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第2話 壊れない記憶が欲しい


 そして現在。

 ここは、やり直しが成功した世界。



 その日、R4は珍しく移動部屋から降りていた。

 その上また珍しいことに、ラバラの自宅にやってきていた。


「どうしたんじゃ、珍しいこともあるもんじゃな」

「いージャン、たまにハ、お年寄りノ話し相手もしなくちゃネ」

「誰が年寄りじゃ」

「ラバラさま」

「まったく」

 とやかく言いながらも、ラバラは楽しそうだ。

 そこへ、マグカップとR4用のエネルギー容器を盆に乗せたステラが入ってきた。

「いらっしゃい、R4」

「アイ変わらず気が利くナ、ステラ」

「こりゃ、偉そうに」

「ふふ、良いのよ。でもごめんなさい、遼太朗と私は、この後すぐに出かけなくちゃならないの。だからお相手はおばあさまにお任せするわね」

「ああ、行っといで」

「願っタリ、叶っタリ」

「?」

 ぼそっとつぶやいたR4に、ほんの少し首を傾げたステラだったが、そのあとラバラが頷くのを見て笑顔になる。

「じゃあ、どうぞごゆっくり」

 部屋を出て行こうとしたステラの横から、遼太朗が顔を覗かせる。

「これから泰斗のところへ行くんだが、本当に行かなくて良いのか」

「ウン、ボクだって、いっつも泰斗、泰斗ジャー、ないよー」

「生意気に」

「うん、ナマイキ」

 はは、と苦笑いで顔をひっこませた遼太朗とステラは、そのあとすぐに出かけて行った。


「邪魔者ハ、消えた……、フフフフフ」

 まるで悪役のようなセリフで、ニヤリと笑う〈ようにみえる〉R4。

「まったく、何を考えておるんかは知らんが、人払いして欲しけりゃ、そう言え」

「あレ、ラバラさまにはお見通しー」

「あったりまえじゃ。で? 何か相談か?」

「うん、アノネ」


 R4のお願いは、簡単なこと。

 ルエラに会いたい、と言う事だった。

「なんでわしに言うんじゃ?」

「だって、ボク、次元超えられないモン。連絡先も知らないシ」

「おや、そうだったか? じゃが、あのへんてこりんか……」

「ラバラさま、気ガ乗らない様子」

「そりゃ、あのテンションで色々言われるとのう。うーむ、まあでも、ステラもララもあれを大層気に入っておるからの。仕方がない、じゃがの、こっちが良くてもあっちの都合が悪いかもしれんぞ」

「今スグでなくても、イーヨー」

「善は急げじゃ」

 そう言うと、ラバラは口の中でブツブツと何かを唱えだした。


すると……

 壁に掛けられた鏡がカタカタと揺れ始め。


ボウン!

 と音がして、鏡の中から小さな物体が飛び出す。

「どうしたの~ご先祖さま。あ、じゃなくて、可愛い子孫!」

 またボウンと言う音がしたと思ったら、ルエラがラバラにハグハグしている。

「これ、やめんかい!」

「またまた照れちゃって~、……あら? あらー、あなた生意気なロボットちゃんね!」

 一瞬でR4の前に移動したルエラは、今度はR4をハグハグする。

「あレー」

「ふう、まったく、お前さんのそのテンション、なんとかならんのか」

「ええー? だってこれがわたし。そう簡単に、っていうかずっと変わらないわよ。……それで? 急に呼び出したりして何のご用? また戦闘ロボットが暴れてるの?」

「いーや。今日のご用はそいつからじゃ」

 と、今まさにハグハグしているR4を指さすラバラ。

「あら、そうなの?」

「ウム」

 偉そうに言うR4をパッと離すと、ルエラは興味津々で聞き出した。

「さーて、どんな素敵なご用事かしら~」



「絶対に壊れない記憶が欲しい?」

 ティーでも入れてくるかの、と、席を外したラバラのことにはかまわず、ルエラはR4にご用事を催促し、出て来た答えがそれだった。

「ウン」

「えーと、記憶、記憶ねえ。あ、それはあなたたちの中にある、記録のことよね?」

「そうとも言ウ」

「あはは、あなたって面白い。さすが天才、新行内 泰斗が作っただけのことはあるわね」

「……」

 ルエラは知っているのだ、なにもかも。そうだと思った。だからR4はルエラに相談したのだ。

 ただ、今のセリフ、ラバラに聞かれなかっただろうか。

「泰斗が何を作ったのじゃ?」

「ううん~なんでもない」

 ティーカップを運んできたラバラが聞くが、ルエラは上手くはぐらかしている。

「けど、それこそなんで私なんだろ?」

「伝説ノ魔女、ダカラ」

「へえ」

「伝説の魔女、ナラ、人ノように、永遠ニ、ボクの記憶をどこかに残シテおく、技を知っていても、オカシクないから」

「ああ~、そういうこと」

「そんな魔術、知っておるのか?」

 ルエラが納得したように言うので、思わずラバラが言う。

「うーん、でもねえ、人の記憶がなぜ消えないのかは、私にもわからないわよ。神さまが私たちを作ったときにそう決めたんじゃない? だから、それは神にしか出来ないわねえ」

 ルエラの答えは少しずれているが、要するに出来ないと遠回しに言っているのだろう。

「伝説ノ魔女のくせニ」

「これこれ」

 たしなめるラバラの言葉もなんのその。

「科学ハ、お手のモンなんじゃ、ないノ」

 R4の言葉に顔を見合わせるルエラとラバラ。

 そのあとルエラが苦笑いしつつ説明する。

「そうね、科学はお手のもん。けど、私たち魔女の科学は、生命科学や薬草科学。あなたたちロボットやコンピューターなんかとは全然違うものなのよ。実際、私、プログラミングなんかちんぷんかんぷんだもの」

「ウッソー」

 思わず叫ぶR4に、ルエラが綺麗に微笑んで言った。

「それに、さっきも言ったように、記憶云々に関しては、生命科学や薬草科学をどんなに駆使してもわかることは微々たるもの。それこそ神のみぞ知る、よね。……で・も・ね」

 パチン、と綺麗にウィンクしてみせたルエラは、次に思ってもみないことを言い出した。

「あなたたちにとっての神は、すぐそこにいるじゃない」

「?」

「ん?」


「新行内 泰斗」

「エ?!」

「ほほう」

「なーんかねえ、彼にはね、形容しがたいものを感じるの。もうすぐ神の域に入っちゃうんじゃない? 相談先、間違えてるわよ」

 とんでもない事を言うルエラに、だが妙に納得してしまうラバラだが、R4はどうにも煮え切らない。

「デモ、それダト……」

「記憶を見せる必要はないわ、彼ならわかってくれるはず。でもあなたには、どうしても忘れたくない記憶があるのでしょう?」

「ウン」

 そう言ったまま静止画像のようにびくともしなかったR4だが、少ししてカクンと小さな変化を見せる。

「ボクが、壊れてモ、粉々になってモ、それこそ溶けてしまってモ、記憶ダケハ、残して、おきタイ……、タダ、自分デハ、ドウシテモ、限界ガ、アル、ダレカ、誰か、ドウカ」

 そしてまた、R4は動きを止めてしまうのだった。


 また顔を見合わせるルエラとラバラだったが、今度はふと微笑み合う。

「可愛いのう」

「うん、すっごくかわいい!」

「これはどうにも、叶えてやりたいもんじゃ」

「うふふ、そうね、でも実際に叶えるのは、彼らの神さまよ」

「それ、泰斗に言うなよ」

「わかってるわよお、きゃー、なんか楽しみ~」

 ルンルンして小さく飛び跳ねたりするルエラに、ラバラは「これが本当に、伝説の魔女なのかね」と、その実力を知っていてもやはり信じられない気持ちになるのだった。




 そのあとの話は、R4抜きで行うことになった。

「泰斗ト、どんな顔シテ、会えばイイのか、ワカンナイ」

 と、なんともロボットらしからぬ言い草をして、肩を落としたりしたからだ。

 とりあえず、泰斗と会っていた遼太朗に連絡を入れると、彼らは王立図書館の個室にいるという。これは話をするには好都合、と、ルエラが「ちょっとお伺いしてもいい~?」と聞くと、

「「え?」」

 と、躊躇していた男子2人はそっちのけで、ステラがすぐさま返事した。

「ルエラですって?! 良いに決まってます!」


 こういうときに発揮される、すさまじい女子のネットワークにより、ララ、月羽、そしてなんと、ナズナまでがルエラに会いにやってきていた。

「「「「ルエラ~」」」」

 名前の後ろには、大きなハートマークが飛び交っている。

「きゃーみんなー、嬉しい~」

 こちらも言うまでもなく。


 あきれて女子たちを見ていた2人の男子、いや、もちろんやってきた国王こと、丁央の3人だが。

「えーコホン。皆様、積もる話は後にして、なんでルエラさんが来たのか、説明をお願いしたいんですが」

 そこは国を代表して? 丁央が言う。

「あ、それはね」



 ルエラの話を聞いたとき、泰斗以外のメンバーはややぽかんとしていた。と言うより、データの保存なんてそんなに難しくはないよね? なにが問題? と言うのが彼らの本音だ。

 ただ、泰斗にだけは問題の本質がわかっている。

 珍しく難しい顔で何かを考え込んでいる。

「泰斗?」

 そんな状態に気づいた丁央が声をかけようとして、遼太朗に止められた。

 首を横に振る遼太朗に、はっと気づくと、そのまま回れ右をして心配そうな女子たちに向けて、立てた人差し指を口に当てていた。

 しばらくすると、泰斗が我に返る。

「お帰り~」

「え、あ、ルエラさん。ただいま……」

「それで、どう? 何か良い方法はあるのかしら」

「あると言えばあるんですが。R4の中以外に保存する方法が。でもそれだと誰にでも閲覧できてしまうので……、R4は、その記憶を人には見せたくないんですよね」

「ええ、決してね」

「だったら……、もうちょっと、考えてみます」

 そのあと、また自分の中に入ってしまう泰斗を、よしよしと頷きながら見た後、

「じゃあ、ここは男子に任せて、私たちは女子会しましょ、女子会!」

「「イエーイ!」」

 なんと女子たちを引き連れて出て行ってしまったのだ。

「ええっ? そんなあ、ひどいよお」

 情けなく言いつのる丁央に、遼太朗が面白そうに言う。

「だったらお前も女子になって、行ってこい」

「え? あ、そうだその手があった! よーっし、じゃあ行って来る。あとは任せた!」

 と、部屋を飛び出していく。

「……」

 ぽかん。

 そんな形容詞が飛び交いそうな図書館の一室で、遼太朗は苦笑するしか無い。

「まったく……」

 泰斗の様子をうかがうと、まだ帰って来そうにないのがわかる。

「これは長丁場になりそうかな?」

 そうつぶやくと、遼太朗は、ここへ来る前にチラリと見かけた歴史書でも借りてきて時間を潰そうと、部屋を後にした。



 だが予想に反して泰斗はすぐに帰ってきた。

「あの! あれ? 遼太朗? えっと、ルエラさんは?」

「おう、もうこっちへ帰って来たか。早いな」

「ありがとう、って、そうじゃないんだ。ちょっとルエラさんか、それが駄目ならラバラさまか、とにかく魔女の血を引く人に教えて欲しいことがあって」

 何かを思いついたときの泰斗は、いつもののんびり屋とは思えないほどせっかちになる。

「わかったわかった、いまどこにいるか聞いてやるから」

 と、ステラに連絡を入れる。すると一行は、王宮の第1応接室にいると言う。ここから一番近い応接室だ。何かあればすぐに帰って来てくれるつもりだったのだろう。

 焦る泰斗を先に行かせた後、遼太朗は部屋を整えて個室利用終了の連絡をし、本を返してからのんびり図書館を後にした。


 息せき切ってたどり着いた泰斗は、そこに集まっているメンバーに心強さを感じながら聞く。

「あの! 皆さんは魔法で何かを顕現させるとき、どうやってますか?」

 唐突に繰り出された泰斗の質問に、一番に反応したのはやはりルエラだ。

「うーんそうねー、例えば、こう?」

 と、手をくるりと回すとそこに、一輪の薔薇が表れる。

「わあ、そうです。それです。それってどんな風にしてるんですか」

 すると、ステラ、ララ、ナズナの3人はしばし考え込む。

「どんな風って言われても……」

「ただ、頭の中に思い浮かべるだけ、よね?」

「そうそう、薔薇なら色と形ね。赤かピンクか、蕾か咲いているのか、葉は何枚? とか」

 すると、またくるんと手を回して薔薇を消したルエラが言った。

「私たちだってこのからくりはわからないわ。ただ、きちんとそれをイメージするだけよね」

「イメージ……」

 想像する力の事だろう。

 けれど。

「ロボットには、イメージする力はないんだ……」


「どういうことだ、泰斗」

「うん、R4が壊れても……、えっとそんな事は絶対にさせないけど、でもそれって僕が生きてる間だけのことだし、だからもし、僕が死んだ後にR4が壊れちゃっても記憶が残せるのは、R4の外に記憶を保存すれば良いんです。けれどR4は記憶を人に見せたくない、……なんでなんだろう、僕も見ちゃいけないのかな……」

「おーい、泰斗、話がすすまないぞー」

「あ、丁央、ごめん!」

 とまあ、あちこち飛んでしまう泰斗の説明を要約すると。


 R4の残したい記憶を、一番小さな単位のレベルにまで分解して、この世界全体に保存しておく。それだと一つ一つは誰に見られても意味不明だ。だが、それが集まってひとつになったとき初めてR4の記憶として完成する。


「へえ、凄いじゃない」

「ふうん、けどさ、そもそもR4の記憶を一番小さな単位になんて、分解できるものなのか?」

「うん、そっちは大丈夫」

「出来るの?」

「すごい!」

 感心するステラたちとは違い、納得したように頷くルエラ。

「〈へえ、さすがは天才と呼ばれるだけあるわ〉」

 そして泰斗に聞く。

「で? それをまた集めるのが難しいのよね? なんで? ただイメージするだけ……、あ」

「そうなんです。どんなに感情があっても、ロボットには想像力はないんです」

「ははあ、そっちか」

 納得するルエラ。

 けれどここに、何事も決してあきらめない男がいた。

「へえ~。R4ってさ、あんなにわがままで生意気なくせに、想像力がないってのが、どういうもんだかよくわかんないけどさ。でも泰斗のことだから、またきっと何か思いつくよ。あちこち相談してみな、ロボット研究所の面々とか。あ! 時田さんにも相談してみろよ、あの人の事だからきっと変な事言い出すぜ~」

 可笑しそうに言う丁央に、泰斗もちょっと救われたような微笑みを返す。

「うん、そうだね。丁央に言われると、希望があるような気がする。……あ」

「ん? なんか思いついたか?」

「鈴丸に相談してみるよ。こっちとは物理法則からして違ってるから、僕とは違う発想があるかも……」

「さすが泰斗だ」

 そう言いながら肩に置かれた丁央の手は、とてもあたたかいものだった。







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