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騒動

 ゴミとは言え、テーマパークなだけあって魅力的な物が多くあった。

 普通、“ゴミ”と形容すると、空き缶や煙草の吸い殻などが連想されるが、ここでは折れた小さな杖や魔導書か何かの紙切れ、中には割れている綺麗な宝石のようなものまであって驚く。

 どれも安っぽさなんて微塵も感じさせない、一つ一つ魅入ってしまう程にしっかり作られたグッズばかりで、こういうグッズは壊れていても売れば少しは値段がつくのではないだろうか?と本気で考え、このまま捨てずにいっそ売ってしまおうかと悩んでしまう。

 しかし、他人が捨てた物を売るというのはいかがなものかと思い、勿体ないなという気持ちを振り払いながら、拾った物は全て本来入るはずだったゴミ箱に捨てた。


「ふぅ、これで終わったかな」


 暫く屈んでいたからか腰が痛く、身体を思いっきり逸らせながらゴミ拾いの達成感を噛み締める。

 一つ一つじっくり見たせいで時間がかかってしまったこともあるけれど、一番の疲労の原因は、少し遠くから見だ時は数個だけのように思えたゴミが、近くに行くと予想より多くあったことだろう。


 とりあえずお客様センターのような場所を探そうかと思い立ち、一歩踏み出す。

 すると、足元に赤く輝く物があることに気づいて、「ん?まだゴミの拾い残しあったかな?」などと言いながら拾ってみる。

 それは木で出来た指輪だった。

 ここに来てようやく価値のないゴミを拾ったなと苦笑いしたが、何故か指輪から目が離せない。

 一見安物のように見えたが、その指輪の木はとても質の良いものが使われているように思えるし、それ以外にこの指輪には人を惹きつける力があるような気がする。


 気がつくと、僕は誰かに操られるかのように、無意識に指輪を右手の中指に嵌めていた。

 ピッタリと指に嵌ったことにも少し嬉しさを感じたが、それよりも予想の何倍も木の質がとても良く、ゴミとして誰かに捨てられていた事が不思議でたまらなくなった。

 木の質感が苦手だったのだろうか? それとも見た目が安物に見えやすいからだろうか? あらゆる可能性を考えてみるが、当然答えは出ない。

 なんにせよ、持ち主とこの指輪の間には縁がなかったということだ。

 そんな僕もゴミとして拾ったから縁がなかったなぁと残念に思いつつも、ゴミ箱に捨てるべく指輪を外そうとするが……。


「……あれ?」


 指輪が抜けない。

 僕の指にピッタリ嵌まり過ぎて、指輪は少しも動く気配を見せないのだ。

 血の気が引いていくのが分かる。

 どうしよう。

 焦って更に力を込めて指輪を引っ張るが、ビクともしない。

 やばいやばいやばいと汗が出てきたところで


「追い詰めたぞ!」


 という誰かの大きな声が聞こえ、驚いて声のした方を見る。

 そこには人の集まりが出来ていた。


 さっきまで抜けなくなった指輪で頭がいっぱいだったのに、今度はその集まりが気になって仕方なくなる。

 追い詰めたって何をだろう? 悪さをした人をみんなで追い詰めたのだろうか。それとも動物がテーマパークに侵入したとか? もしそうなら大変だな。

 結局、考えていても何もわからないので見に行くことにした。



「すみません、ちょっと通してください」


 野次馬で出来た人混みを抜け、一番前に辿り着いて、騒ぎの問題を確認しようと前を見ると、数人が何かを取り囲んでいる様子が伺えた。

 どうやら、追い詰めたものは小さめの何からしく、眉間に皺を寄せ集中して見ると、そこには黒猫の身体に悪魔の羽のようなものを生やしている不思議な生物がいた。

 その生物は口に何か咥えていて、追い詰めた人間に対して、小さな羽を広げて威嚇している。

 これ、実はイベントでテーマパークの出し物っていうオチかな? と一瞬思ったが、イベントのような空気はその生物からも、周りの人達からも感じられなかった。


 じゃあこれは一体どういう状況なんだ? それは簡単で、悪い奴が食べ物を盗んだから捕まえられるという状況だ。と自問に対し、完璧に答えてみせる。

 だが、本当にあの生物はただの悪者なのか? 無意味に食べ物を盗んだのか? という問いには答えられなかった。そんな質問の答え、何も知らない僕が持っているわけない。

 呑気に自問自答しているうちに「懲らしめてやる!」と、取り囲んでいる人の中で一番ガタイのいい男が、その生物に向かって木の棒を大きく振りかぶる。


 どうしよう。このまま何もしなければ、何か事情があったのかもしれないあの生物が痛い思いをしてしまう。

 誰か止めてくれるような人はいないのかと周りを見るも、誰もが楽しげに、或いは憎らしげに声を上げて今から行われるであろう暴力を促していた。

 誰か……誰かいないのか。

 誰でもいいからこの状況に抗ってくれよと願えば願うほど、さっきまでの問いが執拗に僕の頭の中いっぱいに主張してきて、挙句、『誰かじゃない、お前が行くんだろ?』とさえ偉そうに言ってくる。

 __分かってるよ、何かを願うならそれに見合う努力は最低限しなければならないことくらい。

 勇気を振り絞って大きく息を吸い、


「待て!」


 大声を上げて振りかぶっている男を制す。

 僕はそのまま、驚いている野次馬の人々を無視して歩き出し、その生物を庇うように両手を広げて男達の前に立ち塞がった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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