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Chapter2-3 囚われのモニカ 6



 それから、モニカはケイトから、いろいろなことを教わった。


「広場の時計塔はな、朝の六時と昼の十二時、夜の六時になるといい音を鳴らすんだ。近くにいなくても、その音でだいたいの時間がわかる」


 デムロムの中心部にある、広場のこと。

 その広場の中央にある、大きな時計塔のこと。


「ここが大門通りだ。いろんな店が並んでる。食料もいっぱいあるけど、人の目も多いから、ここで食糧調達するときは注意が必要だぜ」


 デムロムの出入り口、大門の前に広がる、大きな道。大門通りに所狭しと並ぶ、出店の数々のこと。

 そこで売られている、モニカが今まで見たことも聞いたこともない、品々の数々。


「あそこのオレンジ屋のオヤジはよく居眠りしてるからねらい目だぜ。一個ぐらいなら通りすがりに取っちまえば全然ばれねぇ」

「あそこの肉屋は、朝、裏口に前日売れ残った廃棄肉を捨ててるんだ。出てくるところを狙えば貴重な肉にありつけるぜ」

「あの家のじいさんは耳が遠いんだ。だからたまにバレないようにこっそり忍び込んで、金目のものをいただいていく」


 モニカが何かを見るたびに、ケイトがそれについて解説してくれる。

 ケイトのようなただの子どもがこの街で生きていくためには、まともではない手段でものを手に入れるしかない。

 それは基本的に盗みであったり、人が捨てるマシなものを拾うことだ。

 この街は、ケイトのような子どもにとって、決して居心地のいい街とは言えなかった。


「ここのあたりが貧民街……オイラたちが住んでるところさ」


 ケイトに案内されたのは、デムロム北部に位置する地域。

 全体的に建物が古く、今にも崩れそうな様相を呈している。

 本当に人が住んでいるのか疑わしいが、ケイト曰く普通に住んでいるらしい。


 通称、貧民街。

 低所得者、定職に就かない者、ケイトのような浮浪児、そういった行き場のない人たちが集まった場所だ。


「ここは元々、デムロムの鉱山夫たちが住んでた場所なんだ。ほら、あっちにでっかい山があるだろ?」


 そう言ってケイトが指さした方には、たしかに巨大な山が見える。


「あれがデムロム銀山。元々ここは、ランデアの中でも銀の名産地だったんだぜ。鉱山が枯れてからは、ここは居場所がなくなった奴らのたまり場になっちまったらしいけどな」


 「元鉱山夫のオッサンが言ってたんだ」、とケイトは語る。

 その歴史は、モニカも知識だけは知っている。

 もっとも、鉱山夫たちが住んでいた場所が貧民街になっているというのは知らなかったが。

 本から得られる知識だけでは、世界のことはわからない。


「……ケイト」

「ん?」

「つれてきてくれて、ありがとう」


 話を聞くだけではない。

 実際にそれを見て、聞いて、感じることができる。

 それがとても幸せなことなのだと、モニカは初めて知った。


「何言ってんだ。これからもっともっと、いろんなことたくさん教えてやるんだからな。楽しみにしとけよ!」

「うん!」


 モニカは笑っていた。

 心の底から、楽しいと思った。

 それは彼女が、初めて心の底から笑った瞬間だったのかもしれない。


「これからもよろしくな、モニカ」

「うん。よろしく、ケイト!」


 こうして、モニカは貧民街の一員となった。


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