表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エンドレス・ロード  作者: かに/西山りょう
26/29

第23話 奇襲

挿絵(By みてみん)

-第23話-



 東ブロック倉庫エリアに到着した唯の携帯に瑞穗からのダイレクトメッセージが入る。

「そっか、ドームシティに戻ったから電波が入るようになったんだね! で、なんだって?」

藍が唯の隣で携帯をのぞき込む。

「瑞穗達、無事だって」

「私もさっき、エリーに『作戦は今の所順調』って送ったよ」

「うん」

 瑞穗達は自然区でB分隊隊長のすみの指揮のもと警護されているらしい。

「唯の読みとおり、マハは不活性化して西ブロックの真ん中で動きを停止したんだって。でも……なんとシミの大きさが100メートルを超えるまでになったとか……」

「100メートル……」

 その会話を聞いていた犬養が口をはさむ。

「いつの間にか野球場くらいのデカさになったってわけか。次に動き出したら……自然区ごと飲み込むんじゃねぇか」

「その前に、なんとしてもセントラルタワーの主権を取り戻し、ドームシティの機能を制御しなくては」

 ひっ迫した声でアイオミが言う。

 アイオミを追いながら一同は足早に飛行船が保管されている倉庫へ急いだ。


 連なる倉庫群の中を迷わずアイオミが走る。

 目的の倉庫はひっそりと夕闇の影に溶け込んでいた。

 アイオミの操作で、ギシギシと音を立てながら長らく封印されていた倉庫の扉が開く。


 大型倉庫の中に入ると小型の飛行船が中央に格納されていた。

「パパ、これが……飛行船……?」

 飛行船はアーモンド形状で、長さ39メートル、高さが13メートルほどである。

 上部のエンベロープ部分にヘリウムガスを充満させて浮遊するタイプのものだ。

 乗員はパイロット+3名。

 最大時速は85キロメートルで、15時間航行可能だ。


「千々岩くん、それから木皿儀くん。私が指示をするからスターターを手伝ってくれるかね?」

「わかりました」

「はい」

 千々岩と唯がアイオミが立つゴンドラの方に向かう。

 藍と犬養、小西はエンベロープにヘリウムガスを注入する準備に取りかかった。

 夜の暗闇にまぎれて、ひっそりと飛行準備が進んでいく。


 1時間半後。

 全員で準備の整った飛行船を倉庫の外へ運ぶ。

 ゴンドラの運転席にアイオミ、その後ろに犬養と小西が乗船した。

「あの……私も乗せてくれませんか? なんだか胸騒ぎがするんです……」

「しかし、木皿儀君……」

「パパ! 唯が乗るなら私も!」

「藍まで……!」

唯と藍が訴えるような目でアイオミを見る。

「市長、定員は4人……でしたよね? 降下作戦をするのは俺と小西だけですから、ある意味上空の船の中のほうが安全かも知れません。どうします?」

 犬養の言葉を吟味するようにアイオミがしばし考える。

「成人男子4人という計算でされているから、君達二人くらいなら問題ないだろう」

「パパ……!」

 藍は飛び上がって喜び、唯とともにゴンドラ内へと乗り込んだ。


 操縦桿を握るアイオミが1人残る千々岩を振り返る。

「千々岩くん、あとは任せたぞ。万が一の時は……」

「はい、市長」

 うなづくとアイオミは前方を見据えた。

「出航する……!」

 アイオミの声と同時に、飛行船は音も立てず静かに東ブロックの倉庫エリアから飛翔した。



 どんどん飛行船の高度が上がってゆく。

「すごい、本当に飛んでる……」

 身を乗り出す藍のおくれ毛が風になびいた。


 今まで見たことがないシティの上空。

 見慣れた地上からの風景とは違い、別世界に思える。


「本当はこの飛行船も、狭いドームシティではなく天井のない自由な青天の大空を飛びたかっただろうに……」

 操縦桿を握るアイオミが哀愁の表情を浮かべる。

「市長……」

「私にも夢があってね。いつか自分の子供とこうやって空を飛びたいと思っていた。こんな状況下で不謹慎だが、夢が叶ったよ」

「パパ……」

ゴンドラを揺らさないように気をつけて、藍はそっとアイオミの背中に寄り添った。



 一方、セントラルタワーの展望台。

 中央の売店を改造して豪華な執務室を構えた西園寺は、椅子にふんぞり返りながら赤ワインを飲んでいた。

「西園寺様、マハは西ブロックの中央付近にとどまっているようです」

 部下が現在の状況を西園寺に報告する。

「ふん、避難している連中が惹きつけてくれているようだな。時間稼ぎくらいは役に立ってくれそうだ」

「どうしますか? いずれ北ブロックにも侵攻してくるかもしれません」

「そうなったら、いよいよこの街も潮時だな。外へ出ていく準備は出来ている。あとはそれまで下層の連中が喰われれて死ぬさまを酒の肴に楽しませてもらうとしよう」

グラスを揺らしながら西園寺が下衆な笑みを浮かべる。

「くっくっく……」


 隣に立つ女性ににワインを注がせていると、西園寺の元へ部下が走り込んできた。

「西園寺様、不審な影がタワーの上空に近づいてきます!」

「なに!?」

 慌てて椅子から立った西園寺が、360度開けたパノラマガラスをキョロキョロ見回す。

「な、なんだあれは……飛行船か……っ!?」

 部下の声がしたかと思うと


 バババババッ!


 犬養の銃撃で展望台のガラスが割られていく。

「うわーーーー!」

 不意打ちを喰らった西園寺の部下達が一斉にのけ反った。

 割れたガラスの隙間をめがけて、絶妙のコントロールで小西が手榴弾を投げ込む。


 ドーーーーーーンッ。


 爆発の衝撃で西園寺の側近が数名吹き飛んだ。

「くっ、即応部隊かっ!?」

 身の危険を感じた西園寺はいそいそと奥へ隠れ込む。


「いくぞ、小西!!」

「はいっ!」

 飛行船から垂らした縄ばしごをつたい、犬養と小西がタワーの展望台に降下する。


「このぉーーーーー!!」

 西園寺の部下が、ガラスを蹴破って侵入した犬養に長い刃物を振り回して襲いかかる。

 だが、所詮は訓練もされていない力任せの素人の太刀筋だ。

犬養は見切ったように軽くかわすと、カウンターで蹴りを繰り出した。

「ぐわーーー!」

手下の男が吹き飛んで壁に激突する。

 逆方向では小西が銃撃戦を展開していた。

 しかし、プロと素人では射撃精度に力の差がありすぎた。

 犬養と小西は、展望台にいた西園寺の部下をあっという間に片付けた。


「これで全部か!? 西園寺はどこに行った!? あのブタ野郎!」

 展望台を見回りながら犬養が吐き捨てる。

「この階にはどこにもいません!」

「くそっ、どこに逃げやがったっ!」

 イライラと床を蹴る犬養に小西が合流した。

「犬養さん、下に潜伏しているC分隊の隊長と無線が繋がります。応援を呼びかけましょう」

「おう!」


 セントラルタワー直下。

 地下駐車場や建物の陰などに身を潜めていたC分隊の隊員達がタワーの様子がおかしいことに気づく。

 声をひそめ、隊長の坂下が無線で連絡を取る。

「どうした?」

「坂下さん、A分隊の隊長、犬養さんが上層から奇襲をかけたとのことです。上下の挟撃を呼びかけています」

「よし、絶好の機会だ。打って出るぞ! 俺に続け!」

 坂下は部隊を再編成し、セントラルタワーの正面玄関口に突撃をしかけた。



 セントラルタワー上空。

 ゆらゆらと強い風に振られながら飛行船はなんとかとどまっていた。

「ここはヴェールの影響が強いな……」

 アイオミは真下のセントラルタワー屋上を見下ろす。

「木皿儀君、しばらく飛行船をみていてくれないか?」

 そう言うと、アイオミは唯に操縦桿を託して縄ばしごに手を伸ばす。

「パパ、どうするつもり?」

「やはり、この問題は私が決着をつけなければなるまい……」

 アイオミは飛行船からはしごでタワーの屋上に降り立つと、飛行船が遠くに行かないようアンテナにはしごの先端をくくりつける。


 その数秒後。

 反対側の非常扉が勢いよく開いた。

 そこには、血相を変えて逃げてきた西園寺と連れ添う女性の姿があった。


「西園寺……!!」

「アイオミか……!?」


 セントラルタワーの屋上で、ヴェールの強風にあおられながら二人の男が対峙した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ