習慣からの目覚め
エレゼは魔王城で暮らしていた。
勇者一行が攻めてきた際、エレゼは魔王城にいた。そのためエレゼの屋敷は無傷。対して魔王城はところどころ倒壊しているため、本来エレゼは自らの屋敷に帰るべきだった。
それでもここを離れなかったのは、魔王城に愛着があった、なんて理由ではなかった。
エレゼは毎日横目に見ていた自分の目をよく覚えている。生気のない、濁った目。
使用人を雇い、無駄に庭のついた広い屋敷を保ち、生活することに意味が見いだせなかった。それだけでこの崩れかけの城にいたのだ。
結局今の、息を吸って、吐くような生活にも意味なんてないじゃないか。
うっすら気づいていたことをしかと認識した。
私は部屋を出る際手にした日傘を、かつん、とついて戸を開いた。
魔王城は断崖の上にあり、その下にはもともと魔王の支配下だった町が広がっている。
私はバルコニーに立ち、風にあおられながら上を見た。時々細かい落石があることを気にも留めなかったし、あとからきたウィザもまた気にした様子はなかった。
この城の一番上には、殺された魔王が玉座に腰掛けて、腐ることなく冷たくなっている。
私は上げていた視線を後ろの城下の向けた。
人々をぼんやりとしか視認できずとも、町に活気があるとはお世辞にも言えない状態であることを理解していた。
ただ、魔王がいなくなったことで晴れ渡った空が、皮肉に人々の頭上にあった。
私は再び振り返り、ウィザに日傘を向けた。