085.アリッサの家系・シュレイデル男爵家
今日は朝から来客があった。
クリッサとメリッサ、それに知らない男性三人と女性が一人。
「申し訳ありません。本日はアリッサの事でお話があってお伺いしました。
メリッサの事は知っていると思いますが、こちら私達の両親と長男のグランツと次男のゲイリーになります」
とクリッサが代表して紹介をしてくれる。
なんと言うか疲れている様な印象がある。
もしかしたら今日の事で色々とあったのかもしれない。
「【白い絆】のリーダーでリックです。それでお話と言うのは?」
「うむ、アリッサ。弱点を克服したそうだな」
「まあ、そうですね」
「それならば家に帰ってくる事を許してやろう」
なんて偉そうに言ってきた。
それを聞いてクリッサは呆れた顔をして溜め息をついている。
メリッサに関してはなんとも言えない顔をしているが、他の人達に関しては父親と同じ様に偉そうな感じで、帰ってきて当然許した事を感謝しろとでも言わんばかり態度だ。
それに対してアリッサは、
「私は戻るつもりはありません」
と返した。
それを聞いてクリッサとメリッサ以外のシュレイデル家の人達が固まる。
「な、何故だ!?貴族に戻れるのだぞ!?」
「私貴族でいたいと思っていませんし、無能と罵られ酷い扱いを受け続けたあの家に帰るぐらいなら平民で結構です」
「無能では無くなったのだろう?それならばこれまでの様な扱いはしないぞ、他の家族と一緒に扱ってやる」
「そういう問題では無いですよ…。そもそも家族を無能だと平気で罵れる人達と一緒に居たくないんです」
アリッサがそう言い切るとシュレイデル家の期限が分かりやすく悪くなった。
アリッサの言っている事は普通だと思うんだがな…。
そしてゲイリーが大声で叫びだす。
「アリッサ!下手に出ればつけあがりやがって!落ちこぼれが少し魔法をまともに使えるようになった程度で調子に乗ってるんじゃねえぞ!」
それを聞いて俺達とクリッサは完全に呆れてしまった。
そもそも最初から偉そうな態度でいるのにどこで下手に出ていたと言うのだろうか…。
「なんと言われても戻る気はありません!」
「~~!おいメリッサ。多少まともになった程度で落ちこぼれは落ちこぼれだと教えてやれ!」
「何で私なんですか!」
「お前は同じ魔法使いだろうが!落ちこぼれとの違いを見せてやれ!」
「なんか勝手に勝負する様な流れを作ろうとしてますけどやりませんよ?そもそも私にメリットが無いじゃないですか」
「てめぇはさっきから名に逆らってんだ!」
なんと言うかこのゲイリーとか言う次男はかなり質の悪いチンピラみたいな奴だな…。
「そもそも私は帰りたくない。貴方達は多少魔法を使えるようになっただけの落ちこぼれを戻さなくていい。
そう考えると利害が一致してるじゃないですか。
態々戻す必要なんて無いでしょう?」
アリッサがそう言うと今度は渋い顔をする。
…この人達顔に出すぎだろ。
「ああ、それと一応言っておくけど、私をコネに使おうとしても無駄だからね?
確かにこのギルドにいるから王族の人や偉い人の何人かと他よりは仲良くさせてもらってるけどそれだけだから。
それにもしコネが使えたとしてもシュレイデル家の為に使いたくないしね」
「む、ぐぅ…」
悔しそうにするシュレイデル家の四人。
クリッサもメリッサも当然だろうと言う感じだった。
やっぱりメリッサは馬鹿にはしていたがまだまともだったと言う事だろう。
「なら俺と勝負しろ!」
とゲイリーが騒ぎだす。
「だから私にメリット無いですよね?」
「俺に買ったらこれをくれてやる」
そう言ってゲイリーが取り出したのはフード付きのマント。
「こいつはな王城の付与術師が火属性耐性を付与したマントだ。火属性攻撃のダメージを30%軽減させる優れものだぞ」
確かに属性ダメージ30%軽減はかなりの優れものだ。
しかし…。
「いらないですね」
「はっ!この装備がどれほど優れているかも分からないのか、これだから落ちこぼれは」
「いえそうではなく…、私ダメージ半減のフード付きマントを持っていますので」
『は?』
そう、前にジェシーに装備のエンチャントをお願いした際に属性ダメージ軽減装備を作る事は考えた。
だけど全員の防具に属性装備をつけたのでは資金がとんでも無い事になるか安い装備を使う事になってしまう。
その為に取った対策が安いフード付きのマントに各属性の軽減付与をしてマジックバッグで持ち歩き、必要な時に使うという形だ。
これなら安く済むしフード付きマントなら全身を覆えるので使い勝手がいい。
更にジェシー達の優秀さから魔石(小)でも半減という高スペック装備になった。
こうして俺達のギルドでは冒険者をしている全員が各属性耐性付きのフード付きマントとマジックバッグを持っている。
いつかはもっと上位の魔石を使った装備を作るつもりだ。
「う、嘘を言うな!半減なんて隊長や副隊長クラスの装備だぞ!」
「嘘じゃないですよ」
「アリッサの言っている事は本当ですよ」
と俺もアリッサの言っている事を肯定する。
「は、はん。どこでそんな装備を手に入れたかは知らないがそんないい装備を落ちこぼれのアリッサに使わせるなんてこのギルドも大した事ないんだな」
「いえ、このギルドの冒険者の全員が持ってるので問題ないですよ」
『は!?』
これにはクリッサ達も驚いた様だ。
「な、なんでこんな小人数のギルドがそんな装備を揃えられるんだ」
「ギルドに優秀な付与術師がいますので」
「な、なら俺達の装備も」
「作りませんよ?」
「何故だ!」
「何でって俺達にとって家族同然のアリッサを虐げてきた人達の為に何かをしてあげる訳無いでしょう?」
「なっ!アリッサは俺達の家族だぞ」
「血縁上はそうですね。ですが貴方達がしてきた事は家族にしていい事では無い。血が繋がっているだけで家族として扱って来なかったのは貴方達だろ!
これ以上アリッサにくだらない事をするつもりなら国王様に頼んで対処してもらうぞ」
本当はこんな事を国王様に頼みたくは無いがこのギルドが国王様達との繋がりがあるのは有名な話だ。
実際に頼まなくてもシュレイデル家にとっては十分牽制になるだろう。
そしてシュレイデル家の人達はいそいそと逃げるように出て行った。
その後少ししてクリッサとメリッサが戻ってきた。
「まずは家の家族が恥ずかしいところを見せてしまいすいませんでした」
「ごめんなさい」
と二人が謝る。
「いや俺達は別に構わないんだが…メリッサまで謝ってくるのは意外だったな」
「さすがに家の家族があんな恥ずかしい事をすればね…」
メリッサがそう言うとクリッサまで溜め息を吐いて頷いた。
どうやら相当恥ずかしかったらしい。
「それと…ほらメリッサ」
「はい…アリッサ今までごめんなさい」
そうメリッサはアリッサに頭を下げて謝罪した。
「メリッサ姉!?急にどうしたの?」
「いや…、あれだけ『アリッサは落ちこぼれだから家族として扱わなくて当たり前』って私に教えてきたのにあっさりと手の平を返す様な事をした家族を見て、私がしてたのがあの人達と同じだったのかと思うと恥ずかしくなって…」
ああ人の振り見て我が振り直せって言葉があるがその通りになったのか…。
「でもまだアリッサが私より上と言う事を認めたわけではありませんわ!すぐにランクAになりアリッサよりも有名になってみせます!」
メリッサはそう宣言して出て行った。
「あの子も本当に負けず嫌いで…それでは私も失礼致します。本日は本当にすいませんでした。
アリッサも冒険者は危険だから気をつけてね」
クリッサはそう言って帰って行ったが負けず嫌いと言うだけなら悪く無いだろう。




