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出会いは必然

毎回短いですが、お楽しみ頂ければ幸いですm(*_ _)m









「すみません!凄い失礼だと思うんですけど、あの…寝癖ついてます」



彼と腕を組んで歩いて行った学舎前、周囲にも同じ様に登校して来ている生徒で人通りが多くなっていた。そんな中、背後から声をかけられ振り向いた先にいたのは、艶やかで珍しい黒い髪に、黄水晶のような透き通る金色の瞳を持つ少女だった。



来た、と心の内で唇を噛み締め、どろりとしたものが口から出そうになるのを悟られないようにすると、全く違う言葉が口からひとりでに出て私に与えられキャラを演じだす。



「え!あたしですか!?」

「へ?いえ、違います。隣の…」

「ぼ、私か?」

「エドモンドに寝癖?うそ!どこに…あ、ほんとだ!」

「リズ、どこにあるんだ」

「えっとね」

「頭の右後ろです」



私に見えやすいよう後頭部を見せる彼の耳は赤く染まっている。初めの方の人生ではずっと気付いていなかったけど、こうして観察してみれば出会いからして彼は揺れていたのだと分かる。動揺して大人がいない間にしか言わない『僕』という一人称を呼びそうになっていたし、その原因も初めて会った少女の相貌に見蕩れていたから、というものだから。



この行動だって、よく考えてみれば、最初に指摘した人に教えてもらった方が早いのに、婚約者であるはずの私にはそんな反応した事が無いのに見蕩れたことにバツが悪くてか、私の注意を逸らして少女の顔をもっと見たかったのか、私に寝癖の位置を探させてさり気なく顔を隠している。



昔から真面目で誠実な人と認識していたこちらとしては、まさか初めて会った相手に傾いてしまうだなんて想像もしていなかったから、未来が分からない私如きでは夢にも思わないわけだ。



毎回やるのと同じ科白を言いながら彼の頭髪を撫で付けると、元から癖の少ない髪はすぐに直ってしまって何だか損をしたというか、もったいない気持ちになる。名残惜しい思いをおして頭から手を離し一歩下がれば、撫で付けたところを押さえながら彼がチラチラと少女の方を見るのが分かった。



視線を追ってみれば、当の少女は口元に拳をやってクスクスと小さく笑って、私達に見られていたことに気づき一度咳払いをして見せてから謝った。



「すみません。実は今日から入学するのですが、庶民の出で友達も知り合いもいなかったので不安だったんです。だけどお城みたいに豪勢な景観の中で髪が跳ねている人を見かけて、緊張がほぐれました。あ!失礼なこと言ってすみません!あの、笑ったのは可笑しいとか馬鹿にするつもりでは無くて、ちょっと面白くて、ってこれも失礼ですよね!」



わたわたと慌てて弁明しだす少女に、ほんの僅か私でなければ分からない程度に彼が目元を緩ませたのを見て舌を噛みそうになる。何度見ても慣れないのはどうしようも無いけど、すぐに『終わらせたく』なってしまうのは困ったものだ。同じ事を繰り返すのは無駄が過ぎる。



毎度おなじみの流れに沿って、私の口が淑女に有るまじきと世話役に鞭打たれそうな闊達な笑みの形になった。



「貴方、お名前はなんていうの?あたしはフリアルマ子爵家長女のリズよ!得意な科目は体術、護身術。嫌いなのは頭を使うもの全部。お裁縫や詩も苦手」

「フリアルマ、様。私はミシェーナです。家名は無いのでただのミシェーナ。得意なものは、お掃除や洗濯、かな?」

「可愛い名前ね!ミシェと呼んでもよろしい?」

「リズ。いきなり愛称で呼んではミシェーナ嬢も戸惑うだろう」

「お堅いわねー。代わりにあたしの事もリズと呼んでもらって構わないから!ね?」

「いえ!大丈夫ですよ!えと、リズ、様」

「きゃー!可愛い!」

「わぁっ」



大きな瞳をまん丸に驚かせて声を上げるミシェーナに、両手を首に回し勢いをつけて抱きしめると、不意に脳裏に記憶が蘇る。華奢で小さなこの温もりをとても久しぶりに感じた。この子が血を流して体温が無くなっていく罪悪感と喪失感は想像を絶するものだった。感情に振り回されることがどれだけ恐ろしい結果を招くのか、自分の中にある過激さを身をもって知った私にはもう、自分の望みをかなえたいなんて思うことは許されない。



「ミシェ、貴方さっきお知り合いがいないと仰ったわよね?あたしのお友達と式後に会うのだけど、良かったら貴方もどう?」

「リズ、また突然…」

「あ、あの!リズ、様が宜しければ、お願いしたいです」

「もちろんよ!これからよろしくね!」

「はい!」



『今回の』ミシェはとても素直で純粋そうで、知り合いがいなかった不安が少し解消されたようにほっと緊張が緩まった顔をしていた。美少女の笑みを見て私は泣きたい気持ちになったが、表の私はしっかり順当に頬を染めて可愛い可愛いとミシェを抱きしめ直した。それを横から見る彼は私の破天荒さに呆れた息をつきながら、私の腕の中にいるミシェを微笑ましそうに見詰めていた。



思わず力を入れすぎてしまってミシェが苦しそうに呻き、横の彼に肩を掴み諭されて慌てて力を抜く。誤魔化すようにヘラヘラと笑いかけて謝ると、ミシェは困ったように笑って許してくれた。



初めまして、久しぶり、私の親友。終わり

が分からなくても、今回は絶対に『前回』みたいな事にはならないから、しないから。私は狂ってしまったけれど、きっと普通の人に見えるように振舞ってみせるわ。迷惑はかけないようにね。だからきっと____________






彼に掴まれた肩が熱かった。けれどそれをおくびにも出さないように取り繕って、懲りもせず未来の『親友』に抱きつく。






『いつも通り』幸せになってね。ミシェーナ____________

















見て下さってありがとうございました!(*^^*)

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