Chapter2-3 囚われのモニカ 4
それは、モニカがいつものようにべリガルに稽古をつけてもらっていた、ある日のことだった。
べリガルに打ち込まれる木剣の一撃を、同じ木刀でいなしていく。
最初は全身を痣だらけにするだけだったこの鍛錬も、今は直撃を受けることの方が少なくなっていた。
「…………」
剣の軌道が見えれば、対処のしようもある。
それでも一日中そんなことをやっていたら、疲労や不注意から何発か貰ってしまうのは仕方のないことだろう。
だが、その日は違った。
まるでそれが最適解であるかのように、べリガルの木剣に自分の木剣を重ねていく。
べリガルの攻撃を防ぐたび、激しい音が響く。
一撃ももらうことなく、モニカはべリガルの剣撃をいなし切っている。
「……なるほど」
そんな弟子の変化に、べリガルも気付いたのだろう。
モニカに対して、いつになく激しい剣撃を繰り出してくる。
「っ……!」
木剣と木剣がぶつかり合う。
力で劣るモニカは、剣と剣の力比べをするわけにはいかない。
受けては放し、受けては放しを繰り返す。
「ですが、逃げてばかりでは敵を仕留めることはできませんよ」
べリガルが仕掛けてきた。
モニカにもそれがわかった。
速度も、力強さも、これまでとは違う。
だから。
「――――ッ!」
べリガルの剣を、全身を大きく捻って避ける。
「な――」
その勢いを殺さずに、べリガルが木剣を持つ手に一撃を放った。
べリガルの木剣は宙を舞い、あらぬ方向に飛んでいく。
呆然とした様子のベリガルに、モニカは木剣を突きつけた。
「――――」
モニカ自身が、一番驚いている。
模擬戦とはいえ、べリガルを追い詰められたことに。
「……なるほど。どうやら、壁をひとつ乗り越えられたようだ」
べリガルは深く息を吐く。
その心中がいかなるものかは、モニカにもわからない。
だが、存外嬉しそうな表情をしていた。
「おめでとうございます、モニカ様。今日でこの訓練は終わりにしましょう」
「え? ほんとに?」
「もう必要ないでしょう。明日からは中庭ではなく、地下牢にいらしてください。新しい訓練を始めます」
地下牢。
それはデムロム家、次期当主候補のモニカでも、立ち入ることを許されていない場所だった。
中に何があるのか、どうなっているのか、いまだにモニカは知らされていない。
「新しい、訓練……?」
「ええ」とべリガルは頷き、
「モニカ様には明日から、人を殺していただきます」




