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第3話 集める力


 鈴丸が泰斗の相談を受けてクイーンシティにやってきたのは、それから2日ほどあとの事だった。

ヴィンヴィン

 と音がして、旧市街の外れに次元の出入り口が現れる。まばゆい光の中から、ちょっとまぶしそうに目をしばたたかせて、鈴丸がやってくるのが見えた。

「泰斗、久しぶり~」

「うん、ごめんね。忙しいんだよね」

「忙しかった件は、やっと片付いた。で、俺は今、とっても暇なんだ」

「ふふ、ありがとう、鈴丸」

「どういたしまして。じゃあお礼なににしようかなあ」

「なんだ、それを期待して?」

「あたりまえ~」

 笑い合いながら、ちょうどやってきた一角獣と戯れ始める2人。

 いつでもどこでも、この2人はなんとも可愛いのだ。



 そのあと一角獣に頼んでロボット研究所まで乗せてもらい、ジュリーの熱烈歓迎の洗礼を受けたあと、2人は研究室をひとつ借りてこもっていた。

「うーん、あっちの世界では、コンピューター本体の他には〈雲〉って言うのに預けるんだけどね」

「雲?」

「うん。あ、そうか、こっちは雨が降らないから、雲もないんだよね。ネイバーシティには、空に白くてふわふわしたのが浮かんでるよね。あれが雲」

「へえ、これが解決したら見に行くよ。白くてふわふわしてるんなら布団みたいなもの? 乗れるの?」

「へ?」

「どしたの?」

「いやあ、さすがに乗れないよ。乗れれば面白そうだけどね」

 雲と言っても本当にデータを雲に預けているのではない、そう言う紐付けされたものに一時的に保存しているだけなのだ。ただし、厳重なセキュリティを施していても、開いてしまえば記録はすぐに見ることが出来る。

「リトルみたいに、呼んだら集まってくるって言うのだったら良いのにね」

「あ! そうか! 呼んたら集まる、そう言う装置を……」

 鈴丸が不用意に漏らした一言に、また心ここにあらずになりかけた泰斗を必死で引き戻す。

「泰斗~、一番小さなレベルまで分解するんだよねえ、そんな装置どうやってつけるのさあ~、そもそも作れるの~」

「あ」

「ああ、あっちへ行ってしまう前で良かった」

「ごめんごめん、でも、ホントにリトルみたいに意思があればいいのに」


 なかなかに話はすすまないようだ。

「なんか煮詰まっちゃったね。こういうときは散歩でもするに限る、だよ」

「なにそれ、時田さんみたい」

「そう。でも時田さんの言う事って間違ってないと思うよ」

「あ、それは言えるね。じゃあ、散歩にでも行きますか」

「行こう!」

 やはり何をするにも、この2人はとても可愛いのだった。


 研究所を出て、どこへ行くとも言ってないけれど、2人の足は自然に天文台のある方角に向く。

「トニーさんと時田さんに会えたら良いね」

「うん」

 そんな淡い期待をしていたのだが、あいにく彼らはその日、ダイヤ国へ行っていて留守だった。

 仕方なく天文台を眺める2人。

「そう言えば、水瓶の護りは元気にしてる?」

「うん、ちょっと前に会いに行ったら元気だった。でもなんで?」

「天文台見てたら、琥珀さんが持ってきた望遠鏡を思い出した」

「ああ、それもまだ置いてあったよ」

「へえ、じゃあ俺もまた望遠鏡見に行って、水瓶の護りにも会いに……、あ!」

「どうしたの」

「水瓶の護りに聞いてみたら?」

「え?」

「この次元の水は宇宙から集めるんだよね。水は無機質だから、リトルみたいに呼べば来てくれるってものでもないし。だったらどうやって集めてるんだろうって、ふと思ったんだよね」

「鈴丸忘れてるよ。あの水は、リトルダイヤが集めに行ったんだよ」

「ああ、……けど泰斗が軌道を変えたあの水の塊。あれはリトルじゃなかった、ような気がするんだけど」

「あ……」

「もしリトルが集めに行ったとしても、あれだけ多くのリトルをどうやって動かしたんだろう」

「……」

 考えていても埓があかないと思った2人は、水瓶の護りに会いに行くことに決めた。

 早速研究所に取って帰る。


 しかし、そこにはハグハグ魔王のジュリーがいた。

「あ、ジュリー先輩、僕、これから水瓶の護りのところへ行きたいんですけど」

「なんだってえ」

 そう言いつつ、また2人まとめてギュウギュウしてくるジュリー。

「先輩、離して下さい!」

「お、俺も~ぐるじい~」

 そして悲しいことに、いつもは引っぱがしてくれるはずのナオも出かけている。

「泰斗くん、君には先ほど、この急ぎの仕事を任せたばかりだよ」

「あれ、そうでしたっけ? どれですか」

 ジュリーから受け取った仕事を、横から眺める鈴丸。

「泰斗、俺も手伝うよ。これなら2人でやればすぐに終わるよ」

「うん、ありがとう鈴丸」

 そして2人は本当に、あっという間に仕事を終わらせる。

「「出来ました!」」

「どれどれ? わあホントだ、もう出来てる」

 驚くジュリーに顔を見合わせて笑い合う2人。

「うーん、出来ちゃったのかあ。じゃあしょうがない、行っといで」

「「ありがとうございます」」

 声を揃えてお辞儀した2人は、研究所を飛び出していく。


 玄関前にはダブルリトルが2台待機していた。

 泰斗がそちらに向かうので、鈴丸が不思議そうに泰斗に聞く。

「あれ? R4を呼ぶんじゃないの?」

 すると泰斗は、うつむいて小さく返事する。

「……うん、今回はR4が深く関わってるから」

「そっか」

 喧嘩でもしたかな? まさかね。気持ちの行き違いとかかな。

 実際、このときの2人には、気持ちのずれがあった。

 泰斗には決して言えない事を、泰斗の力を借りてでしか行えない後ろめたさを感じているR4と、自分はそんなにも信頼されていなかっただろうかと、ぐすぐす考える泰斗と。

 寂しそうに言う泰斗の背中をポンと叩いて、鈴丸はダブルリトルに乗り込んだ。



 R4の移動部屋も使えない、トニー&時田の天文台型移動部屋も使えない。

 それなら、拠点を飛んでいくしかない。時間はかかるけれど。

 ダブルリトルで王宮広場の拠点に降り立った2人は、まず第一拠点へと空間移動を始めるのだった。


 だが、天が2人に味方したようだ。

 ダイヤ国の拠点に、仕事を終えたトニー&時田がいたのだ。天文台型移動部屋とともに。

「お、泰斗じゃねえか、鈴丸も」

「鈴丸は久しぶりだね」

「トニーさん! 時田さん!」

「お願いがあるんです!」

 必死にすがる2人に、何事かと訳を聞いたトニー&時田は、二つ返事で天文台型移動部屋を動かしてくれると言った。

「「ありがとうございます!」」

「おお、良いって事よ。けど、これでお前さんに貸しひとつだな。だからさ、取り入ってお願いがあるんだが」

「わかりました。無事にR4の願いが叶ったら、時田さんの方の願いも叶うよう頑張ります」

「頑張るだけってか」

「だってあのR4ですよー」

 鈴丸がいかにも難しそうに言うので、さすがの時田も大笑いするしかないのだった。


フィン

 涼やかな音を立てて、天文台型移動部屋は世界の果てへとたどり着く。

「まあ何はともあれ、頑張りな」

「2人なら、きっと出来るよ」

「ありがとうございます」

「助かりました」

 2台のダブルリトルが砂嵐の中へ消えた後、天文台型移動部屋もまた、静かに虚空に消えて行った。




ザザッ

 砂嵐を抜けた泰斗がダブルリトルを降りるが早いが、もうロボットが隣に立っている。

「ふふ、相変わらず早いね。お迎えありがとう」

「いつ見ても、感動する早さだね」

 そう言う鈴丸の隣にも、いつの間にかロボットがいる。

「え? 俺も? うわあ嬉しい~」

 両手を取ってホワンホワンと振る鈴丸に、心なしかロボットも嬉しそうだ。


サア

「2人揃っては久しぶりだ。よく来た」

 涼やかな風と共に、やはりそこに水瓶の護りが立っていた。

「こんにちは」

「お久しぶりです、お邪魔します」

「ああ」

 案内されるまま進んでいくと、どんどんロボットが集まってくる。

 2人はロボットたちと手を繋いでは離し、繋いでは離しを繰り返しつつ水瓶の近くへとやってきた。

 最初の頃は大混乱だった泰斗の取り合い? も、規則をきちんと取り決めて、今は嘘のように静かな歓迎だ。

 ただ、あの彼らは別。

 手に乗って順にあいさつを交わす光景を見ると、鈴丸はいつでも息をのむ。

「お前も乗って良いそうだぞ」

「ええー? 本当ですかー?」

 冗談だと思っていた鈴丸は、いきなり差し出された大きな手に圧倒されて後ろへ下がってしまう。

「大丈夫だよ、鈴丸。この子たちホントに優しいんだよ」

「う、うん」

 とはいえ、実は鈴丸も乗ってみたかったのだ。

「ああ、本当だ」

 確かに、この手の上は、ロボットとは思えないような安心感が感じられる。大きく頷く鈴丸を見て、泰斗もとても嬉しそうにしていた。


「それで? 今日は何の用だ」

 ひととおりの歓迎が終わって落ち着いた2人に、水瓶の護りが聞いてくる。言葉は素っ気ないが、口調には優しさがこもっている。

「はい、実は……」

 泰斗は、これまでの経緯を説明する。


「そうか。あれが、そんなことを、……そうか」

 聞き終わった水瓶の護りが、静かに、納得したように言う。

「何かご存じなんですか?」

 泰斗が聞くが、水瓶の護りはかすかに首を振るだけ。

「そうですか……」

 寂しそうな泰斗には悪いと思うが、本当の事は言えない。

 実は、R4は水瓶の護りにだけは本当の事を話していた。

 まあ、半ば強制的にだが。

 ロボットといるのが心地よいのか、R4はしょっちゅうここに来る。必然的に、感情のことや、泰斗たちとの関係を話すよう、水瓶の護りは要求していた。はじめはこちらの追求をのらりくらりと交わしていたR4が、あるとき、観念したのか過去のことを少しずつ語りはじめたのだ。

「泰斗ニハ、絶対ニ内緒ネ」

 と、釘を刺すのは忘れなかったが。


「忘れたくない、か」

「え?」

「ああ、水の話だな。そうだ、ここの水を探しに行くのは確かにリトルダイヤだ」

「やっぱりそうですか」

 ちょっと肩を落とす泰斗。だがそのあとに鈴丸が聞いてくる。

「けど、あれだけの数のリトルに、どうやって説明するんですか?」

「説明……、お前は面白い事を言う」

「え、あれ? ちがった?」

「あれを説明と言うのなら、確かにそうだが。ただの呪文だ」

「呪文?」

「じゃあ、リトルに呪文をかけるんですか?」

 鈴丸が重ねて聞いてくる。

「かけると言うより、言葉を乗せるんだ」

「そうですか。……だったらやっぱりそういう装置が必要になって来るんだ」

 ため息とともにそんな風に言う泰斗に、水瓶の護りは不思議そうに言う。

「装置? なぜ装置など必要なのだ?」

「え、だって乗せると言う事は、何か装置を使うんですよね」

「言霊を乗せるんだよ」

「言霊……」

 そんな風に言ってもわかりかねている泰斗に、水瓶の護りは言う。

「お前たちのところにもいるだろう? 言霊を操る星読み師が」

「!」

「ラバラさま……」

 どうやら星読み師と言う言葉で、彼らは察したようだ。

「泰斗、お前はなぜこの次元にいる? なぜこの次元でロボット工学など研究している? 科学だけで、この世界が成り立っているのか?」

 その言葉に、ハッと水瓶の護りの顔を見る泰斗。

「そんな風に思っているなら、それはお前の傲慢だ。よく考えてみるがいい」

 まじまじと水瓶の護りを見ていた泰斗が、ふっと力を抜くのがわかった。

「そうでした。この世界は魔術と科学がお互いの力を生かし合って存在しているんでした。僕、本当にバカですね」

 自嘲するように笑う泰斗を、水瓶の護りはただ温かいまなざしで見つめるだけだった。


 そんな泰斗と水瓶の護りを交互に見ていた鈴丸が、おもむろに言う。

「ラバラさまたちの力が必要なら、1度クイーンシティに帰ろうか」

「うん」

 鈴丸の言葉に頷く泰斗。

「だったらさ、帰りはR4に頼もうよ」

「え?」

 いきなりの鈴丸の提案に、泰斗は少し慌てている。

「で、でも」

「それはいい。R4も喜ぶだろう」

 水瓶の護りまでが、そんな事を言い出した。しかも珍しく微笑んでいたりする。

「ええ? 2人とも? なんで?……」

「まあいいからいいから、で、どうするの?」

 鈴丸にそう言われて、しばし躊躇していた泰斗だったが、しばらくすると、本当に仕方がないと言う感じの小さな声で呼んだ。

「R4……」

 だが、あのグニャグニャが表れる気配は感じられない。

「やっぱり、ダメ、かも……」

「声が小さーい!」

 鈴丸に指摘された泰斗は、もうどうにでもなれ、と、今度は声を張り上げる。

「R4!」


しん

 と静まりかえる空間。

 しばらくすると、お待ちかねのように、時田の大好きなグニャグニャが現れる。

「来た来た」

 鈴丸がいそいそと出入り口へ行くと、そこに現れたのはなぜか医療ちゃんだった。

「あれ? R4じゃないの?」

 医療ちゃんは怒ったように腕を組んでツンとしている。どうやらR4に託されたみたいだ。

「なあんだ、がっかり。まあでもいいか。さあ、泰斗、行くよ」

 しかし、後ろを振り返った鈴丸が見たものは。

 なんと、こちらのロボットが何体か、泰斗を囲んで動けないようにしている。

「え、ええっと、皆どうしちゃったのかな……」

 困ったような泰斗と、後ろでただ様子を見守る水瓶の護りと。

「あれえ、R4が泰斗を歓迎してないみたいだから、ロボットくんたちが帰さないって。あ~どうしよう~」

 鈴丸が大きな声でそんな風に言い出すものだから、水瓶の護りが思わずうつむく。どうやら笑いをこらえているようだ。

ブーー

 すると出入り口で変な音がした。

「〃★◇Ψι×£!」

 とうとうR4が顔を見せて、何やら叫ぶ……。

 すると、すうっとロボットたちが泰斗の回りを離れる。

「あ……」

「早ク、乗って」

 それだけ言うと、R4はまた中へ消えてしまう。

「うん」

 うつむいて、けれどとても嬉しそうに、泰斗は移動部屋へ入って行くのだった。


 鈴丸も後に続く。

 出入り口にいた医療ちゃんと、イェーイのハイタッチするのを忘れずにね。






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