Chapter2-3 囚われのモニカ 2
「よう。昨日ぶりだな」
翌日の夜。
いつものように鍛錬でボコボコにされたモニカの前に、再びそいつは現れた。
「……何しに来たの?」
「別に何も。心配しなくても、もう何か盗んだりしようとか思ってないから安心しろよ」
「そう。よかった」
モニカが安心したのは、少年が再び狼藉を働いた場合、この部屋の絨毯を新調しなければならなくなるからだったが。
言わぬが華だろう。
「昨日も気になってたけど、痣だらけだな。大丈夫なのか?」
「いつものこと。稽古をつけてもらってるけど、まだ攻撃の全部は防げないから」
力がついてきているのは、昨日の少年との邂逅でも感じている。
そう遠くないうちに、すべての攻撃を防ぐこともできるようになるだろう。
その後、どういう訓練が待っているのかは、あまり想像したくないが。
「虐待じゃないのか、それ……」
「ギャクタイ?」
「知らないか? 親が子供に暴力を振るうことさ。オイラの仲間たちの中にも、そういう奴らけっこういたぜ」
「……ギャクタイ、かも、しれない」
正確に言えば、暴力を振るっているのは親ではないが。
それをよしとしている以上、似たようなものだろう。
少年はモニカの様子をじっと見つめていたが、やがて視線をそらした。
「そういえばさ、考えたんだ。昨日のお礼。とは言っても、オイラがアンタにあげられるものなんて、なにもねえ」
「……あるよ。あなたがアタシに、あげられるもの」
「ほんとに? なんだよ。言ってみろよ」
訝しげな顔をする少年に、モニカは言った。
「……外の、おうちの外の話を、してほしい。ここから出たこと、ないから」
「……え? マジで? 一度も?」
こくんと、モニカは頷く。
モニカはこの館から、一度も出たことがない。
十五歳になるまで、デムロム家の人間は外出することを禁じられている。
それはこれまで何があっても守られてきた、デムロム家のしきたりだ。
「……まあ、アンタがそれでいいってんなら、いいぜ。いくらでも話してやるよ。命の恩人だしな」
少年はどこか複雑そうな顔で、だがはっきりと了解の意を示した。
「そういえば、お互い名前も名乗ってなかったな。オイラの名前はケイト。アンタは?」
「……モニカ」
家名は言わなかった。
相手もわかっているはずだし、何よりそんなものは必要ないと思ったからだ。
これが、ケイトとモニカの関係の始まりだった。




