Chapter2-1 聖女さま、訝しむ 5
「……負けました」
盤面を眺め、アレクは降参を宣言した。
久しぶりにプレイしたにしては、接戦に持ち込むことができたと思うが、ずっと遊んでいる者に勝つのはなかなか難しい。
「ふう。ありがとう、フレッド。楽しかったよ。また機会があれば一戦交えたいものだね」
「是非お願いいたします」
とにかく、これでベルたちをデムロムに招き入れることができる。
アレクの胸を安堵感が包んでいた。
だから、油断してしまったのだ。
「ところで君は、『聖女』という存在について、なにか心当たりはないかな?」
「――――」
その言葉を聞いた瞬間、アレクの頭は空白に塗りつぶされた。
なぜ。
どうして。
こいつが、ベルのことを知っているのか。
疑問の言葉が脳内を廻る。
「……『聖女』?」
咄嗟に出たのは、問いかけを繰り返す言葉だった。
「うん。探してるんだ。もう、すぐそこまで来ているような気がするんだけど。なかなか姿を見せてくれなくてね」
少年の物言いはどこか妙だった。
ベル個人のことを知っているというよりは、『聖女』という存在を探しているかのような――。
「よかった。知っているみたいだね」
「――――」
目の前に座る少年の顔が、変わっていた。
穏やかなものから、獲物を目の前にして舌なめずりをする、悪鬼のものへと。
「な、なんのことかわからないのですが」
「とぼけても無駄だよ。『聖女』の単語を出した瞬間、君はほんの少しだけ驚いたよね。ああいう反応は、心当たりがなかったら絶対にしない」
悪鬼は左手でテーブルを思いきり投げ飛ばし、アレクに肉薄する。
駒が床に落ち、乾いた音を響かせた。
「ポルダ攻略をアリアに任せて休暇を取ったはいいんだけど、本当に退屈でね。ちょうどいい暇つぶしができそうだ。神様がボクに遣わしてくれたのかな?」
「な、なにを……」
目の前に立つ少年の存在感が増していた。
決してただの人間が出していい威圧感ではない。
視線をそらすことができない。
「暇で暇で仕方なかったんだ。ああ。本当によかった」
当然のことだ。
目の前に迫る脅威に対して、どうして目をそらすことができるだろうか。
「一緒に来てもらうよ、フレッド。君には聞きたいことが、まだまだたくさんあるからね」
そう言って、白い少年は陰惨に笑った。




