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Chapter2-4 囚われのモニカ 10




「……遅いな」

 ケイトが夜になっても戻ってこない。

 今までこんなことはなかった。

 まさかとは思うが、ケイトの身になにかあったのだろうか。

「いや、ケイトに限ってそんな……」

「――お嬢!!」

 階段から勢いよく降りてきた舎弟の一人が、モニカを呼ぶ。

 舎弟たちには全員、モニカの名前を呼ぶことを許していない。

 それを許していたのは、ケイトだけだった。

 見ると、何人もの舎弟たちがぞろぞろと集まっている。

 尋常な様子ではない。

「どうした、騒々しい」

「へぇ、それが……どうやらデムロムの館に、ケイトさんが捕らえられているみたいです」

「――――デムロムの、館に?」

 平静を装うだけで精いっぱいだった。

 なぜ。

 どうして。

「…………」

 いや、言われなくとも、わかっていることだ。

 そんなものは決まっている。

 奴らが、モニカを連れ戻しに来たのだ。

「俺たちも事情はさっぱりで……詳しい話は、こいつから聞いてくだせぇ」

 そう言って、舎弟の一人が少年を突き出してくる。

 モニカはその顔に見覚えがあった。

「お前は……たしかケイトの友人の」

「は、はい……。カイっていいます……」

 少年――カイはおどおどしながらも、モニカの言葉を肯定する。

「なにがあった?」

 モニカの鋭い視線が、少年の目を射抜く。

 少年はその力強い視線から目をそらすことができない。

「ケイトは、モニカさんを逃がした罪に問われて捕まった。明日の昼、斬首刑が執行される……」

 彼の言葉を聞いて、モニカは目の前が真っ暗になった。

 このまま何もしなければ、ケイトは死ぬ。

 これは罠だと、モニカの本能的な部分が訴えている。

 それがわかっていても、どうすることもできない。

「……お前はなぜ、そんなことを知っている?」

「そ、それは……。お、俺も一緒に捕まってたんだ。ケイトと一緒に」

「でも逃げてきた。そうだな? ケイトはどうして一緒に逃げられなかったんだ?」

「それは……俺だけ、逃がしてもらったからだ」

「そうか」 

 次の瞬間、少年の身体が跳ねた。

 モニカの拳が、少年の顔面を撃ち抜いたからだ。

「あ……が……っ……」

 床に倒れた少年は口から血を流し、叫び声とも呻き声とも取れぬ声を垂れ流している。

 その近くには欠けた歯が転がっていた。

 舎弟たちは、主人の突然の強行に動くことができない。

 いや、それだけではない。

「敵に媚を売り、ケイトを裏切るとは。友人の風上にも置けない奴だな、お前は」

 彼らは、初めて見たのだ。

 自分たちの主人が、激情に身を震わせる、その姿を。

「し、仕方なかったんだよ! ケイトが逃がしてくれなきゃ、俺も今頃ケイトと同じ目に遭ってたんだぞ!? だいたい、ケイトがあんな目に遭ってたのも、元はと言えば全部お前のせいだろうが!!」

「――――アタシの、せい?」

 カイが口から血をこぼしながら叫んだ言葉に、モニカが反応する。

「そうだよ!! ケイトは、お前をデムロムの館から逃がしたから捕まったんだ! お前がケイトに助けてもらわなかったら、こんなことにはならなかったのに!!」

「それは……」

 モニカの中を、何か冷たいものが降りていくような感覚があった。

 急速に頭が冷えていく。

 それは、少年の言葉の正しさを、モニカが感じてしまった証だった。

「……そう。そうだな。すべてアタシのせいだ。殴って悪かったな」

「あ、ああ。その、なんだ。俺も言い過ぎ――ッ!!」

 カイが、言葉の途中で息を呑む。


「安心してくれ。ケイトはアタシが、必ず助ける」


 舎弟たちも、一切声が出せなくなっていた。


「だが、すまない」


 いや、違う。

 身動きを取ることができないのだ。


「もう二度と、アタシの目の前に姿を現さないでくれないか」


 なぜなら。




「思わず、お前のことを殺してしまいそうだ」




 目の前にいる少女は、これ以上ないほど濃密な殺意を纏っていたのだから。

「ひっ……!」

 モニカの顔を見たカイは思わず後ずさる。

 腰が抜けてしまったのか、そのまま這いながら階段を上っていった。

 後に残ったのは、少女と、彼女の舎弟たちだけだ。

「……行くぞ、お前たち。ケイトを助けに行く」

「は、はい!!」

 有無を言わさぬ迫力で、モニカは静かにそう言った。

 舎弟たちはそれ以上何も言わずに、階段を上っていく彼女に付き従う。

 それ以上の言葉は必要なかった。

 モニカは今、たしかに舎弟たちの期待に応えたのだから。




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