2-4 自由と無法
サインか·····確か、色紙が余ってたかな?
後で書いて渡してあげようか。
不本意ではあるが、別にサイン強請られるのは初めてじゃないし。
一応余分に用意していて良かった。
ギルドカードを受け取り、他の子達もギルドカードを提示し終えたので、さて行くか!と気合を入れ直して踵を返すと、出鼻をくじくように、突如ギルド内に甲高い子供の声が響いた。
「おい!約束が違うぞ!」
何だとそちらの方を向けば、髪がボサボサの、所々汚れた服装をした十歳位の少年が、とある探索者チームに何やら食って掛かっている所だった。
「オレを騙したのか?!」
「おいおい、人聞き悪い事言うなよ。こーこ、ここちゃんと見ろよ。報酬は銅貨一枚ってしっかりと書かれてるだろ?」
「っ?!」
「なあ?!みんな!お前らも念の為確認してくれ!」
そう言いながら、男がニヤニヤやらしい笑みで、一枚の紙を皆に見えるよう掲げて見せる。
確かにそこには、『銅貨一枚で荷物持ち請け負います』と記され、下の欄に恐らく少年とあの男の名前らしき者のサインも書かれてあった。
それを見た何人かが、その意味を悟り顔を顰め、何人かは意味を分かった上で、あの男のようにニヤニヤと楽しそうな顔をしていた。
「くっ·····」
少年も、自分が騙されたのを理解したのか、悔しそうに唇を噛む。
助けを求めるように周囲を見渡し、一瞬俺と目が合ったがすぐに逸らされ、俺達の受付とは反対の受付にいる職員に走り寄った。
「な、なあ、あんたはちゃんと聞いてたよな?」
「ええ、聞いておりましたよ?」
男がにこやかに肯定する。
少年がホッと安堵したのも束の間、
「っなら!」
「しっかりと聞いておりました。銅貨一枚をバイト料として支払うと」
しかし、返って来たのは、少年が望んだ答えではなかった。
「そ、んな·····」
それを聞いて、少年の顔が絶望に染る。
グルだったのだ。あの職員もあの男のチームと。
「·····ねぇ、お姉さん。あのチーム知ってる?」
俺は小声で女性職員に聞いた。
今殆どのギルド内に居る人間が、彼らに注目しているから、此方を気にする事も無いだろう。
「·····はい。最近此方に来たばかりのAランク探索者。『漆黒の剣』です」
女性職員も不快に思ってるのか、眉間に皺を寄せて答えてくれる。
それにしても、アレがAランク?
探索者ギルドも質が落ちたもんだ。
「ふーん·····も一つ質問。あの職員は?」
流石に同僚を売るのを躊躇ったのか、一瞬言葉に詰まって言い淀んだが、すぐに意を決して答えてくれた。
「·····恥ずかしながら、それなりに実績のある職員です。まさかこのような事を·····」
その途中で、まるで此方の声が聞こえてたかのようなタイミングで、少年が言い寄った男性職員がギルド内に響き渡るように声を張り上げた。
「言い掛かりは良しな、ボウズ。俺はちゃーんと、彼が銅貨一枚支払うとこの耳で聞いたんだ!それに、ボウズも確かに紙を確認してから、契約書にサインしてたろ?」
「そ、れは·····だけど·····」
最早少年に勝ち目は無かった。
恐らく、あの子は字が読めない。
昔に比べれば、この国は大分識字率は上がったが、それでも家庭の事情やらでどうしても学校に行けない子供は出てくる。
最低限の名前やらは書けるよう、各家庭で教えてる所もあるみたいだけど。
しかし、あの子も字が読めないと知られると、今回のように騙されるのが分かっていたのか、あの子は字が読める体でサインをしてしまった。
結局は、相手にバレていて騙されてしまったが。
因みに、本来このような事のないよう、職員が間に入って、双方正当な契約がなされるよう執り行われる。その為の監視要員の筈なんだが·····。
「もういいかな?これ以上の騒ぎは、君の為にならないよ?」
殊更優しく、職員は少年に言い聞かせるように、肩に手を置いて言った。
少年も、自分の方が分が悪いのは分かってるだろう。
しかし、ここで引き下がる訳には行かない。
それこそ、彼らの思う壷だ。
俯きながら、少年は握られた拳を力強く握る。
さて、どうしたものか。
ここで俺が間に入るのは簡単だ。
けど、それだけじゃ、今後またこのような事が起きないとも限らない。
しっかりとした予防策を考えなければ。
俺がそんな事を考えていた丁度その時。上の階から声が降ってきた。
「·····これは、何の騒ぎだ?」
ギルマスが、後ろにサブマスを引き連れて、ゆっくりと階段から降りてきた。
二人が一瞬此方を見たが、すぐに逸らされる。
「ギルマス?!いえいえ、大した事では·····」
流石にギルマスに出てこられては溜まったものじゃないと、男性職員が取り繕うような笑顔でそう言ったが、そこに少年が割って入った。
「あんたがギルマスか、ですか?オレは、今日バイトであのチームと一緒に荷物持ちでダンジョン潜ったんだけど、この職員と一緒にオレを騙したんだ!」
「·····何?」
ギルマスの眉がピクリと上がる。
「おまっ!違いますよ、ギルマス!証拠に、ちゃんと契約書もあります」
男性職員が、急いで男のチームから契約書を奪い取ってギルマスに渡す。
「·····ふむ」
ギルマスは、紙を一瞥してから少年を見た。
「単刀直入に聞くが、君は字は読めるのかい?」
「っそれは·····」
「正直に答えて欲しい」
「···············せん」
「うん?」
「読めねぇーよ!悪いか!」
ギルマスの追求に、少年は逆ギレ。
顔を真っ赤にさせて、体をプルプルさせていた。
しかし、そんな少年にギルマスは怒る事もなく、優しい声音で諭すように言う。
「別に悪くは無いさ。ここだけの話、俺も君くらいの年にギルドに仮登録をしに来て、文字を読む事も書く事も出来なかった」
「·····ぇ?」
「だけど、俺には素晴らしい出会いがあったからな。
以前は今のようにしっかりとしたルールが定まってなくて、契約書を書く事も、職員の立ち会いもなかった。
そこで、そのある方のお力添えもあって、今の確たるルールが定められたんだ。
私も、バイトの合間に、あの方から文字を教わって今に至る」
そこで一度言葉を区切ると、ギルマスは周囲を見渡し声を張り上げた。
「皆も聞いて欲しい。
我々ギルドの基本理念は『自由』だ。国ですら、滅多に介入しない。
されどあの方はこう仰った!「『自由』と『無法』は違う」と。
『自由』とは、最低限のルールを守りながら、自分らしく生きる事!
『無法』とは、ルールに従わず、自分本位で自分勝手な行いをする事!即ち、盗賊共と何ら変わらないのだと!
その為、我々探索者ギルド然り、各ギルドも最低限のルールを設けてある。
正当防衛以外で、一般市民に危害を加えるな、とかな。
中にはきっと、ルールが厳しいのではと不満もあろう!だが、ルール無くして、否、ルールがあるからこそ、我々は人たらしめていると、俺は思う。
人で無くなれば、我ら探索者は、ただの獣に落ちるだけ。
その為のルールであると肝に銘じよ!
·····それでも尚、不満があると言うなら、いつでも探索者を辞めてくれても構わん。俺達探索者は、『人間の集団』なんだからな」
ギルド内がシンと静まり返る。
この場にいる全員が、ギルマスの演説に耳を傾け、難しい顔で考えていた。
「さて、少々話が長くなってしまったが、もう少し詳しい話が聞きたい。上に少し付き合ってくれないか?·····勿論、そこの職員とそこのチームもだ」
男のチームが、そろりとその場を後にしようとしたのを目敏く見つけ、ギルマスが鋭く睨む。
どちらにせよ。出入り口を他の探索者に塞がられていたので出れはしなかっただろうが。
男性職員も、今や顔面蒼白になって、諦めたようにガクリと肩を落としてすごすごとギルマスの後を付いて行った。
俺はその後ろ姿を見遣り、暫し考えてから従魔達を見た。
「悪い。ちょっと待っててくれる?」
「分かりました」
「ん」
「いいよ~」
「あんま遅くなんなよな?」
「·····寝てます」
や、寝るなよ(笑)
従魔達それぞれの了承を得てから、俺は後ろを振り返る。
「お姉さん、ちょっと付き合って?」
「·····へ?」
俺はニッコリと微笑んだ。
【補足】
念の為に、その他のカードの表記も説明。
『ランク無し』の唯の身分証の時のカードは、以下の通りになります。
━━━━━━━━━━━━━━━
【―――】
名前/○○
ランク/なし
━━━━━━━━━━━━━━━
と、こんな感じでとてもシンプルです。
上の【】の部分は、ちゃんと(?)ギルド登録をすれば付きます。
ついでに、仮登録の場合も書いときます。
━━━━━━━━━━━━━━━
【(仮)探索者】
名前/○○
ランク/F
職種/(あれば書く。無ければなし)
━━━━━━━━━━━━━━━
以上です。
職種ってのは、言わば何が出来るかって事ですね。探索者なら、戦闘が出来れば良し。
狩人ギルドなら、解体が出来るか。採取か狩猟が得意か。そんな感じ?
魔法ギルドなら、勿論得意な属性魔法とか。
職人ギルドなら、武器・防具・装飾・魔道具など、何を作れるか?
商人ギルドは·····どうしよう?(笑)雑貨か食品か魔道具かなどの、何を専門に売るとか?そんな感じ?(笑)
此方が少し短めなので、本日は2話目も投稿します。




