プロローグ
楽しんで頂けると嬉しいです。
これからよろしくお願いしますm(_ _)m
──ああ··········今回はハズレか。
最初に思ったことは、そんな事だった。
真っ暗闇の中、布団から腕を出して掲げ、魔法を発動する。
《暗視》──。
すると、先程まで何も見えなかったのが嘘のように、周りがハッキリと見えるようになった。
そこで掲げていた腕を見ると··········骨と皮だけの、五歳児にしては、何ともみすぼらしい姿に、軽く溜め息が漏れる。
···············よしっ!家出しよう!
俺は悩むことなく、一瞬にしてそう決めると、ベッドから起き上がり、クローゼットの中を漁る。
あまり上等な服だと一般人に紛れるのは難しいだろうから、怪しまれない程度の物を·····と思ったが、ハッキリ言ってそれは杞憂に終わる。
正直な所、ろくな服が無かった。
数着は外行き用でまともな服だが、それ以外は全部お下がりで、俺のサイズに合っていないものばかり。
俺は苦笑しつつも、白シャツ──所々黄ばんでいて、肩からずり落ちそうな程のダボッとしたやつ──と、黒の半ズボン──俺からしたら長ズボン──を取り出して、パジャマからそれらに着替える。
ズボンは、ウエストがガバガバなので、紐で結んでおいた。
荷物は·····まあ、必要無いか。
あと、置き手紙もいらないよな?
別に書くことも無いし、万が一捜索されて見つかっても、きっとどうにかなるだろう。
俺は、カーテンを開け、窓を音を立てずにそっと開けてバルコニーに出た。
人の気配を探り、誰もこちら側に意識を向けてないことを確認してから、声を潜ませて彼らに声を掛ける。
「闇の精霊、俺の魔力を一時的に封じて姿を隠蔽して。風の精霊は、俺を人目の付かない所まで運んで」
そう言い終わると同時に、俺の体が宙に浮く。
確認のしようも無いが、間違いなくきっと姿も消えていると思う。
そのまま、俺はバルコニーを飛び出し、五年間過ごした家を後にした。
俺の、現世の名前は【リカルド・ヴァイン】──。
まあ、今後は多分、この名前を使うこともないだろうから、あまり覚えてなくてもいいか?
『現世』と言うからには、勿論『前世』がある。
そして記憶も·····。
但し俺の場合は、前世だけでなく、前前世、前前前世の記憶も、流石に完璧にでは無いが、所々に覚えていたりする。
俺の最初の記憶は、日本と言う国で生まれ育った記憶。
二十六歳の時に、一人で山登りをしていると、突如霧に覆われて、気付いたら異世界に迷い込んでいた。
いやー、流石にあの時はパニクったね。
霧が晴れたあと、何も知らない俺は、普通に山登りを再開したんだけど、すぐに見たことも無い動物──後に『モンスター』と判明──に殺されかけて、現地人の【探索者】と呼ばれる人達に助けられて、この世界のことを聞かされて、自分が異世界転移したのに気付いて、半ば放心状態に陥った。
更に、あの場所は【ダンジョン】だと後に判明。目が飛び出る程驚いた。良く生きてたよ、ほんと。運が良かった。
それから、冷静な状態でなかった俺は、ぽつりぽつりと、その探索者の人達に俺が異世界転移したっぽいことを話してしまった。
今考えても、かなり危険だったと思う。
最悪、何かの実験や、利用されて捨てられる可能性だってあったと言うのに·····。
けれど、本当に運が良かったと言うべきか。その探索者の人達は、そこそこに名の知れた探索者達だったらしく、そして人も良かった。
半信半疑ながらも、国王に話を持ちかけてくれて、しかも、その国王も人が良くて(勿論、それだけじゃ国王は務まらないが)、真摯に俺の話を聞いてくれた。
そこで判明した事は、俺のような異世界人の話を今まで聞いたことがないらしく(少なくとも当時は)、帰れる見込みも薄いと言うこと。
そりゃ、絶望したね。
順風満帆とは行かないまでも、それなりに日本で幸せな日々を過ごしてきたんだから。
俺が、よっぽど悲壮感を漂わせていたのが分かったのか、国王は人の良い笑みで、出来る限りのサポートを約束してくれた。
勿論、タダでは無い。
見返りとして、俺に異世界のことを教えて欲しいと言ってきた。
なので、軍事利用されない程度で、俺の知っている限りは教える、と。
俺の住んでいた国は、今では平和だけど、戦争もあったくらいだし、そう言ったことには力を貸せない、とハッキリと告げると、何故かかなり好感を持たれた。
その後、魔力量を測ったら、俺は一般人の倍の魔力を有していたらしく、それでも、国王は俺に何かしろとは命じず、幾つかの選択肢を与えてくれたが強制ではなく、どうしたいのかを聞いてくれた。
俺は、あっちでは、まだ見習いではあったが料理人としてやっていたので、出来ればこっちでも料理人としてやって行きたいと告げると、なら、城の料理人としてやってみてはどうかと提案してくれた。
俺としては願ったり叶ったりだったので、その申し出を有難く受け入れ、城で雇ってもらう事になったのだった。
当時は、食文化がそれ程発達してなくて、焼いたり炒めたり、煮込んだりもあったけど、殆どが時短で済むようなものばかり。
時には生焼けなんかを普通に食べてて驚いた。
時間をかけて作ると言う発想が、この世界には無かったようだ。
それから、城では調味料をふんだんに使ったり、脂っこいものが定番。栄養バランスなど一切考えない。
逆に平民だと、味が薄すぎたりと、上流階級との差が激し過ぎたりしていたものだ。
そこで、俺が出来る限りの料理を披露することによって、徐々にだが、その国から食文化が発達していったのだった。
因みに、この世界での食材などは、あっちの世界での食材とさほど変わらない。
多少見た目や名前が違うくらいか。
それから、見返りを要求された割には、国王から根掘り葉掘りあちらの事を聞かれることはあまり無かった。
多少は聞かれたが、殆どが世間話程度。
国王曰く、俺の料理知識だけで、かなりの見返りになっているとの事。
寧ろ、お釣りが出るくらいだと、豪快に笑っていた。
こうして、国王と話している内に、俺は何故か、国王の飲み友達と言うか、友人として周知されるようになっていった。
そうして俺は、とあるメイドと恋仲になり、結婚して子供をもうけ、その国で生涯を終えた。
次に目覚めた時に思ったのは、何故?だった。
他国ではあったが、貧しい農家に生まれた俺は、八歳の時に前世の記憶を思い出した。
魔力量は、前世の時より更に倍に膨れ上がっていて、顔を引き攣らせたのを今でも覚えてる。
そして、前世の時もそうだったが、俺はどうやら精霊に好かれる体質らしく『精霊魔法』が使え、その時も難なく使えた。
暫くは農家で大人しくしていたが、十五の年に村を離れ、旅人をしながら前世の国に赴き、どうにかして国王と謁見できないものかと考えたのだ。
驚くことに、俺が死んで産まれるまで、それ程時間は経っていなかった。
と言うより、死んですぐに転生していたみたい?
そんな訳で、知人──或いは、その子供達が俺の事を覚えているかもしれない。
別に、庇護を求めているわけではない。
ただ単に、懐かしの者達に会いたい。その一心だけだった。
例え話し掛けることが出来なくても、一目遠目でいいから、元気な姿を拝みたかった。
そこで、ダメ元で俺は手紙をしたため、それを風の精霊にお願いして、現国王──俺の友人であった先代国王は、俺が死ぬ前に既に他界していた──に運んでもらうことにした。
それから程なくして、手紙の返信が届き、驚くことに謁見の許可を貰えた。
流石にすぐには信じて貰えなかったらしく、幾つかの条件付きではあったが。
俺の知り合いばかりではあるが、武装した近衛や騎士を配置する。
謁見の場は、強力な『魔封じ』が施されており、そこに必ず一人で来ること。
俺に否やは無いので、すぐにそれを了承し、決められた日時にそこに向かった。
幾つかの質問を投げかけられたが、すぐに俺が本人だと分かると、そのままの勢いで宴会に突入。
翌日の執務に影響を及ぼしたのは、まあご愛嬌だ。
そして、何故俺が前世の記憶を持って転生したのか分からずじまいだったが、もしかしたら、次もあるのでは?と思った国王は、王家にしか伝わらないように、俺と王家だけしか分からない合言葉?みたいなものを取り決めた。
流石に次は無いだろう·····なんて思ってた俺を、誰も責めはしないだろう。
予想外にも、俺はその後に何度も転生する羽目になるわけだ。
もう、何回転生したのかは覚えてないが(笑)
そこで、幾つか分かった事と言えば、俺が死んでから転生するまではマチマチで、今までは最長で十年。
記憶が戻るのは、五歳から十歳──生活環境によって変わるようだ──で、記憶が戻る時は必ず何日か高熱で魘される。
記憶が戻るまでは、一般人と変わらなかったり、もしくはそれ以下の魔力量だったのに、記憶が戻れば、魔力量が何故か急激に膨れ上がる。
高熱が出るのは、その為であるのではないかと考えている。
それから、魔法やら身に付けた技術なんかは、前世からの持ち越し。
つまり、今まで覚えてきたもの全てが使用可能。
所謂『強くてニューゲーム』状態として転生。
当然、これらも記憶が戻るまでは使えないけど。
あとは、産まれてくる国や場所は、完全ランダム。
その場所によって、当たりだったりハズレだったりする訳だが·····。
そう。これが冒頭でも述べたように、今回は完全なるハズレ転生(笑)
大丈夫かね?あの家。
今での経験から言わせてもらえば、俺が居なくなったあと、大変な事になるのは目に見えてるけど。まあ自業自得と言うか、俺の知ったこっちゃないから別にいいけど。
と、そろそろ着くかな?
説明の続きは後程。