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エンドレス・ロード  作者: かに/西山りょう
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第11話 休日

挿絵(By みてみん)

-第11話-



 藍の誘拐事件から1週間後の日曜日。

 唯は朝から藍とエリー、瑞穗を誘ってセントラルタワーへ向かった。

久々に4人での外出だ。

 唯は白襟にベージュの白の小花のワンピース、瑞穗は白のバルーンブラウスに紺色のシフォンのロングスカート。

 藍は焦げ茶とオフホワイトのボーダーサマーセーターにジーンズ、エリーはオレンジのポロシャツにカーキのショートパンツ姿である。

 おしゃれな藍は赤いイヤリングとネックレスを身につけている。


 セントラルタワーは65階まである行政施設が入っている建物で、北堵ドームシティの中心にある。

 最上階の展望台は9時から17時の時間限定で一般市民に開放されていた。

セキュリティの観点から、設置された携帯端末に名前と展望台のパスワードを入力すれば誰でも利用できる。


 唯達はタワーの1階の受付端末に情報を入力して、展望台直通のエレベーターに乗った。

 ガラス張りのエレベーターがすごい速さで上昇してゆく。

「いい景色だねー。この浮遊感がたまらない!」

ガラスに手をついてテンションを上げる藍に対して

「うわ、高っ! コワッ!」

高所が苦手なエリーは建物側の壁に張り付いて動かない。

そんな様子を唯と瑞穗が笑顔で見ていた。


 2分ほどして『チン』という音が鳴る。

 エレベーターの扉が開くと真っ先にエリーが飛び出た。

「エリー、そんなに慌てなくても……」

唯が笑いながら続いて出る。

 

 展望台に立った4人は周囲を見回した。

360度の大パノラマが広がり、北堵ドームシティの全貌が見渡せる。

視線を一番遠くに向けてもドームシティの外壁はわからない。

各ブロックに何基もの風車がくるくると回るのが見えた。


「わー、すごい~~~!」

感動しながらもエリーはやはり窓際には近づかない。

瑞穗は『北堵展望台案内図』と書かれたパンフレットを手に取り、パラパラと眺めている。

「エキセントリックな眺めだねー!」

窓際で街を見下ろす藍にそっと唯が歩み寄った。

「気分転換になったならいいけど……」

「なるなる! これは一度くる価値はあるよ」

「……よかった」

「まぁほら……色々あったから。今まで当たり前だと思ってたことが、実はそうじゃないんだってことがさ」

「うん……そうだね」


唯と藍はじっと街並みを見渡し感慨に浸る。


この4つのブロックに様々な人達が住んでいる。

一見平和そうに見えても、たくさんの思惑があって動いていて……。

ちょっとしたことで簡単に均衡が崩れてしまう。


「いつでも来れると思ったらここになんか来ないのに……なんだか変だよね。あははっ」

藍はいつまでも街を見続ける。

唯は何も言わず、藍の肩を包むように手を置いた。


「のどが乾いたよ~、なんか飲もうよ~!」

一通り見回ったのか、エリーの声が皆を呼ぶ。

展望台の中央にある喫茶店に集まって4人はテラス席に座った。

「私、アイスクリームソーダ。みんなは?」

エリーが言うと残り3人がこぞってメニュー表をのぞく。

「えっとロイヤルミルクティ、かな」

控えめに瑞穗が告げると次に藍が

「スパークリングジンジャードリンク! 唯は?」

「えっと、フレッシュオレンジジュース」

「はい、決まり。おねえさん、オーダーお願いしま~す!」

待ちきれないエリーが店員に飲み物を注文した。


アイスクリームを食べ尽くしてソーダをすすっていたエリーがふと顔を上げる。

「ねぇねぇ、このあとみんなでカラオケにでもいかな~い?」

「お、いいね! たまにはストレス発散もいいさ。行こう行こう!」

「カラオケねぇ……瑞穗は知ってる歌いっぱいある?」

唯が自信なさそうに言うと瑞穗がにっこり微笑む。

「みんなで一緒に歌えば大丈夫だよ」

「そっかなぁ」

「ぶつぶつ言わないの、唯!」

残りのソーダを急いで飲み終えたエリーが勢いよく立ち上がる。

「いざ、カラオケにしゅっぱ~つ!」

「おー!」

エリーを先頭に藍が続き、唯は瑞穗に背中を押されてエレベーターに乗り込んだ。



犬養と小西は久々の休暇で南ブロックの商業地区にあるバッティングセンターへ来ていた。

「休みの日まで体を使うようなことしなくても……」

小西が文句を言いながら両替機で小銭を作る。

「俺達は体が資本だろが。ぶちぶち言ってんじゃねぇ!」

「まったく、もう」

犬養は小西から小銭を数枚受け取って、120キロと書かれたゲージに入ってゆく。

「ふぬっ! おらっ!」

 鍛え抜かれた肉体から繰り出されるスイングは迫力のある風切り音を鳴らしていた。

それと反比例するかのように、カス当たりの打球が力なくコロコロと周囲に転がる。

「当たれば……すごいんですけどねぇ……」

 隣のゲージでバカバカとボールを打ち返す小西がつぶやく。

「うっせぇ、小西! お前のは打ってるんじゃねー! 当ててるだけじゃねーかっ!」

小西は内股のへっぴり腰でスイングしていた。


 いつまでも当たらないバッティングに飽きた犬養は投球コーナーへ移動した。

「俺からやるぞ」

 硬貨を投入すると機械から12個の球が出てくる。

ストライクゾーンに9つの的があり、全て射抜くと景品がもらえるという仕組みだ。

「ふぬっ!」

犬養の腕から剛球が放たれる。

球速表示には『131キロ』と出た。

「ふふん、甲子園に行けたかもな……」

自慢気に腕を揉む犬養。

「……ストライクに入ったら……ですけどねぇ」

犬養の投げる球は全て枠の外へ飛んでいく。

とんでもない暴球だ。

「犬養さん、とりあえず手榴弾は投げない方がいいかも……」

「なんだとぉっ!」


 続けて小西が投球に挑戦する。

球速表示には『96キロ』と出る。

「小西……。リトルリーグの小学生か、お前は」

「的に当たらないよりはいいですよ!」

 小西の投球は迫力がまるでないが、絶妙なコントロールをしていた。

 8枚目を射抜いたところで持ち球が無くなり、惜しくも景品を逃す。

「うへぇ、惜しいっ!」

「残念だったな、小西。ハハハハハ」

なぜか嬉しそうに犬養は小西の背中をバンバンと叩いた。


 一方、北堵女子高等学校1年生4人組は絶叫しながら歌を歌っていた。

「……アイ ウォンナ ギブ マイ ハートッ!」

藍が好きなロックバンドの歌を歌い終わる。

間髪を入れずに次の曲がかかった。

「ほら、唯。マイク持って!」

エリーがニヤリとする。

「え? え? 私何も入れてないよ?」

「唯ってば歌わないんだもん。『太陽をつかんで』なら知ってるでしょ?」

「ええっ? 私、1回しか聴いたことが……」

「ほらほら! 歌って!」

慌てた唯は端末画面の字幕を追い始める。

「て、てを……つ、突き上げてー……たた、太陽の……」

調子ハズレでたどたどしく歌う唯にみんなが手拍子をする。

「……ふ、ふれあがー、僕らを、つ、つつみー、全てが……あかに、そ、そまったー……」

なんとか歌い切ると拍手が起こった。

「唯もちゃんと歌えるじゃん」

隣に座る藍が肘で唯をつつく。

「もう、エリー! 勝手に入れないでよ!」

「ふふーん」

タンバリンを鳴らしてエリーがニヤニヤしていると、アンニュイな曲が流れ始めた。

「え、誰? 『雨の憂い』を入れたの……」

エリーの隣で瑞穗がリズムを取っている。

「瑞穗? ちょっと選曲が渋くない?」

「まー、なんでもありってことでー!」

次の曲を登録した藍が立ち上がってスローダンスを踊り始めた。

「うしっ! 私も歌いまくるっ」

エリーが数曲登録するのを唯がハラハラしながら見る。

「唯のもいっぱい入れといた~!」

「ちょ、ちょっとエリー!」

「大丈夫、大丈夫! 唯なら歌えるよ~!」

「勝手に決めつけないで~!」

そんな会話の中、瑞穗が歌い終わった。

「いやー、瑞穗ってしっとりした曲、うまいねー」

藍が拍手しながらマイクを受け取る。

「さぁ! 次はみんなでヘッドバンキングだよっ!」


4人は声が枯れるまでワイワイ歌い続けた。



「ふ~。ドリンクのお代わりでお腹がいっぱい~」

エリーがお腹を叩くと瑞穗が笑う。

唯の隣で藍が喉を押さえた。

「私、もう声が出ない……」

「あれだけシャウトすれば声も枯れるよ……。それにヘドバンコールもすごかったね」

苦笑しながら唯がおどけて頭を振ってみせる。

「ロックにヘドバンは必須だよっ! ってかのどが痛いー!」

「楽しかった……」

控えめな瑞穗にエリーが向き直る。

「瑞穗は選曲が大人だった! 今日、初めて知った新事実!」

キャハハとエリーの笑い声が響く。


「ね、みんなで手を繋ごうか」

「え?」

「うん?」

唯の提案に藍とエリーがキョトンとする。

「……唯ちゃん、なんか雰囲気変わった気がする」

瑞穗が小さくつぶやく。

「そうかな~? いつもの唯だと思うけど~?」

「……唯……」

「駄目かな? 」

再び尋ねる唯の手を藍が強く握った。

「エリーも瑞穗も手を繋いで。ほら!」

藍、唯、エリー、瑞穗と並んで4人が手を繋ぐ。

「初めてだね、こういうの~!」

照れくさそうにエリーが瑞穗と繋いだ手を振る。

「……うん……」

「まー、通行人の邪魔になっちゃうけど、今日は特別さ!」

藍がエリーの真似をして繋いだ唯の手を振る。


唯は優しく笑った。

「私達、ずっとずっと友達だよ」



犬養と小西が帰路に着こうと南ブロックの商業ビル群をすり抜ける。

ビルの谷間に赤い夕焼けが見え隠れしていた。

 ふと視線の先に仲良く4人でそぞろ歩く白いリボンのポニーテール姿が目に入る。

「木皿儀 唯……?」

犬養は眩しそうに目を細めた。


 前を歩く唯はどう見ても普通の女子高校生だ。

 謎の生物キメラを一撃で倒し、友達を誘拐犯から救った面影はない。


「犬養さん。僕達の出番がもうないといいですね……」

「そうだな……」

犬養と小西は平和な日々が続くようにと心の中で強く祈った。

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