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第4話 装置を作れ!


 2人がクイーンシティに戻ると、まだルエラは異界へ帰っていなかった。


「ルエラさん! ああ良かった、帰ってなかったんですね」

「もちろんよお。で? 何か収穫はあった?」

「はい」

 明るく言う泰斗に、それに何よりR4の移動部屋から降りてきたことに、ルエラはじめクイーンシティの面々は本当に安心していたのだ。


「言霊を乗せる?」

「はい、呪文……って水瓶の護りは言っていたけど、キーワードみたいなものだと思ってくれれば良いです」

「コンピューターの中の、パスワード的な」

 2人の説明に、ルエラはふむふむと頷いている。

「問題はけっこうあるんです。まず、記憶はバラバラにした時点でどこかへ飛び散ってしまう。だからそれを捕まえておく、っていうか、飛び散らないような部屋というか装置がいります」

「なるほどね」

「それから、記憶がバラバラになっても、キーワードでうまく集まってくれるかの実験もしなくちゃならないんです」

「そっちは私たちの力量が試されるって訳ね」

「私たち?」

 泰斗が聞き返すと、ルエラは後ろにいたラバラ、ステラ、ララ、ナズナを振り返る。

「さすがの私も、ざっと200年分の記憶は荷が重いわよ」

「200年分?」

「そうよお、もう、R4ったら、言うに事欠いて200年分ですって。自分が忽然と現れたのは、確か200年ほど前だったとか言って。ホントかしら」

 これには泰斗も鈴丸もあきれるほかはない。

 けれどそれをあっさりと引き受けられるルエラも相当なものだ。ただ、他のメンバーがこれまた大変そうだ。

 思わずラバラたちの方を見た泰斗に、ラバラが答える。

「ほんにやっかいなヤツよの」

「わ! す、すみません」

「許してあげて下さい!」

 ぺこんと下がるふたつの頭を、可笑しそうに見守る魔女たち。

「大丈夫よ」

「大変そうだけど」

「ルエラの魔術が見られるなら、ねー」

「「ねー」」

 今度はお互いに顔を見合わせて微笑みあうステラ、ララ、ナズナ。

 ラバラ以外の3人はとても楽しそうだ。



 そこからいよいよ装置の製作が始まる。

 まず決めなければならないのは、装置の設置場所。

 けれどそれは案外簡単に見つかった。

 女子5人が快適に過ごせて、適度な広さと設備が揃っていて、警備も万全と言えば。

「王宮以外、ないでしょう! なんてったって、バスルーム付き客室完備。いざというときは、近衛隊、ハリス隊の護衛がついております! 今だけのお買い得です!」

「なんたらショッピングの回し者なの? 丁央って」

「んなわけあるか! けど王宮にはそれなりの研究施設も図書も揃ってるし」

「まあそうだけど」

「それに、俺もちょくちょく覗きに行けるし」

 丁央には、そっちが本音だろう。

 ただ、丁央の言う事ももっともなので、王宮の、図書館に近い大きめの一室が装置の設置場所に当てられた。他には寝泊まりしたり炊事したりする部屋もいくつか用意してくれている。


 鈴丸は今回、とりあえず泰斗の相談に乗って、そのあとはすぐにネイバーシティへ帰ろうと思っていたのだが、装置の製作に俄然興味がわいてしまい、ソラ・コーポレーションに許しを得て、こちらの科学班に入れてもらえる事になった。

 科学班とは、文字通り科学の力で今回のミッションを進めて行くチームのことだ。


 もう一つは、魔術班。

 こちらは言うまでもなく、魔術の力でミッションを進めて行く、ルエラとラバラが率いる魔女5人のチームだ。

 ただ、魔術班は装置が完成するまであまりすることがないので、ナズナはいったんネイバーシティへ帰ることにした。

「ここしばらく、クルスひとりにバトラーの仕事任せっぱなしだったから」

 と言う理由で。

 すると、なんとララも一緒にあちらへ行くという。

「琥珀に里帰りさせてあげたくて。で、どうせなら私もついて行っちゃう」

 と言う、なんとも微笑ましい理由で。

 琥珀を入れた3人が旅立ったあと、本格的な装置の製作が始まった。



 設計に関しては、「ハイ! 俺がやります!」と、丁央が手を上げた。

「お前、公務の方は大丈夫なのか?」

 心配する遼太朗に、丁央はドンと胸を叩いて言う。

「当たり前だ。って言ってるけど、実は今の時期はけっこう暇なんだ」

「そうか」

 実際この時期は、公務と公務の狭間のようにぽっかり時間がとれる時期らしい。

 それでも時間は限られているので、丁央は効率よく科学班と連絡を取り合って仕事を進めていく。その甲斐あって、公務が忙しくなる前に設計図はなんとか完成した。

 あとはそれに基づいて実物を作成するだけだ。外側は科学班建設チームが請け負う。

 難しいのは内部構造だ。

 一番小さな単位レベルのものを、ひとつも取り逃がさないように。

 この開発は、以前、空間移動装置の内部構造を作り上げた泰斗が中心になって行っている。鈴丸は泰斗チームで同じく研究開発を。チームにはナオもいて、研究のほか、寝食を忘れる泰斗の健康管理を担っている。



 そんな科学班と並行して、ルエラとラバラは魔方陣の製作にいそしんでいた。

 難しい魔方陣であるはずなのに、ルエラはなんだか楽しそうだ。

「ふふ」

「どうしたのじゃ?」

 いぶかしげに聞くラバラに、ルエラが言う。

「その昔、うーん、100年くらい前かなあ。まだ若くて青臭かったロアンと、こうやって魔方陣作ってたの。あのときはくだらない戦闘ばっかりで、その魔方陣も仲間を助けるためだったけどね」

「ほう」

「で、今作っている魔方陣は、たかがロボット、……って言ったら泰斗に怒られるわね」

 可笑しそうに笑ってルエラは続ける。

「たった一体のロボットのお願いで、こんなにたくさんっていうか、国王まで巻き込んで皆が動き出しちゃうんだから。なんなのかしら、この次元」

「ははは、そんなしょうもないことを思っておったのか。そんな事ここでは当たり前じゃ。それに、あいつはたかがロボットじゃけど、されどロボット、じゃよ」

「されどロボット、ね」

「それに、この企てが成功したあかつきには、クイーンたちはきっと大騒ぎじゃろうよ。クイーンはお祭り好きじゃからの」

「ええー? まあ、わかんないこともないけどね~」

 実はこのときすでに、旧市街の水面下では、クイーンたちがお祭りに向けて着々と準備を進めていたのだ。

 まだ出来上がってもいない装置のために?

 もし万が一、出来ずに終わってしまったら?

 けれど、誰ひとりそんな事は考えていない。皆、彼らを信じている。それがクイーンシティの、クイーンなのだ。


「さあーて、だったらその心意気に応えるために、もうひと頑張りしましょうか」

「うむ、そうじゃの」



 そして、ほぼ当初の予定通りに装置は完成した。

 どこから情報が漏れたのか、その日旧市街では花火が打ち上げられ、クイーンたちは大騒ぎだ。

 連絡を受けたナズナとララも、ネイバーシティから帰っていた。


「さて、じゃあとりあえず、魔方陣のテストからね」

 どんな機械もあらゆるテストを繰り返して完成していく。

 特に今回のこの装置は密閉性が群を抜いているため、ひょっとして魔方陣も通さないかもしれないからだ。

「ルエラ、おまえさんの魔方陣が通らないのかの?」

「うーん、泰斗が作ったからねえ、ひょっとして、よ」

 装置は筒型で、中は二重構造になっている。外側には人が入れるようになっていて、記憶データを中の密閉室に設置して扉を閉じる。

 すると、シュッと音がして、閉じた扉のつなぎ目までが消えてしまうのだ。この技術は、空間移動部屋を作るときに泰斗が開発したものだ。

 サンプルの、何も記録されていないカードを入れて、実験は始まった。


「では、魔方陣実験、はじめまーす」

 装置が置かれている床には、あらかじめ魔方陣が敷かれている。

 その四隅に立つ、ラバラ・ステラ・ララ・ナズナ。

 向こう側にルエラが立っている。

「はーい、じゃあ行くわねえ」

「「はい!」」「OKです」

 ルエラは半眼になって何かを口の中で唱え始めた。

 そして広げた手を、円を描くようにあげていく。すると装置の上にもう一つ魔方陣が浮かび上がった。

「おおー」

 コントロールルームでそれを見ている科学班から声が上がる。

 ルエラが手を下げていき、回りの4人が手を上げていくと、魔方陣もそれに併せて動き出し。

 ちょうど装置の真ん中、カードが置かれている地点で重なり合う。

 そしてまた魔方陣は上下に分かれて元に戻っていった。


 一連の動きを見ていた科学班は、天の魔方陣が消えると、ほお~、と息を吐き出す。

「いつ見てもすごい、っていうか、素敵だね」

「うん」

 鈴丸がちょっと感激したように言うと、泰斗も頷く。

「さて、科学班の皆様、感心していないで、中のカードを取り出してくださるかしら?」

「あ、はい!」

 ルエラの言葉で我に返った科学班が、急いで装置の中へと入っていった。


「どうですか?」

 取り出されたカードは、5人が順に受け取って何かを確かめている。

 心配そうに聞く泰斗に、彼女たちは嬉しそうに頷いた。

「さすがだわあ」

「ねえ、ルエラなら大丈夫だと思ってたもの」

「え? じゃあ」

「おお、魔方陣の力はきっちりカードに影響しておる」

「ああ、良かったあ」

 胸をなで下ろす泰斗たちだったが、実験はここからだ。実際に記憶を入れたカードで試す必要がある。

 ルエラが考えるように言った。

「いきなりR4の記憶って訳にはいかないから、何かサンプルになるような記憶、記録が欲しいわねえ」

「サンプルというと?」

「そうねえ、誰に見られても良くて、キーワード録音にも協力的な感じの?」

「誰に見られても良い記録……」

「あ、ありますよ!」

 そこで声を上げたのがナオだった。

「国王と王妃の結婚式なんか、どうですか? キーワード録音も進んでやってもらえそうだし」

 なんだか楽しそうなナオに、顔を見合わせるメンバーだった。


「月羽と俺の結婚式? もちろん、いつでもどこでも、誰に見られても大丈夫! どうせならクイーンシティはもとより、ダイヤ国の人たち全員にも配りたい記録ですよお」

 俄然張り切る丁央。まったく、この国王と来たら。

「えっと、キーワードの録音なんかは……」

 自分が言い出したにもかかわらず自分よりテンションの高い丁央に、多少引き気味になりながら、ナオが聞く。

「もちろんOKです。あ、でもそれって俺が考えても良いんですよね?」

「え?」

 思わずルエラを振り向くナオに、ルエラは親指など立ててみせる。

「どうぞご自由に」

「はい!」

 今度は丁央が楽しそうだ。


 そして、カードに言霊を乗せる実験が始まった。


「では行きます。準備は良いですか?」

「えっと、魔女班はいつでもOKよ」

「俺もいつでも大丈夫です」

「わかりました。では、スタート!」


 前と同じように、魔方陣が天と地から近づいていく。

 それが合わさったところで、丁央がキーワードを力の限り、叫んだ。


「月羽! 愛してるぜ!」


「は?」

「へ?」

 本日の実験には、もちろん月羽も見学に訪れていた。だがその予想だにしなかったキーワードに、月羽は思わず叫んでいた。

「丁央!」

「え? あ、ち、ちょっとストップ」

 ぽかんとしていた科学版が慌てて装置を止める。

 ララが、うずくまって笑い出したからだ。

「アハハハ、やだあ国王ったら、面白すぎ~」

 他の面々も苦笑したりあきれたり。

「ほんに、わしらの想像の先を行くな、丁央は」

「うーん、でも、愛の力は偉大かもよー」


 そのあと丁央が、月羽に散々叱られたのは言うまでもない。

「なんであんな目茶苦茶恥ずかしいセリフをキーワードにするのよ! もう!」

「だって結婚式だぜ。俺たちの愛の始まりだぜ」

「それが恥ずかしい!」

 でも丁央は、どうしてもキーワードを変えるつもりはない、と宣言したので、この後の実験に月羽が立ち会うことはなかった。



 月羽がプンプン怒って帰ってしまったあと、改めて実験は再開される。


「月羽! 愛してるぜ!」

「月羽! 愛してるぜ!」

「月羽! 愛してるぜ!」

 いやそれは、十分わかってますって。

 科学班と魔術班もそろそろゲンナリし始めたセリフがこだまする。

 何度も、何度も。


 けれど、どんなに実験を繰り返しても、カードに呪文としての言霊が乗ることはなかった。









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