第14話 突入①
-第14話-
「おはよー」
「おっはぁ~!」
「おーす!」
環状シャトル線、北西桜台公園駅でエリーと藍が唯達を出迎える。
4人で立ち話をしていると短くクラクションが鳴った。
犬養の車だ。
「よう、今日も元気だな」
犬養が助手席の窓から顔を覗かせて4人組に挨拶する。
「おはようございまーす」
唯達の声がハモって挨拶を返す。
「あれ? 小西さんは?」
「邪魔だから宿舎に置いてきた」
「ひっどー!」
藍と犬養がケタケタと笑う。
「さぁ、みんな乗った乗った」
「はーい」
4人を乗せると車は学校へ向かい走り出した。
「ねぇ、犬養さんっていつまで送り迎えをしてくれるの?」
後部座席に座る藍が犬養に訊く。
「ん。最初は3日くらいでいいと市長に言われたんだが、どうもまた物騒になってきてなぁ」
「え、どういうこと?」
返事の代わりに犬養がラジオを点けた。
『……先日、電力会社の作業員3名が行方不明になった事件を受けて、北堵警察署が南ブロック地下の調査を開始しました。詳細は……』
「ああ、そのニュース知ってる知ってる。もう朝から電子新聞や共用ネットワークでそればっかり」
藍が納得顔でぽんと手を打つ。
唯も朝の電子新聞のニュース見出しを思い出した。
「しかも二人の作業員が付近で不審な死に方をしたらしい。その前にも支柱の点検員が変死している。どう考えても『そこ』に何かある」
言いながら犬養が顔をしかめる。
「そっかぁ。学校も南ブロックだから怖いよね~~! 気をつけないと!」
元気に笑うエリーだが、かなり声が不安げだ。
そんなエリーを気遣って藍が再び訊く。
「犬養さん達は出動しないの?」
「ん? ああ、こういうのは警察の仕事だろ。俺達の管轄外だ。即応部隊は状況に応じて市長の命令で動く。まぁ、正直この事件は気にはなっているけどな」
「ふーん……」
唯も何故だかこの事件に胸騒ぎをおぼえていた。
『えー、今新しい情報が入って来ました! 調査中の警察官が拳銃で撃たれ重傷! 繰り返します、警察官が拳銃で撃たれて重傷とのことです!』
「えええっ!?」
後部座席で驚きの声が上がる。
ほぼ同時に『ピピピピ』という味気ない着信音が犬養の携帯から鳴った。
即応部隊の宿舎で待機している小西からだ。
犬養は自動運転に切り替えてすぐさま返答する。
「俺だ。どうした?」
『市長からの通達です。至急作戦室に集合するようにと』
「なに? たった今報道された事件のことか?」
犬養のセリフを聞いた唯達が身を固くする。
『ええ。毒ガスやテロを想定して対応することになったみたいです』
「そうか、わかった。すぐ行く」
携帯を切り、犬養が再びハンドルを握る。
「少し飛ばすぞ。しばらく我慢しろっ」
犬養はアクセルを踏み込み、スピードを上げて北堵女子高等学校へ急いだ。
40分後。
即応部隊の作戦室で犬養と小西、作戦に参加するバーンとクローゼの4名が市長と向き合った。
「今回の作戦はバイオテロや薬物、原因不明の脅威を想定としたものだ」
アイオミの言葉に場がざわつく。
犬養は他メンバーを鎮めてアイオミに尋ねた。
「一体どういうことですか?」
「事の発端は支柱の点検をしていた茂木という人物だ。作業中に高熱に見舞われ、そのまま病院に搬送された。そして、その日の深夜に突然発狂し、変死した」
「はい。その事件なら自分も電子新聞で見知っています」
「昨日の電力会社の作業員二人の変死も、茂木のケースと酷似している。いずれも共通点は南ブロックの地下で作業をしていたという点だ」
犬養の表情が険しくなる。
アイオミは一旦閉じた口を開いた。
「感染症も疑われたが、北堵南病院の医師によると茂木と共に点検に当たっていた作業員の杉田には健康状態の異変は確認出来ず、また地上までタンカで茂木を運んだ同僚も異変無しとのことだ。北堵電力の作業員も同様で、部長や同部署の社員などに異常は見られなかった」
「つまり……」
犬養が言葉を選びながらアイオミをじっと見る。
「接触感染や空気感染といった人から人へ伝染するものではなく、直接吸引、摂取する毒ガスや薬物といったものが考えられるということですね?」
「そうだ。症状から見て耐え難い苦痛、もしくは強力な幻覚作用を催すものだと推測できる」
「なるほど。警察官が撃たれたというのは……?」
「発狂した警察官が錯乱して拳銃を乱射し、同僚に弾が命中したとのことだ。発砲した本人は奇声を上げながら自身に向けても発砲し、間もなく死亡が確認された」
事件の大体の概要はわかった。
しかし、どうにも腑に落ちない。
口を閉ざしたアイオミに犬養が質問する。
「行方不明になったと言われる3人と何か関係が?」
「まだ調査の途中で朝の発砲事件だ。詳しい鑑識は行われていない。だが、行方不明になっている北堵電力の藤原という人物が所有していたと思われるボールペンとクリップボード、作業着のベルトの金具は発見されている」
「血痕や凶器等は見つかっていない……ということですね?」
「そうだ。作業に当たっていた社員の中で唯一無事だった佐藤という男性に話を聞こうと、警察が署の取調室に連れて行ったようだが、強い精神ストレスを受けていてまともに話が聞けなかった。ただうわ言のように『藤原が消えた』と繰り返すばかりだと」
「…………」
変死と発狂、そして行方不明者。
それらがどう繋がるというのか?
謎を抱えたまま犬養達は部隊の車両に乗り込んだ。
南ブロック。
業務用の作業点検出入り口前にマスコミ関係者が群がっている。
それをかき分けて即応部隊の車両が到着した。
ガスマスクと防護服を着た犬養ら4名が車両から現れる。
「即応部隊の連中が来たぞ!」
騒ぐマスコミ関係者を押さえて警察官達が左右に道を空けた。
即応部隊4名は『KEEP OUT』と書かれたテープをくぐり、犬養の合図で一斉に地下へと突入した。




