1-2 帰還~別邸~
本日2話目です。
次に目を開けたそこは、薄暗い部屋だった。
窓は、換気の為か開け放たれており、閉じられたカーテンが僅かに風に揺られる。
月明かりのお陰で、完全な暗闇になってないのが救いか。
部屋の中央には、台座の上に乗った、顔大の岩──表面に文様が刻まられた──のみが置かれたシンプルな部屋だ。
俺は、懐かしの我が家の一つの匂いを胸いっぱいに吸い込むと、さて、と扉に向かって一歩を踏み出した·····瞬間、扉が勢いよく開かれて、驚いて目を瞬いた。
その視線の先にいたのは、俺の愛する家族。白い姿をした五人。俺の可愛い従魔達。
その子達も驚きのあまり固まり、暫く俺達は見つめ合う。
そんな中、俺は腕を広げて、満面の笑みで口を開いた。
「ただいま、皆」
それをきっかけに、全員が動き出し、目にも留まらぬ速さで俺の元に掛けてくる。
俺を最初に抱き上げたのは、【白蛇】のオロチ。
「うっわ!ほっそ!」
俺の腕や足を見て、そんな第一声を零したのが、【白虎】のティグレ。
「あー!ほんとだ!今回はハズレだったの?ユート」
次にそう聞いてきたのが、【白狼】のマカミ。
それを聞いて、眉間に皺を寄せ、無言で不穏な空気を醸し出したのが、【白鴉】のヤタ。
それには、後で宥める必要があるかと考える。ヤタは、俺の事になるとやり過ぎる所があるからな。
そして最後に、
「·····お帰りなさいませ、ユート」
真面に帰還の言葉をくれたのが、【白鯱】のオルカだ。
まあ、全員思い思いに俺の帰還を喜んでくれているのは分かるので、文句はない。
そんな皆に、俺はまず伝えなくてはいけないことがあった。
「お腹、空いた」
盛大に、俺の腹の虫が鳴るのを合図に、俺を抱えたまま、全員で慌ただしく部屋を出ていった。
俺達は、食堂に場所を移した。
目の前には、湯気が立つ温かなスープ。
流石に、禄に食事も取らせてもらってなかったので、あっさり目の野菜スープを頼んだ。
胃がビックリするからね。
残念だけど、暫くはこういったもので、体を馴染ませる必要があるだろう。
俺は、今だにオロチに抱えられている。
最初、食べさせようとしてくるのを、やんわりと断った。
ちょっとオロチが落ち込んだ。
俺の今の身長ではテーブルが高すぎるので、オロチの膝の上のままなのは諦める。仕方ない。
この中で、面倒みが一番良いのはこのオロチだろう。
や、皆個性的ではあるが、それぞれ面倒みは良い。
その中でも群を抜いて、と言う意味だ。
毎回転生する度、俺の面倒を甲斐甲斐しくしたがるのがオロチで、次にマカミか?
俺はスープに舌鼓を打ちながら、ここで改めて皆を見回す。
まず初めに言っておくが、全員人の姿をしているが、れっきとした従魔である。
そして、全員『白』。髪も肌も目も服装に至らるまで、全てが『白』一色だ。
ただこれには、ふかーい訳が··········無いな(笑)
まあ、簡単に説明すれば、俺と従魔契約したら、何故か白に変色(?)したって訳。
理由?知らんがな(笑)
ただ、この世界において、『白』と言うのは特別な意味があるようで、何でも、この世界の創造神様(?)が輝かんばかりの白を纏っているとか何とか。
それが関係しているのかいないのか、元々全員白以外の色だったのが、まあ物の見事に白一色に様変わりしてしまったという訳。
因みに、外に出る時は、ちゃんと(?)髪や目、服の色を変えて行く。
でなければ、色々面倒なことになりそうだし。
そういうものは、皆にとっては魔力でどうにでもなるので、何とも便利な事だ。
服に至っても、魔力で作られているので、例えどれだけ軽装に見えても、そんじょそこらの防具よりも防御力は高い。
元の姿から人型になる時も、それのお陰で、漫画みたいなマッパで、きゃーな場面に遭遇しないでいてくれるので、とても有難かった。
さて、ここで一人一人の自己紹介をしておこう。
最初に、俺を抱き抱えてご満悦顔(傍から見たらそうは見えないが)の、【白蛇】のオロチ(♂)から。
その名の通り『蛇』。元は【翼蛇】と呼ばれていた、薄い青っぽい鱗に、背中に翼を生やした蛇だった。
今の人型はどうかと言えば、普段は腰まである長い髪を、頭の高い位置で結んでおり、顔立ちは中性的な美青年。
周囲からは、神秘的で近寄り難い雰囲気だと思われているが、俺から言わせれば、オロチは単純で分かりやすい性格をしていると思う。
次に、俺が「美味しい」という度に、今は無い筈の尻尾が幻覚で見えてしまう程に嬉しそうな顔をしてくれるのが、【白狼】のマカミ(♀︎)。元【黒狼】。
短髪でツリ目で勝気な雰囲気の女の子。
偏見かもしれないが、見た目は不器用そうに見えるが、実は従魔達の中で誰よりも器用な子だ。
そして、この料理もマカミが作ってくれたもの。
ヤタやオロチも作れなくはないが、マカミは手際が良く、そして美味い。
残り二人の料理は·····まあ、何も言うまい(笑)
続いて、マカミがついでに作ってくれた料理を、俺が食べれないのをいいことに、遠慮も無しにバクバク口に放り込んでるのが、【白虎】のティグレ(♂)。元【雷獣】で、元の姿が虎の姿に額に二本の角を生やしている。
体格は、この中で断トツに良く、身長は二メートル程と高い。
筋骨隆々に太い眉毛に男らしい顔立ちの美丈夫。
こいつは見た目通りの脳筋。筋肉バカ。単純。無神経。
こう聞けば悪口に聞こえるかもしれないが、勿論皆と分け隔てなく俺は好きだ。
馬鹿な子ほど可愛いって言うし?
けど、こんなんでも、ちゃんとした所では、礼儀作法もしっかりしている。
てか、覚えさせた。俺が、そう言った場所にも顔を出す事もあったから。
でもぶっちゃけ、物覚えはそれ程悪くないんだよな~。
興味があるか無いかってだけで。
そして、さっきから無表情でじっと俺を見つめてきてるのが、【白鴉】のヤタ(♂)。元【八咫烏】で、カラスの姿に八本の脚を持つ。
右目は前髪で隠れていて、見た目は十四~五歳。可愛らしい顔立ちをしている。本人が嫌がるからあまり言わないが(偶にからかって言うけど(笑))。
この子は、オロチ以上の鉄仮面だ。
オロチは、俺たちの前ではこれでも案外笑ったりするが、ヤタにはそれが無い。
それでも、従魔だからか付き合いが長いからか、俺達にはちゃんと伝わってくるので、特に不便を感じていないので問題無い。
最後の紹介は、眠そうな顔でボーッとしてるように見えるのが、【白鯱】のオルカ(♀︎)。元【海王】と呼ばれたモンスター。
髪は腰まであり、先の方がウェーブのようにうねっている。瞼は常に伏し目がちで、周囲からはそれが憂い顔に見えてまた良いとか。
それを俺は声を大にして言いたい。違うんだよ!これはただ単に面倒いだけなんだよ!と。
オルカを一言で言うなら、極度の面倒くさがり屋。目も伏し目がちなのは、開けているのが億劫だから。
口数も少ないのもそう。
まあ、それでもやる時はやるし、何だかんだ言いながらも、俺達の傍にいようとする寂しがり屋でもあるんだけど。
前に、出かけるのが面倒いと言ったオルカに、「じゃあ留守番しとく?」と言ったら、無表情のままだばーっと泣かれて、マジで焦った(笑)
つまり、極度の面倒くさがり屋ではあるが、極度の構ってちゃんの面倒い子でもあるのだ。
勿論、そんなオルカも可愛い子ではあるけど。
それに、口では面倒いと言いながらも、俺達の事に関しては、案外面倒みが良いのも知っているし。
ついでに、【白○】と紹介しているが、これは俺が勝手に着けた名称だ。安直だと言ってはいけない。
姿を初め、色々変化してしまったので、元のモンスター名で呼ぶには抵抗があったから。
てか、もう完全に種族も違うようなもんだし。
この五人が、俺の愛すべき従魔であり、俺の長年の家族だ。
因みに、モンスターは従魔になっても人間の姿になれないし、契約主が死ねばモンスターも死ぬ。
色々不可解な部分も多いが、もう今に始まった事では無いので、深く考えないようにしている。
ふぅー。ともあれ、スープも飲み終わったし、次は珈琲を飲みながらでも、俺の事や、俺が居ない間の事などを話すとしますか。