2-9 『俺』と言う存在
本日2話目です。
俺達は、【魔獣の森】攻略を済ますと、またのんびりと馬車で街に戻ってきた。
まだ時間は五時を少し回った所。
クラウドは、門から少し離れた所で先に邸に返した。
だが、街に入った瞬間、俺達は目を白黒させる事となった。
や、確かに、入門した時に、朝にも対応してくれた騎士隊の一人が、何か言いたそうに微妙な顔をして苦笑していたさ。
でも、特に何も言われなかったし、別に緊急性の用事がある訳でもなさそうだったからスルーした。
それが、何?これ。
朝出てくる時と、街があまりにも違いすぎて、脳ミソが追いついてこないんですけど?
道のど真ん中で陽気に踊ってる若い男女。
酒瓶片手に、隣同士で肩を組んで、昼間っから飲んだくれてる親父。
子供達も、何処かいつもより大はしゃぎで街を駆け回ってるように見えるし、街中に花弁や紙吹雪が舞っていた。
堪らず、俺は近くに居た人を捕まえて質問する。
「あの·····今日って、何かのお祭りの日でしたっけ?」
すると、捕まえた人は酔っぱらいだったらしく、赤ら顔を、いきなり至近距離まで近づけてきた。
酒臭くて一歩引いた。すかさず、オロチに抱かれた。
酔っ払いはそんな俺達に気付いてるのかいないのか、それでも親切に俺の質問には答えてくれた。
「んー?なんだー、ボウズ。知らないのか?」
「·····何をですか?」
「今日はな!『【神々の愛し子】様の目覚めの日』だ!」
「····················は?」
「だーかーらー!今日は、『【神々の愛し子】様の目覚めの日』!こんなめでたい日は無いっ!ヒック」
いや、違う。聞き返したのはそっちじゃない。
確かに今日は、俺は俺の姿で人前に姿を見せたさ。
だけど、だからって何でこんな事になる?
今まで俺が転生したからって、ここまでになってたか?俺が知らなかっただけ?え?何でこうなんの?
俺は絶賛混乱中である。
顔が引き攣る。
誰か説明プリーーーーズ!!
俺の従魔達の顔を見れば、若干二名が肩を揺らして笑いを堪えていた。
ムカッとしたので、足元に火を放ってやった。
避けられた。
「·····取り敢えず、屋敷に戻ろう。何か疲れた」
「分かりました」
オロチに抱かれたまま、俺達は足早にお祭りの街中を突っ切り、帰路に着いた。
あ、その前にギルド寄って、帰還の報告しとかなきゃ。
邸の玄関を開ければ、そこには既に使用人が待機しており、俺達を出迎える。
「お帰りなさいませ。ユート様、皆様」
「ん、ただいま」
「早速ですが、王家から問い合わせがありました。一体どうなっているのか、と」
ディノフスが、仕方なさそうに苦笑しながら、報告してくる。
「そんなの、寧ろ俺が聞きたいよ。取り敢えず今は風呂かな?話はその後聞くから」
「承知致しました」
今日は久しぶりに別邸で、火山温泉にでも浸かるかな~。
そんな事を俺が考えながら、(オロチに抱かれたまま)歩いて玄関ホールを横切ろうとしたその時、見慣れない人影に、思わずオロチの長髪を引っ張って足を止めてもらった。
「君は·····」
俺がその人影──何処かで会った事のありそうな少女に話し掛けると、少女は強ばった顔をして、ガバリと唐突に頭を下げた。
「あ、改めまして!マイアと言います!朝は助けて下さり、有難う御座いました!」
「嗚呼!やっぱり君か!その髪は?揃えてもらったの?」
「は、はい!あのままじゃ、みすぼらしくってこの邸の使用人として相応しくないと、メディシャン様に切って貰いました」
「なるほど。·····うん、良いんじゃない?似合ってるよ」
俺がそう褒めると、少女──マイアは、頬を染めはにかんで礼を言った。
その後、俺達が本邸に戻ると──宣言通りに、別邸の火山温泉でサッパリ──、既に料理が出来ており、それらに舌づつみを打ち、食後の珈琲を飲みながら、ディノフスから報告を受けていた。
「今日のお昼頃に、王家から御連絡がありまして、街中で黒髪の青年を見たと市民が騒ぎ出し、問い合わせが殺到。今現在、それらに忙殺されていると泣きながら·····。
そこで、正確な情報を求める、と国王陛下自らが連絡してこられました」
「や、確かに、姿は見せたよ?だけど、何であんなんなるの?今まで、ここまで酷くなかったよね?」
「私共も、マイアや影から報告は受けておりましたので、ある程度は今日の事は把握しておりますが。
·····実は、ユート様が新たに転生を果たされたその都度、従魔様方の、最低でも誰か一人は王家にお知らせになり、それを知るや否や、王家主催の元、お生まれになったその日に、本来はお祝いをする筈だったのですが、今回は·····」
「·····は?そうなの?」
俺は思わず、従魔達を見遣る。
すると、ティグレが目線を斜め上に向け、何やら考え込んでから一つ頷いた。
「そいや、今回は知らせなかったな。お前らは?」
「愚問」
「ですね」
「·····知らない」
「てか、アタイらずっと別邸に居たっしょ?ユートがいつでも帰って来て、出迎えれるようにーって」
俺はその返答に、思わず頭を抱えた。
頭痛がするのを堪えるように、米神を揉み解す。
つまりこう言う事か?
そもそも、俺が生まれた時に国中で祝うってのも知らなかったし、皆が態々王家に知らせてくれてたのも知らなかったけど、でも今回は、皆も予想だにしない程転生するまでの期間が長く、従魔達は俺を待って別邸に居着くようになってしまい、王家への連絡も怠ってしまった。
恐らく、今までも気を使われてきたのだろう。
敢えて、俺が転生した日に祝うのは、俺がこの国に戻ってきた時に、最初から変に重圧を与えない為と、偏に、俺がそう言った事が苦手だから。
必要だと判断すれば、俺も表舞台に立つのは吝かではない。が、しかし、それでも必要でなければ、態々自分から目立つ行動は控えたい。寧ろ、変なしがらみも無く、伸び伸びと暮らしたい。
それが偽ざる俺の本音だ。
それを知っていた王家は、俺に知られないように、こっそり·····こっそり?と、祝ってくれており、国中の人間も、それを分かった上で、一丸となってその風習(?)は守られて来た、と。
もしかしたら、今回は、王家は市民に俺の存在を知らせるつもりは無かったのかもしれない。
それなら、これは完全に俺の自業自得である。
俺がディノフスとメディシャンを見ると、二人共苦笑していた。
「はぁ〜、仕方無い。今日·····はもう遅いから、明日の朝早く先触れ出しといてくれる?そっちの都合に合わせて、説明しに行くからって」
「畏まりました」
俺はそれだけを言うと、もう今日は寝ようと、ソファーから立ち上がる。
すると、壁際で控えていたマイアが、俺を引き止めるように声を掛けてきた。
「あ、あの!」
その無作法さに、ディノフスが眉間に皺を寄せて注意しようと口を開いたが、俺が手で制して止めた。
「何?」
「すみませんでした!」
何故かまたもや、俺は彼女に頭を下げられた。
首を傾げる。
「その·····元はと言えばあたしのせいだし·····」
それを聞いて、嗚呼、と納得する。
「んー·····それはちょっと違うかな?」
「·····え?」
「俺はちゃんと、騒ぎになる事自体は知ってたし分かってた。·····流石にお祭りまで発展するとは予想外だったけど。
それを踏まえた上で、俺は姿を現したんだ。言っただろ?俺は自分が作ったルールを足蹴にして悪さするアイツらが許せなかった、て」
「ぁ·····」
「それに、俺の存在は『公然の秘密』なんだ。俺自身は自分から滅多に名乗る事はしないけど、今まで俺がしてきた事が、普通じゃないってのは自覚しているからね。
因みに、俺は髪色を変えられるのに、何故敢えてそう言った場では髪色を変えないか知ってる?この世界では、動物やモンスター以外で黒髪ってのが居ないって知ってて、だ。目立つのは分かっているのに」
マイアがフルフルと首を振る。
俺は、再びソファーに座ってから語り出す。
「一つは·····過去、この髪を好きだと言った人が二人居た。今では普通に受け入れられている事だけど、当初、それこそ俺が最初にこの世界に来た時は、やっぱり『黒髪』なんて異質な存在でしか無かったんだ。
最初、俺を助けてくれた探索者なんて、初め俺がモンスターに見えたって後で言って笑い話になってたくらいだし。
『黒髪』だけじゃなく、俺の存在自体が何もかも異質だ。
転移然り、転生然り、ね」
『··········』
「そんな俺を最初に受け入れてくれたのが、この国の国王──【ユナシス】だった。
アイツは、俺の髪色を綺麗だと言った。男に綺麗だって褒められても微妙だけど、「異質?上等だ!」なんて言って、豪快に笑ってたよ。寧ろ、自分もある意味異質な存在だからって言って。
アイツは【武賢王】なんて言われてたけど、【武王】か【賢王】かどっちかにしろ!なんて、本人は言ってたし。
そもそも、【賢王】なんて自分には過ぎた名だ、なんて苦笑してたし。俺もぶっちゃけそう思ってるけど·····。
俺から言わせれば、ユナシスは、ただの『尋常じゃない努力型』の人間でしかない。
あいつには理想があったから。【世の中を平和にする】って言う理想。
今思えば、俺はもしかしたらユナシスの為に転移させられたんじゃないかって思ってる」
「それは、どう言う·····?」
それを聞いてきたのは、ディノフスだった。
俺から、実体験として当時の事を聞くのは貴重だからか、全員が俺の話に聞き入ってる。
他の使用人達もまた同様。珍しく従魔達も。
「あの時代は、知っての通り戦争真っ只中だ。その大まかな理由は、領地を広げる為。
皆も聞いた事はあると思うけど、ある国が領地を広げようとして森を焼き払おうとしたが返り討ちにあったって話、あるよね?俺も、流石にその話は俺が転移する前の話だから、何処までが真実かは知らない。だけど、真実だった場合、俺から言わせれば、やり過ぎなければ多分問題ないんじゃないかなー?って思ってる。あくまで憶測だけどね?
だってさ、考えてもみなよ、家を建てたり、紙を作ったり·····それらを作る資源は何処から来てるの?『木』、延いては『森』からって事だろ?普通に皆木を伐採してんじゃん」
『あ·····』
全員が今頃気付いたって顔で驚くので苦笑する。
今更?って感じもするけど。
「でも、昔の人は、そこまで頭が回らなくて、なら『領地を広げるなら他国を手に入れれば良い!』なんて、何故かそんな結論になっちゃったらしくってさ。それもあって長引いた。
後、殆どの国が独裁国家でさ、ユナシスみたいな奴はほんと稀。てか、それこそ『異質』だったのかもしれない。
そんな理由もあって、俺達は『異質』同士馬があったのかもしれないね?
ユナシスはね、確かに才能はあったんだろう。カリスマ性もあって、人を惹きつける。
けど·····とても不器用で孤独な男だったよ」
過去を懐かしむように、目を細めて微笑む。
「皆があいつに期待する。当然だろ?あいつにはそれだけの力があったし、強い信念があった。
戦争で最初に巻き込まれるのは、戦えない市民だ。
そんな市民が求めるのは、『強い王』──。
戦争にも負けず、自分達を導いてくれる王。
それをユナシスは一手に背負うしか無かった。
今の俺とあいつは多分似てるんだろう。俺も今では伝説化なんかしちゃって、皆が俺に期待する。
だけど、俺とあいつは違う。俺はどちらかと言えば、『締める所は締めて、緩める所は緩める』。人に任せれるとこは人に任せちゃえーって考えだから、今でも結構好きにやらせてもらってるけど。
あいつは、人に頼るのが苦手だった。戦争真っ只中だったってのも一つの理由だったのかもしれないけど、あれはもう完全に性分だね。
俺の前では、時々疲れた顔してたし」
『··········』
「·····戦争が終わって、気が抜けたのかもしれない。まだ片付けの途中だってのに、俺より先に死にやがって」
俺は遠い目をし、先におっ死にやがったユナシスに文句を言う。
「と、大分話が逸れたな。ま、そんなユナシスが俺の髪を初めて好きだと言った奴で、次が俺の最初の奥さん。
いやー、あんな良い女はそうそう居ないよ。や、勿論、俺と結婚してくれた女達は全員良い女ではあったけどさ。
んで、ついでに言えば、俺の名が世に知れ渡ってるのにも関わらず、俺が今だに本名の【ユート・アマクサ】を使い続けてるのは、この名が両親が残してくれた名前で、俺の誇りだから。この世界に、どんな形でも良いから残しておきたかったってのが始まりだったかな?」
「·····不躾な質問で恐縮ですが、ユート様のご両親は·····」
メディシャンが、躊躇いながらも聞いてきたので、それにも俺は答えた。
「·····俺がこの世界に来るずっと前、十二歳の頃に他界してる」
「·····それは」
「あ、別に同情して欲しいとも、しんみりして欲しいとも思ってないから。
自分で言うのもなんだけど、俺は充分愛情貰って育ったし。確かに、引き取られた親戚とはあまり上手く言ってはいなかったけど、俺にはその両親が残してくれた『料理』って言う技術も受け継いでたみたいだし?」
そう言って、俺は自分の手を見た。
「では、ユート様が最初料理人だったのは·····?」
「うん。俺の親は小料理屋をやっててね、規模は小さかったけど、地元ではそれなりに有名ではあったかな?家庭的で素朴なのが売りで。
そんな両親を見てきたからか、俺が料理人になったのは、きっと必然だったのだろう」
「·····必然」
マイアがボソリと零す。
恐らく、俺が朝連中に説教紛い(?)の時に話た、『必然』だとか『運命』ってのを思い出してるんだろう。
「俺が転生する理由も、もしかしたら心残りがあったからかもしれない」
「心残り·····ですか?」
「そう。これもあくまで推測の域を出ないけど·····俺はユナシスが命を懸けて守ったこの国の行く末、延いては、この世界が今後どのように発展して行くのか、又は滅びて行くのか·····それを見届けたい。
俺は、一応表向きは中立の立場だけど、流石にユナシス達が守ったこの国を守りたいって思ってるし、多少肩入れしてる自覚はある。
それでも、馬鹿な事やらかして、自分で自分の首絞めて自業自得で滅びるってんなら、俺は見限るけどね。
だから、俺は状況に応じて『黒髪』を晒すし『ユート・アマクサ』の名前を出す。これはイコール『俺』って事だし、この二つがこの国の“象徴”であり、いざって言う時の為の最後の“砦”でもあるんだ。
だってさ、流石にこんな馬鹿みたいに規格外で化け物じみた奴がいる国に、早々安安と喧嘩吹っ掛けようって思わないだろ?
自殺願望があるなら話は別だけど」
そこまで話して、俺は話を締めた。
「成程·····素晴らしいお話を聞かせて頂きました。それにしても珍しいですね?ユート様から、ここまでの昔のお話をして下さるなど」
「·····そう、だね。あいつの名前が出てきたからかな?自分でも気付かず、ちょっと感傷的だったのかも?」
『?』
今日、探索者チームが言った『初代国王』と、説教紛い(?)の時に、つい昔の話を持ち出してしまった為、少々そちらに気持ちが持っていかれてたのかもしれない。
だから、これは気紛れ。
俺が今後も過去の話をするかは分からないが、どちらにせよ、この話は外に漏れない。
この邸で見聞きした事は契約上誰にも話せないしね。
俺は、ディノフス達に何でも無いと言ってから、今度こそ本当に寝に、寝室へと足を向けた。
·····今日は中々眠れそうに無いな。
そう思ったのも束の間、俺は自分が思っていた以上に心身共に疲れ果てていたのか、朝までぐっすり寝ましたとさ。




