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1-7 厄介事の後始末

「正直驚きました。ユート様がまさかあそこまで考えておられたなんて」


 メディシャンが、食後の珈琲を入れながら、そう切り出した。

 この後は、本命の厄介事を片付けないといけないので、その前の腹ごなしを済ませておいた。


「えー?何それ。もしかして、俺が考え無しだって言いたいの?」


 からかうように目を細めながら俺が言うと、メディシャンも可笑しそうに笑った。


「まさか。ですが、あそこまでの深い考えがあったとは露知らず、私達の浅慮な考えのせいでこのような事になってしまい、今では深く反省しております」


 今度は、メディシャンが眉を下げて目を伏せる。


「もうそれはいいって言ったじゃん。俺としては、これに方が着けば、そこでお終いなんだから。それより·····例の物(・・・)は用意してくれた?」


 俺が声のトーンを落として聞くと、メディシャンも神妙な面持ちで頷いた。


「そう·····」


 俺は短くそう答えると、珈琲を飲み干し一度目を閉じてから、ゆっくりと開けた。


「では、始めようか」


 メディシャンの顔に、緊張が走った瞬間だった。


 ◆❖◇◇❖◆


気付くかな(・・・・・)?」


 場所は執務室。

 俺は誰ともなく呟いた。


「さあ?でも、そこまで馬鹿では無いのでは?」


 答えたのはオロチ。

 従魔達は全員が色を変えて、俺の後ろで待機してくれている。

 その答えに、俺は苦笑した。


だといいけど(・・・・・・)


 様々な思いを胸に(・・・・・・・・)、そう零す。


 程なくしてノックが響く。

 扉に控えていたメディシャンに頷くと、メディシャンが扉を開け外の人物達を確認してから、くだんの彼らを招き入れた。


 彼が姿を見せると、俺の姿を見て瞬時に顔色を悪くした。

 オロチの言う通り、どうやら姿が変わっても、状況や雰囲気から、何かを悟ったようだ。

 この後の事も(・・・・・・)気付いてくれれば良い(・・・・・・・・・・)けど(・・)


 女が何かを喚いていたが、そちらには一瞥もくれず、俺は三男坊の目を見ながら静かに言った。


「俺が何を言いたいか、分かるか?」

「は、い」


 彼が、震える声でそれだけを絞り出す。


「俺は、あまり多くを語るつもりは無い。お前が分別の分かる男だと信じているからだ」

「っ?!」

「だから·····選ばせてやる」


 ディノフスに目配せすると、ディノフスが懐から三つの瓶を取りだした。

 それを、執務机の上に並べる。


「·····自分から飲むか、強制的に無理矢理飲まされたいか、選べ」

「·····ぁ」


 最早、顔面は蒼を通り越して白くなっている。

 何かを言いたかったのか、または、それすら分からなかったのか。

 彼は小さく言葉を零そうとして、言葉にならなかった。


「心配するな。別に毒なんかじゃない。ただ、記憶を無くすだけ(・・)だ。けどこれは、全ての記憶を無くす(・・・・・・・・・)【魔法薬】だから、記憶を特定して無くす事は出来ない。その後の事も心配するな。ちゃんと身の安全も保証されるし、就職先も斡旋してやる。但し、そこまでだ。その後の人生はお前自身が決めろ。


 ··········この意味、分かるな?」

「·····っ」


 三男坊が大きく目を見開く。


「ちょっと!どう言う意味よ!さっきから何言ってるのか分からないんだけど?!ディノフス!ちゃんと説明しなさい!」

「そうよ!ディノフス!あんた、私達の使用人でしょひっ?!」


 先程から、聞くに絶えない雑音を無視していたら、流石に『私達の使用人』の部分で、ディノフスがキレた。

 メディシャンも、ブリザード(物理)を吹雪かせる。

 やめて。執務室が凍る。


「·····さっきから黙って聞いてりゃピーチクパーチクと·····テメェら何様だ!あぁん?!」


 ディノフスの()が出ました。


()達の主人は昔も今も、そしてこれからも唯お一人なんだよ!テメェらみたいな蛆虫如きが、俺達を従えさせようなんざ、百万年はえーんだよ!ぶち殺すぞこのあまっ!!」


 これには三男坊も驚き瞠目し、二人の女は腰を抜かして座り込んでしまった。

 まあ、普段のディノフスを見ていれば、この変わりようには驚くよな。

 多分、子供達の前でキレたのも初めてだっただろうし。


 あーあ。二人して失禁しちゃったじゃん。どうすんだよこれ。後で掃除が大変そうだし。

 ほら見ろ。メディシャンの額に青筋立ってるじゃん。

 そろそろ止めるかな。


「ディノフス」


 俺が静かに声を掛けると、今までのが嘘のように、ディノフスはいつもの平静な顔に戻る。


「はっ。失礼致しました」


 これこれ。慣れてる俺からして見れば、この変化が堪らず面白いんだけど、これを分かってくれるのはメディシャンだけなんだよな~。


 それは兎も角、このままでは話が進まないので、手を振って気絶した二人に水をぶっかけ、ついでに風を起こして臭いを霧散させる。

 メディシャンに睨まれたが、後で謝っておこう。


「さて、目が覚めたかな?ディノフスのお陰で、もう喚く気力もないと思うが、敢えて言っておく。お前達に選択権は無い。俺は、元馬鹿息子(・・・・・)に聞いてるんだ」


 女が何かを言おうとして口を開いたが、ディノフスの人睨みで口を閉じた。

 俺は三男に、「ん?どうだ?」と言う目線を向けると、三男は、何処か諦めたように、されど何かが吹っ切れて覚悟を決めたような目で俺を見据えて言った。


「·····はい。貴方に従います」

「そうか。それを聞いて安心した。なら、この場でこの瓶を取り、飲み干せ」


 そう伝えると、三男は臆する事なく執務机に近付いてきた。

 一度、ひたりと俺と目線を合わせてから、瓶を一つ手に持つ。


「·····有難う御座います(・・・・・・・・)。それと、ご迷惑をお掛けしました」


 最後に「父さん」と小さく呟いてから、瓶の中身を一気に飲み干した。

 崩れ落ちる彼を、ディノフスがすぐ様受け止める。


「·····この子を丁重に。手筈通りに頼む」

「畏まりました」


 三男坊をディノフスが抱えると扉を開け、外で待機していた他の使用人に一言二言指示を出してから扉を閉めた。


「して、この者達は如何致しましょう」


 ディノフスが、まるで汚物を見るような目で、二人を見下ろす。

 女二人は今だ床に座りながら、体を寄せ合って震えていた。


「そうだな·····無理矢理薬を飲ませて記憶を無くさせた後、娼館にでも売り飛ばすか」

「なっ?!」

「そんな!!」


 俺の決定(・・)に、二人が悲痛に顔を歪ませた。

 俺は、基本外に出た子供達の事は放任している。

 俺が生きてる間に会いに来たのなら暖かく出迎えるが、それ以外は、子供達が外で何をしようが不干渉。

 それこそ、最悪悪事に手を染めようが何をしようが·····。

 それは無関心とかではなく、子供達の人生は子供達のものだからだ。

 俺としては、『生きる』と言う事は、多かれ少なかれ、何かしらの責任が伴うと考えている。

 良い事をすれば良い事が必ず返ってくるとは言わない。

 寧ろ、『良い事』に見返りを求めるのはどうかと思ってる。

 これはあくまでも俺の考えだ。一般論では無いのを肝に銘じて欲しい。

 そして、それに反して『悪い事』だけは、必ず報いを受けるもの、とも思う。


『因果応報』。


 どんな形にしろ、それはきっと自らを破滅に導く。

 そう、子供達にも教えてきたつもりだ。


 だからと言うわけではないが、そこの所だけは、ちゃんと信じている。親バカかもしれないけど。


 先程のあの子の顔を見れば分かる。

 あの子はきっと立ち直れる。例え記憶を無くしたとしても。


 けど、この二人は駄目だ。

 私情が無いかと言えば嘘になる。

 皆にああは言ったけど、それでも可愛い子供を誑かしてくれたこの二人を、俺は許すつもりは無い。

 あの子自身の見る目が無かったのは、まあ自業自得と言わざるおえないが。


 昔誰かに言われた。

 俺は家族に甘いのだと。そして、それが怖くもあると。

 家族に手を出されたら何をするか分からないから、と。


「承知しました」


 俺の決定に異を唱える事もなく、ディノフスはそれだけを短く答えると、女二人を引き摺って行く。

 女共が、最後まで何かをギャーギャー騒いでいたが、扉を閉めた途端、静かになった。


 ·····また気絶でもさせたかな?


 俺は椅子に深く腰掛けると、大きく息を吐いた。


「·····大丈夫ですか?」

「うん?何が?」


 気遣わしげに聞いてきたメディシャンに、俺はなんでもない風に答える。


「·····いえ、なんでもありません」


 何か言いたそうにしていたが、メディシャンはそれ以上聞かず引き下がった。


「メディも、ディーの手伝いしてあげて。ここは、俺が片しておくから」

「ですが·····」

「ね?」


 本来片付けはメイドの仕事。そう言いたかったのだろうけど、俺は有無を言わさず押し切った。


「·····畏まりました」


 これ以上何を言っても無駄だろうと諦めてくれた彼女は、一度頭を下げてから執務室を後にした。

 外に人の気配がない事を確認してから、俺は一気に肩の力を抜いた。

 それを見計らったように、ヤタが俺を抱き上げ椅子に腰掛ける。


「·····ヤタ」

「何?」


 俺が呆れたように見上げると、悪びれた様子もなく無表情で見詰めてくるヤタ。


「·····お菓子、食べます?わたくしの、とっておきです、よ?」


 オルカが出してきたのは、大きいワンホールサイズの“フォンダン・オ・ショコラ”。


「や、そんなに食べれないんだけど·····」


 オルカが落ち込んだ。

 俺は悪くない。きっと。多分。その筈。そうだよね?

 なのに何故だろう。この罪悪感は。


「あ、じゃあ、アタイは紅茶を入れてくるよ!それとも珈琲が良いかな?」

「私は·····」

「俺は·····」


 同時に口を開いたオロチとティグレが、無言で見つめ合う。

 これは·····


「もしかして、気ぃ使ってくれてる?」


 ギクリ、と皆の体が揺れた。

 俺は、何か可笑しくなって吹き出してしまった。


 ああ。本当に大好きで可愛い俺の従魔達。

 お前達が居てくれて、本当に良かった。

 心からそう思うよ。


 これにて一件落着。


【補足】

気付いた方が何人か居るかもしれませんが、ここで一言付け足しておきます。

幾つか強調するように、分かってる分かってないとか、気付くかどうかとか話してますが、簡単に説明すると、この決定は、三男坊に新しい人生を歩ませる為のものです。

つまり、全ての記憶を無くす→妻や子供の事も忘れる→何も知らない場所で一からの再スタート。

こんな感じです。

作者としては、これでも主人公の親心を書いたつもりです。

本当に薄情なら、妻や娘のように適当に放り出しているでしょうから。


伝わってるだろうか?伝わってるといいな~(๑´▽`๑)


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