Chapter2-4 囚われのモニカ 7
いつのまにか、半年もの月日が流れていた。
「……はぁ」
椅子に腰かけたケイトが深く息を吐く。
その瞳に映る光は、どこか虚ろだった。
綺麗な木製の椅子とテーブルに、団らん用のソファ。
壁には王城の一室と思われる絵も飾ってある。
モニカ曰く、「値打ちもんだから飾ってる」とのことだが、ケイトにはその手のものはさっぱりわからない。
貧民街の中にしては、彼の周囲にあるものは小奇麗だった。
それもそのはず。
彼がいるのは、貧民街ではなかったのだから。
「お! おかえりなせぇ、ケイトさん! 先に戻ってたんすね!」
階段から降りてきた男が、ケイトに声をかける。
「おかえりケイト。早かったな」
座るケイトに気づいたモニカも、同じように挨拶をする。
どうやら舎弟とモニカが帰ってきたらしい。
「あ、ああ。ただいま……」
普通逆なのではという会話をしながら、ケイトは今までのことを思い返していた。
最初は、モニカがそのか弱そうな見た目のために、暴漢に襲われたのが始まりだった。
そいつは腕は立つものの、気性が荒く厄介者扱いされている男だった。
モニカがその暴漢を一瞬で倒してしまったことで、何かとモニカの周りに集まる人間が増えた。
それも、なぜか男ばかり。
「こいつら、アタシに武術を教わりたいんだとさ。舎弟ってやつだな!」
そう言って、屈強な男たちを侍らせ始めたのだ。
――生まれながらにしての支配者。
やはり、自分たちとは違うのだと、ケイトは感じる。
でも、それは決して悪いものではないとも感じていた。
「デムロム家の血は争えないのかねぇ……」
「ん? なにか言ったか?」
「いや、なんでもねぇよ。モニカも、この半年ですっかり変わったなと思ってさ」
ケイトの言葉に、モニカは首をかしげる。
「……? そうか? そんなに変わってないだろう。まだ半年しか経ってないんだぞ?」
「口調からして変わったけどな……。まあ、昔より感情がちゃんと顔に出るようになったし、いいんじゃないか?」
「……そうか? ならいいんだが」
どこか釈然としない顔をしながらも、モニカはソファでくつろぎ始めた。
この地下室も、家具も、すべてモニカが家を出たときに持ってきた金目のものを売って得たものだ。
いいところが見つからなかったので、実際に購入したのは最近だが。
地下室つきの家は珍しいので、なかなか売りに出なかったのだ。
しかもこの家の場合、部屋が八つもある。
元々は下級貴族が使っていた屋敷らしいが、詳しいことはわからない。
値段も抑えめだったので、何かワケアリなのかもしれないが、追及してもあまり意味のないことだろう。
それよりも、舎弟たちが普通にケイトやモニカと同じ空間で寝泊まりしていることが問題だった。
つい半年前まで、貴族のお嬢様だったというのに、素性もわからない男たちがすぐ近くにいても寝てしまう図太さは、尊敬に値する。
単純に、彼ら程度なら寝起きだろうが何だろうが負ける気がしないというのも、理由の一つではないかとケイトは思っていたが。
「あ、そういや明日の朝のパン切らしてるな……」
食糧調達は、相変わらずケイトの仕事だ。
最近は、モニカが毎月舎弟たちから指導料という名目で金銭を受け取っているので、案外財布に余裕がある。
モニカの周りにも人は増えてきたが、財産はケイトとの共同管理になっている。
そのあたりは、なんだかんだで一番信用されているのだと、うれしくもあるのだが。
「ちょっと買い物行ってくる。夕方には戻るわ」
「はいはい。いってらっしゃい」
モニカの声を背に、ケイトは出かけた。




