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記憶を失くしても、勇者になって世界を救っていいですか?  作者: うえだじろう
第一章 『始まりの一週間編』
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第一章幕間 『真朱の魔法使い』




「はあ……はあ……。」


 赤いフードを深く被った少女は林道を走っていた。右足からは赤い血が流れており、白のニーソックスを血で汚しているが、痛みをこらえ必死になって走る。


 すべては後ろから追ってくるあの男から逃げるために。


「おぉーい。どこまで行くんだよぉ。お前よぉ?そんな目印まで丁寧に残してくれてる癖にぃ、逃げられるわけねぇだろよぉ!」


 男の声に耳を傾けることなくただ道を進む。


 ――まだ、ここでは死ねません。やらなきゃいけないこと、たくさんあるんです。


 身体を全力で酷使する。足が悲鳴を上げ続けているが、自分も痛みに耐えているのだから我慢してくれと自分に言い聞かせながら走り続ける。



 ―― 一時間前 ――



 きょろきょろと辺りを見回し、周りに誰もいないことを確認し、頭に覆っていたフードを外す。


 鞄に入れておいた両手ほどある大きな地図を広げ、目的地を確認する。


「えっと……リマジ村はこの道をまっすぐ……ですよね。」


 昨日宿を出る時に赤く印をつけておいた村までの道を確認すると、またフードを被り歩みを進める。


「久しぶりですけどあの子、私のこと覚えていてくれてるかな。」


 昔母親と村を訪れた際、仲良くなった名前を知らない少年の顔を思い浮かべながら一歩一歩、歩いていく。


 一日前ランブルグに立ち寄った際、宿屋で冒険者の男たちが村の近くに魔物が集まっていると喋っていたのを聞き、城郭都市ランブルグからリマジ村までは徒歩でおよそ一日と少しかかるが、自分と仲良くしてくれた人たちの危機に駆け付けずにはいられなかった。


「無事だといいんですけど……」


 少女は一人、林道を進んでいく。


 風に揺られ木の葉がカサカサと音を鳴らす心地の良い空間。だが僅かな違和感を感じた。何やら道が静かすぎる。


 本来ならばリマジ村の近くにランガ村という村の農作物などを近くの町や村に運ぶ行商人が通るはずなのだが、先程前から歩いてきた少年を最後に一切出会っていなかった。


 街を出る前に聞いたことが脳裏をよぎる。


「まさか魔物に襲われて……。早くいかなきゃ!」


 急いで走り出す。


 少女の感は昔からよく当たった。しかし今回は良いものではなく悪いもの最悪の事態が次々と脳裏に浮かぶが無理矢理振り払いながら走る。


 すると前から一人、男が歩いてきていた。


 赤い髪形を短く整え、槍を一本持ち、全身を革の鎧で身を包んだ何やらけだるげな様子の男。


 男の横を通り抜けた瞬間、呼び止められた。


「なぁ、嬢ちゃん。この先になんか用なのかぁ?」


 他人から見ればそれはなんてことはない、ただの会話に過ぎないのだろうが少女は違った。


 本能が警鐘を鳴らした。全力で逃げろと。


 少女は昔から危険な人間とよく出会うことがあった。その影響で自分に対して害意のある人間がわかるまでに感覚が研ぎ澄まされていた。


 その感覚が告げているのだ、全力で逃げろと。


 何も答えずに走り出す。


 ――っ!?


 走り出した矢先、突然右足が思うように動かなくなり、強烈な痛みの感覚が脳を襲い、しまいには転倒してしまった。


 右足を見ると下腿(かたい)から血が流れ始めていた。何かで撃ち抜かれ貫通していた。


 ――っ!?なにが起きて!?


 怪我自体は回復薬ですぐ治せるからよいものの、原理がわからない。


 弓によって射られたわけでも、銃によって撃ち抜かれたわけでもない。


 ――一体何を。まさか魔法……魔狼のように風の弾を飛ばした!?


 決して走ることなどせずにゆっくりと男が近づきやってくる。


 すぐに立ち上がり、男との距離をとろうとしたその時――


「……はぁ。おいお前さぁ、人が質問してんのによぉ、無視すっことあっかよぉ?なぁ?」


 槍で地面をコツンと叩いた。


 突然の突進を警戒し、後ろに飛ぶと、地面を炎の柱が突き上げた。その衝撃で後ろに身体を大きく吹き飛ばされる。


「ぅきゃ!」


 尻から石畳の地面に突き落とされ、腰が悲鳴を上げるがすぐに立ち上がり、一歩でも多く男から距離を取ろうと走り始める。


 ――火属性と風属性の二種属性持ちなんて今のままじゃ勝てるわけない。魔法は今の時間じゃまだ使えない。少しでも暗いところを見つけなきゃ。



 ―― 現在 ――



 右足から響く激痛に耐えながら必死に逃げていると目の前から一つの馬車がやってくるのが見えた。


 ――まずい、このままだと巻き込んで……!


「おいおいおいおい、っへへ。良いことってのは続くもんだなぁ?朝早起きしといてよかったってよぉ、お前もそう思うだろぉ?」


 もう退路は断たれた。今目の前にある選択肢は三つ。


 何もやらずにむざむざと殺されるか。


 男を馬車に押し付けてその間に逃げる。


 そして男をここで倒す。


 ――そんなの決まってます。もう無理にでも倒すしかないじゃないですか!


 幸い森の木々が太陽の光を遮り、辺りに日陰を作り出してくれていた。


 これなら戦えると、腰に挿していた掌二つ分ほどの長さの杖を取り出し、男へ向ける。


「警告です。それ以上近づいたら私はあなたを攻撃します。」


 なおも男の足取りは止まることなくこちらに近づいてくる。


「警告はしましたよ!」


 杖で正面に向かって素早く円を描き円の中心に杖を合わせ魔力を流し込む。


「あのよぉ、なんでお前が上だってことがぁ前提なんだよ、違う違う違う違う。俺だよ、上は。」


 そう言うと再び槍で地面を叩く。


 炎の柱を身構えた瞬間少女と男の間にそれは出現し、一瞬の内に少女の右側へと回り込んでいた男の蹴りが脇腹に直撃し、林道の左右にあった木に勢いよく叩きつけられる。


「――っかは!」


 たった一撃の蹴りで意識を刈り取られ、闇へと落ちていく。


 意識を失った少女を前に、男は狼のような獰猛な笑みを顔に浮かべる。


「まぁ、まずはでっけぇほうから頂くのがぁ、礼儀ってもんだよなぁ」


 馬車の方に身体を向け前に進み始める。忘却の騎士と銀の風がいる馬車とは露知らず、進んで行く。



16時頃に投稿します。

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