襲撃
気まずい様な、居心地が悪い様な……いやまあつまりは途轍もなく嫌な空気が辺りに漂っていた。それもそうだろう。
そもそも私は彼女を殺すつもりはない。
なのになんでいつの間にか彼女は何故か祈るように手を組んで上を見上げているのだろう。……死ににいくつもりなのかも知れなかったりする、うん。
ため息を付く。そして、ゆっくりと手を伸ばした。私への『エルフ』呼わばり件しかり、いろいろと誤解が酷そうだが、それよりも優先事項があった。
「先ず――」
その瞬間。その瞬間だった。私達がいる玄関、私の真後ろから……いや、違う。なんとなく理解した。
これはエルフの少女にだけ当てない様に調節された――。
「――『吹き荒れろ』!」
――『魔法』だ。
瞬間、爆音。新幹線でも目の前が走ったかのような衝撃と音が鳴り、扉が吹き飛ばされた。
咄嗟に弾ける様に右足で地面を蹴りつける。瞬間、かかる重力を強引に振り切る、酷く慣れた嫌な感覚。その恩恵たる業速の加速も、だが効果範囲の広い風に関しては直撃を避ける程度の役目しか発揮しない。
全力で避ければその限りでは無いが、ワンチャン衝撃波で周りごと吹っ飛ばす。
魔法を同時平行で行い、周りの音の速度を私自身よりも加速させればやれなくは無いが、流石に時間がない。ならそんな無茶をやれるはずが無かった。
瞬きの滞空。数メートル程直撃ラインから避けたが、そこが限界だった。風が撒き散らされそれに体が煽られる。瞬時の反応で飛んできたドアの取っ手を殴り飛ばす。第一陣は乗り越えた。だが、代償も大きかった。
体勢が崩れたのだ。
ドアを殴り飛ばした反動で体が後ろへ逸れる。体感時間だけが嫌と言うほど長く感じる。
ほぼバク転途中のような体勢の中、目だけをどうにか襲撃者に向ける。
そこには、紅い髪が舞っていた。爛々と煌めく金色の瞳が私を貫く。次いで、彼女は私にしっかりと向けられた杖を片手に叫んだ。
「『紅』」
相変わらず名前だけヤバイ。
そんな軽い感想を抱く。そして私は、エルフの少女があまりの急展開についていけていないのを認識しながら、迫ってくる『赤』に向かい、無理矢理右手を、何時ものように振り下ろした。
「――『還元』」
触れる感覚は、拮抗は一瞬。それだけで『魔法』は発動する。エルフの少女に一度使い、多少は消費したが、未だ魔力は健在だ。
ごっそりと、肉体から『なにか大切な物』が持っていかれる感覚。
そして、『赤』が、『朱』が――『紅』だけが。視界を覆い――次の瞬間爆発した。