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エンドレス・ロード  作者: かに/西山りょう
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第5話 遭遇-encounter-③

挿絵(By みてみん)

-第5話-



「ちっ、面倒なことになったぜ」

 犬養いぬかいは尻ポケットからスキットルを出して一口飲んだ。

 隣に座る小西は小言も言わず、神妙な面持ちで自分の手を見つめている。

「さっさとケリをつけねぇと死人が増える……」

 スキットルを仕舞った犬養いぬかいがつぶやいた。

 その顔には疲労感が張り付いている。

 即応部隊の車両は隠密りにゲートを抜け、ガタゴト揺れながら自然区を走っていた。

 目的地まであと少し。

 犬養いぬかいは出撃前の市長とのやり取りを思い出していた。



 北ブロックにある即応部隊の宿舎の横。

 こじんまりとした建物に対策本部が設置されていた。

 戦闘から帰還した犬養いぬかいがアイオミに状況を説明する。

「化け物は思いのほか行動が速く、最初は銃弾を全て軽く回避されました。分隊の応戦も歯が立ちません」

「歯が立たないとはどういうことかね?」

「攻撃しても、またたく間に傷が塞がると言うか……」

「傷が塞がる? 不死身ということかね?」

「化け物とはいえ生命体ですから不死身ではないと思われますがねぇ」

 アイオミは腕を組んで情報を整理する。

「アサルトライフルの攻撃ではダメージを与えられないということか……?」

「そうですね。かなり火力はあるんですが」

「頭はどうだ?」

「狙ってみましたが、どうですかね……。一瞬怯みましたがさほど効果はありませんでした」

 『うーむ』とアイオミが唸る。

「頭を丸ごと……そうですね……首から上をふっ飛ばすくらいやらないと効かないような感じでした」

 これは実際に応戦した犬養いぬかいの率直な感覚によるものだ。

「で、被害状況は?」

「死亡者5名、生還者3名。うち1人が重傷です」

 甚大な被害だ。

 アイオミは腕を組んだまま目を閉じて思案した。

 出来れば強力な火器の使用は避けたい。

しかし、これ以上の被害拡大は防がなくてはいけない。


擲弾発射器グレネードランチャーの携帯許可を出せば対処できるかね?」

 アイオミの提案にも犬養いぬかいの表情は冴えない。

「当てられれば……の話ですが」

 キメラの動きのスピード、跳躍力は想定を遙かに上回っていた。

 実際、ファーストコンタクトでは銃撃をことごとくかわされている。

「せめて、動きを止められればいいんですけど……」

「動きを止める、か……」

 アイオミは幾つか対応手段を考えた。

 自然区に放牧された動物を調査するときに使用する麻酔銃はどうだろうか?

 だが、銃弾をものともしない生物だ。

果たして効果があるのだろうか? 


 いくら考えていても答えは出なかった。

 一刻も早く問題を解決し、騒ぎを鎮静化しなければならない。

 マスコミの報道で市民の不安も大きくなっている。

 それに、先日の地震で開いた穴の影響も気になる。

補修作業をするためには作業員の安全を確保する必要がある。

そのためには、なんとしてもあのキメラを排除しなくてはならない。

 アイオミの焦燥感が募る。


「一体キメラを倒すにはどうすればいいのか……」

「キメラ?」

「私が名付けた。あの容貌は伝説の生き物、キメラを思わせる」

「キメラ……か」


 しばし黙っていた犬養いぬかいが口を開く。

「対戦車ロケット砲、それから煙幕スモークと閃光弾の携帯許可をください。後は、火力でなんとか……してみます」

 正直、自信はまったくなかった。

 だが、やるしかない。

 市長の焦りを生で感じる犬養いぬかいに否定は許されない。

 そんな空気だった。


 閉鎖都市では小さな火種が崩壊を招く大事に変化しかねない。

 市民はここが最後の砦であり、ほかに行く当てなどないのだから。



 ゴトゴト揺れる車内で犬養いぬかいがうなだれる。

 それを心配そうに小西が見つめる。

 補充要員として臨時に犬養いぬかいの隊に編成されたB分隊のメンバーがそんな様子をうかがっていた。

「即応部隊なんて、閑職だと思ってたんだがなぁ……アテが外れたなぁ……」

犬養いぬかいさん……」

「無用の長物とか税金の無駄とか言われてたってのに、今日は休む間もなくダブルヘッダーだ。なんだってんだ……くそっ」

 再び尻ポケットからスキットルを出して犬養いぬかいがグビグビと飲む。

 分隊の仲間を亡くし気を紛らわせようとしている犬養いぬかいを叱責する者はいない。

「キメラか……」

 犬養いぬかいの言葉に小西が不思議そうな顔をする。

「キメラ? なんです、それ?」

「市長がヤツのことをそう言っていた」


 やがて車両が目的地に到着した。

 エンジンを切ったあとの林はシンとしている。

「必ず仕留めるぞ……っ」

 鬼のような形相をした犬養いぬかいが低い声でつぶやいた。

隊員達は犬養いぬかいにうなづき、次々と降車した。


 犬養いぬかいを先頭に戦いの痕跡を横目に警戒しながら進んで行く。

 まだ新しい隊員の亡骸や飛び散った血痕が生々しく痛々しい。


「……いたぞっ」

 犬養いぬかいが小声で叫ぶ。

 前に遭遇した位置からキメラはほとんど動いていなかった。

 キメラはこちらを少し見つめているが、深夜に遭遇した時とは様子が異なっている。

 180メートル程先の草地で地面に座っているキメラはわずかに尾を揺らめかせていた。

「寝ているんですかね?」

 小西に犬養いぬかいが首を振る。

「いや……視線はしっかりこっちを見ている。油断するなっ」

『はいっ』と返事をする隊員をぐるりと見回し、犬養いぬかいが装備の指示をする。


 弾速の遅いグレネード弾ではこの間合いは回避されかねない。

 何しろ相手は尋常じゃない運動性と動体視力を持つ相手だ。


 犬養達はキメラの動きに細心の注意を払いながらじりじりと間合いを詰めた。

安全かつ弾薬の届くところまで進むと、武器の安全装置を解除した。

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