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67.ブラック再び

 ああ偉大なるエアコン、紙皿文化、なつかしい……


「ちょっとミーヤ! 何呆けているのよ! はやく焼いて!」


 こっそりとスマメを確認すると十四時回ったところ。もう早朝五時からクレープを焼き続けているミーヤは、意識がもうろうとしていた。なんといっても慌ただしいし店内がとにかく暑い。


「二十四番でお待ちのかた~

 マヨ入り目玉焼きクレープふたつできました~

 いなかったらボクが食べちゃうよ~」


「はいはーい、こっち!」


 人使いの荒いフルルに叩き起こされ、ゆで卵を百個作って殻をむき、その後はずっとクレープを焼き続けているのだ。一緒にさらわれてきたチカマも手伝ってくれているがさばききれず、レナージュを呼んだが来てくれないし返事もない。絶対に逃げられた……


「はい、目玉焼き三つあがり!

 全部マヨ入りね!」


「チカマお待たせ、お願いね」


「はーい、二十五番でお待ちのかた~」


「こっちだ、待ちくたびれたよ」


「茹で卵とムラングは売り切れましたー!

 今日の分はもう終わりですー!」


「はい! オムレツあがり!」


「わかったわ、えっと、これもマヨ付きね。

 なんでこんなに忙しいのかしらね……」


「ミーヤさま、オムレツは全部で四つだよ

 あと一つ足りない」


「ごめんごめん、すぐ作るね。

 はい、お待たせ!」


「二十六番のかた~」



◇◇◇



「はあ…… 疲れた……

 結局何個売れたの?」


「番号札は三周して四週目だっけ?

 三百五十くらいかな、内訳はまだわからないけど」


「そこに茹で卵は含まれていないんだっけ?」


「そうね、その場で手渡してるからこの数はクレープの数ってことになるわ。

 ミーヤ頑張ったわね! チカマも助かったわ!」


「フルル? もう食べるものないの?

 ミーヤさま、なにか作ってえ」


「少しでいいから休ませて……

 それとももういい時間だから酒場へ行こうか。

 レナージュ達もきっといるよ?」


 結局最後まで現れることの無かったレナージュだが、居場所はわかっているのだ。今頃のんきに飲んだくれているに違いない。


「私はこれから後片付けと計算とクレープの練習するからパス。

 もし良ければなにか食べるもの買ってきてくれると嬉しいわ……」


「フルル凄かった。

 目玉焼きもオムレツも作るの早い」


「そうよね、すごい上手になっていてびっくりしたわよ。

 それじゃマーケットで何か買ってきて、ここで食べましょうか」


「悪いわね、面倒だったらここへ泊っていってもいいわよ?

 私は商人長の館からここへ引っ越すことになったから。

 でも、お店だけじゃなくて自分の家まで! なんて喜んでたのは愚かだったわ……」


 泊まっていくのも悪くないが、そうすると何時に起こされるかわからない。五時に迎えに来たということは、フルルはその前から準備していたのだろう。


 疲れているフルルを一人置いていくのは忍びないが、連れ歩く方が辛そうだしミーヤとチカマだけでマーケットへ向かった。


 食材を購入しフルルの店へ戻ると、フルルは奥の部屋で粘土板に顔を突っ伏していた。どうやら売り上げの計算をしながら寝てしまったらしい。


 フルルの顔から粘土板をはがし、さっそく夕飯の支度を始める。マーケットには今まで気が付かなかったトマトに似た赤い実が有り、試食させてもらったら酸味の強いトマトという感じだったので、これをいくつかと羊の肉、それと根菜類でトマト風シチューを作ろう。


 本当は豆を入れたいけど、ジスコで売っているのは見たことがない。もしかしたら王都から持ちだし禁止なのかもしれない。


 材料をザクザクと乱切りにし、赤い実をつぶしたものと果実酒を入れる。塩で味を調えたら、バターで炒めた麦の粉を練って作ったルーを入れてとろみをつける。弱火にして少し煮込めば完成だ。


「フルル? 起きられそう?

 食事出来たわよ」


「あー、私寝ちゃってたのか……

 昨日の夜眠れなくてさあ、ふわあああ」


「倒れてしまったら大変、これ食べてから寝た方がいいわ。

 疲れた時は体を温めた方がいいんですって」


「ボクも疲れてるから温める。

 ミーヤさま、おかわり」


 いつの間にか食べ始めていて、いつの間にか食べ終わっていたチカマへおかわりをよそい、ミーヤとフルルもようやく食事にありついた。途中でクレープをつまみ食いしたくらいで、結局朝からまともに食べていなかった二人は、シチューをお腹いっぱい食べた。


「チカマはいつご飯食べたの?

 出かけたようには見えなかったわね」


「ボク、ちゃんと並んで注文したもん。

 ずるはしてないよ?」


 なるほど…… 偉いけど余計に忙しくなるからね…… 次からは奥の部屋に用意しておくことを約束し、声をかけてから食べに行ってもいいことにした。


「ねえフルル? 茹で卵は止めた方がいいんじゃないかしら?

 殻をむく手間がかかる割に値段は安いでしょ?」


「でも作り置きできるし、人気もあるんだよね。

 今日だって午前中には予定の百個が売り切れたでしょ?

 でも明日は五十個にしてもいいかな」


「店を閉めていた間の卵はもう使い切りそう?

 今ある分で全部なら後二十個くらいだけど」


「それで全部だからマヨネーズにしてしまおうかしら。

 朝になったら二百個拾いに行くからそれからゆで卵五十個作るわ。

 明日からは途中で売り切れるから暇になるわよ!」


 フルルは売り上げが下がって暇になることが嬉しそうである。でもそれはミーヤも同じことで、これ以上忙しくなるならもっと従業員が必要だし、そもそもミーヤとチカマは従業員ではない。フルルの店はとんだブラック企業である。


 単価はそれなりに高くて、野外食堂でボリュームのあるものが食べられるくらいの値段だが、それが飛ぶように売れていく。マヨネーズトッピングだって有料でぼったくりなのにほぼ全員が注文する。ブームって恐ろしい。


「茹で卵のことはともかく、オムレツがいっぱい出た方がいいよね。

 卵には限りがあるけど、野菜はいくらでもあるからさ」


「まさか一人前で卵三分の一だなんて思わないでしょ。

 その分野菜が入ってるから原価が安いわけでもないけどね」


 売り上げの計算が終わったフルルと一緒にベッドへ入ったミーヤとチカマは、そんな話をしながらうとうとしていた。


 その間、レナージュから何度もメッセージが来ていたのはわかっていたのだが、ミーヤは無視して寝ることにした。



『ミーヤ、酒場のおばちゃんが呼んでるからすぐ来て!』


 また食べ物回でした。お腹が空いたなら「いいね」何か食べたくなったなら「★」食べちゃったなら「ブクマ」こんな感じでぜひご支援お願いいたします!


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