興を進めていくとしたら、ランデアを崩壊に導いた王族は『解放軍』の次に槍玉にあげられることだろう。

「……んー。今のところ、それらしき人物の姿は見えないけど。本当に来るんだよね?」

「……来るさ。必ずな」

 アレクは瞳を閉じる。

 余計なことは考えないようにした。

 ベルは必ず来てくれる。

 ならば、その瞬間まで、何も考えるな。

 不安に思うことなど何もない。

 不安に思うことがあるとすれば、それは彼女を信じ切ることができない、自分の心の弱さだけだ。

 今のアレクには必要のないものだ。


 そして、その瞬間は来た。


 何者かが近づいてくる気配を感じ、レオンはその方向を見る。

 その表情が、餓鬼のものへと変わる。

 彼の視線の先に、一人の少女の姿があった。

 茶色の髪を頭の後ろで二つに分け、どこまでも澄み渡る翡翠色の瞳に、目の前の餓鬼だけを映している。

 ボロ切れのような布を身に纏い、どこか凛とした雰囲気を持つその少女は、口元を歪めて、言った。




「よう。『第五使徒』レオン」



 

 そこに立っていたのは、アレクの見知らぬ少女だった。







 ――随分と、ひどい姿になったものだ。


 十字架に拘束されたアレクを見て、モニカは嘆息する。

 顔面は青くなっており、鼻から下に流血の跡がある。

 とはいえ、あのレオンに拘束されて、丸一日近く五体満足で生き残っているのだから、何の力もない王子にしては上出来と言えるだろう。

「……っ」

 十字架に括りつけられた間抜け面の青年が、断頭台に縛られた少年と重なる。


 ――あのときは、助けられなかった。


 いまだに夢に見るあの光景に、目の前の現実はとてもよく似ていた。

 モニカとレオンの間には、絶望的な力量差が存在する。

 かつてのべリガルとは比較にならないほどの、大きな差が。

 でも、今回は違う。

 頼れる仲間たちがいる。

 そして、鬼札である自称聖女がいる。

 必ず助ける。

 もう二度と、あの日のような思いはしたくない。

 もう二度と、誰かにあの日と同じような思いをさせたくない。

 モニカの中にあるのは、そんな思いだけだ。

 だが、そんな思いを、踏みにじってくる男がいた。

「――! モニカ! モニカか!?」

 十字架に縛り付けられたもう一人の男が、モニカの名を呼ぶ。

 見た目が良くても隠し切れなかった醜悪さが、見た目が悪くなったことでさらに増しているのが手に取るようにわかった。

「ワタシが誰だかわからないのか!? リッツバーグだ! お前の父親のリッツバーグ・デムロムだ!」

 自分はお前の父親だと喚く男を無視し、モニカはレオンと対峙する。

「レオン。アタシと戦え」

「……ボクの名前を知っているんだね。アンタが『聖女』なのか?」

 レオンは、どこか釈然としない顔でモニカの言葉に質問を返してきた。

「そうだ。アタシが『聖女』だ」

「……ふーん」

 レオンは黙って、モニカの顔をじっと見つめる。

 だが、答えが出なかったのか、諦めたように口を開いた。

「そっか。戦うのはいいんだけど、いいの? なんかそこのオッサンが、君のことを自分の娘だって言ってるみたいだけど」

「アタシはそんな奴のことは知らない。アタシの目的は、そこに縛られているバカ王子を助け出すことだけだ」

 モニカがそう言うと、リッツバーグは声を荒げる。

「馬鹿な! ワタシがどれだけお前に心血注いで育ててやったと思っている!? お前はその恩を一切返すことなく、家を飛び出したのだ! 貴族としての責任、そのすべてを放棄してな! 今ワタシを助ければ、そのすべてを帳消しにしてやると言っておるのだぞ!?」

「知らねぇよ、そんなの。勝手に言ってろ」

 モニカがそう切り捨てると、リッツバーグは絶句する。

 そんな様子を見て、レオンは腹を抱えて笑っていた。

「あはははははははっ! まったく相手にされてないじゃんか! そんなに嫌われるなんて、よっぽどひどいパパだったんだろうねぇ」

 レオンは一通り笑いきると、真っ直ぐにモニカを見つめる。

「で、アンタは少しはマシなのかな? すぐにバラける奴らばっかりで退屈だったんだけど」

「すぐに死んでやるほど、安くはないつもりだぜ」

「あはっ」

 レオンは狂笑し、

「じゃあ、いくよ? せいぜい死なないように気をつけてよね!!」

 右手を前に突き出すと、周囲に突風が巻き起こった。

 それが発生したと同時に、モニカは全力で横へと跳ぶ。

 直前までモニカがいた場所が、爆ぜる。

 そのとき。


「――今だ! ベルッ!!」


明日はいよいよコミケですね!

私が執筆担当のサークル星合も、2日目、8/12(日)に参加予定です。

既刊、新刊含め東地区“ハ”ブロック32aにてお待ちしております!


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