習慣からの目覚め
門番が居眠りしている壁を抜ければ、途端草むらが顔を出す。長く続く道のりを超えれば勇者の待つ王都だ。まあ、完全に、順当に、攻略され、ワープゲートが各地に開かれた今、魔王城から王都へのアクセスは簡単なものとなっている。私はウィザに黒いフードつきのローブを渡し、私もまたそれを被った。
「王都に行くわよ」
日傘をトン、とつく。
目の前には王都の城壁がある。なんて味気ないのだろう。まあ、魔王が討伐されて平和になった王都は多少面白味もあるだろう。
城壁の入り口では冒険者や行商人が賑わって・・・いたはずだった。幼いころ、一度見た王都の入り口とは思えないほど、あたりは閑散としていた。
私はしばらくぶりに自分の心を感じていた。少し唇を噛むと、前へ足を踏み出した。
城壁を抜けることは簡単だった。
門番は所定の位置で泥酔していた。いや、コイツは自分の欲に忠実なだけだろう。魔王城下に比べればマシだ。これが平和ぼけというやつか。
そう思いたかった。
一目見ればわかった。
かつて白を基調として城を中心に栄えていた王国。幼い記憶に刻まれた美しい街並み。すべてがなくなっていた。
壁はところどころ崩れ、落書きもある。少し歩けば、そこらに今にも死にそうな人間が転がっている。死体と見分けはつかなかった。
見覚えがある気がした。かつての魔王城下だ。
いや、あそこにはあそこなりの魅力があった。怪しさゆえの、粋で、物騒な魅力があった。
ここはそれすらない。
粗暴で、雑で、雑で。
反吐が出る。
どういうことだ。私は少し足早に進んでいった。