060.ノエルの答え
ドワーフ達が用意した馬車に揺られてドワーフの里へと向かう。
ある程度進み山の中へと入って行く、一応道はあるのだが馬には辛そうだ。
山の中を揺られながらしばらく進むと洞窟の様な場所に付いた。
「この中だ」
どうやらドワーフの村と言うのは洞窟や炭鉱等にある事がほとんどらしい。
洞窟に入ってしばらく行くと明らかに人のてが入っていると分かる造りになって行く。
そして更に進むと建物や石を削って等と言う形の家が見えてきた。
これがドワーフの村か。
初めての場所にちょっと感動してしまう。
すると人も多く見えてきて、ほとんどの人達が馬車に集まってきた。
「村長!ノイエとノエルは見つかりましたか?」
「ノエルは見つかったがノイエは亡くなっていたよ…。この村から出て行った後で山賊に襲われたらしい」
「そんな…」
集まっていたドワーフ達全員が暗くなる。
本当に後悔しているのだろうが、人が亡くなってしまっている以上もう取り返しは付かない…。
村の中央で馬車が止まったのでその場で降りる。
ノエルが降りた瞬間に顔を俯かせて目を逸らす人達。
お姉さんの方が亡くなってると聞いて気まずくなったのだろう。
村長が村の人数人に何か指示を出すと、その人達は走ってどこかへ向かった。
しばらくすると縛られた何人かのドワーフ達を引き摺るようにして戻ってきた。
おそらくあの中の一人がバルザスで、残りがバルザスに協力して嘘を言った人達なのだろう。
その中の一人が村人から前に押し出される。
「バルザス!!」
「ノエルかよ。ノイエはどうした?」
「お姉ちゃんなら山賊に襲われて亡くなったわよ」
「ははは、そうかよ!俺の妻になってれば今頃幸せだっただろうにな」
そう言って笑うバルザス。
ああ、こいつは駄目だ。
俺達にこいつをどうこうする資格が無いから何もしないが、許可が貰えるなら本気でぶん殴りたい。
他の皆もそうなのだろう。
普段は人にあまり怒る事の無いティニーでさえ分かりやすい程に怒りの表情を浮かべている。
ノエルの手から血が垂れてくる。
爪が食い込むほどに握りこんでいる様だ。
「村長。バルザスは処刑するんだったよね?」
「ああ…反省すらまったくして無いしな。さすがにこんな奴を放っておけないし野放しにも出来ん」
「それじゃあ…私の手で処刑してもいい?」
「構わないが…罪人とは言え人を殺すのだぞ。大丈夫なのか?」
「うん。私は前からお姉ちゃんを殺した山賊達を殺すって決めてるし、ちょっと前にもある村を襲った山賊をもう殺してるから」
「そうか…分かった好きにしていい」
そう言うと村長は悲しそうな顔をした。
「バルザスチャンスをあげる」
「チャンスだと?」
「うん。その拘束を外してお互い素手で私と戦うの。それで私に勝てたら貴方をそのまま村から追い出すだけにしてあげる」
「へぇ、それはいい提案だな」
「でしょ?受けるよね?」
「当然」
「そう、バルザスの拘束を解いて皆離れてて」
ノエルがそう言うと一人の男がバルザスの拘束を外してみんなで離れて二人を円状に囲う形になる。
「それじゃあ行くよ」
「ああ、ノロマのノエルが宣言なんかしないでいつでも来いよ」
と言ってバルザスは笑ってノエルを馬鹿にした。
しかし今のノエルは当然遅くなんて無い。
ノエルは一気に踏み込んでいった。
「な!?」
バルザスは驚いて下がろうとするがもう遅い。
ノエルの拳がバルザスの腹に刺さりバルザスの体がくの字に曲がる。
「グエエッ」
更にそこから顎を突き上げて体を浮かせ、そのまま服を掴んで地面に投げて叩きつけた。
「グッ、ガッ、ガハッ!」
ノエルは背中から叩き付けられてそのまますぐに動けなかったバルザスの腹を跨いでマウントポジションを取った。
「ま、待っで…。な、なんでごんなに速いんだ…。ノロマのノエルの癖に…」
「私ね。お姉ちゃんの仇を取る為に今冒険者をやってるの。そこで今のパーティー仲間であるリックさん達に会って、リックさん達のお陰で速く動けるようになったしこんなに強くなったんだ。
じゃあ覚悟してね。安心して一発でなんてしないから、何度も何度も殴ってあげるから反省して懺悔して後悔して苦しんでね」
「ひっ!ま、まって!」
「待つわけ無いでしょ。あんたの所為で、私達家族は辛い目にあった!あんたの所為で、お父さんと、お母さんは、亡くなった!無罪なのに、村の全員から、冷たくされて、悪く言われる気持ちが、盗んだ物を返すまではと、村からも逃げ出せず、そのまま二人は、苦しんで死んだの」
言葉を区切る度にノエルの拳がバルザスの頬にめり込む。
既にバルザスの顔は腫れて原型がわからなくなっていた。
「…リックさん。バルザスを回復していただけませんか?」
「分かった…」
バルザスに回復魔法を掛けるとアルティナとティニーも一緒に掛けてくれる。
三人の回復魔法によりすぐに怪我や腫れが無くなり完全に元の顔に戻る。
「ありがとうございます」
「な、何のつもりだ」
「もう殴るところも無かったしあのまま死なれたら困るから、まだ言いたい事すら全部言えて無いんだよ」
そう言うとノエルは拳を振りかぶった。
「ヒィィィィィィッ!!」
「二人が亡くなってから、私達は二人は、盗んだものの、隠し場所なんて、流石に知らないだろうけど、村に住ませられないと、追い出されて、私はお姉ちゃんが、隠してくれたけど、目の前で、お姉ちゃんが、山賊に玩具にされて、お姉ちゃんの、泣き叫ぶ声を聞き続けた。その私達の、気持ちが分かる?山賊がいなくなって、出て行ったら、ボロボロに汚された、お姉ちゃんの死体を見た気持ちが、燃やす方法も無く、だからと言って、アンデットに、するわけにもいかず、お姉ちゃんの死体を、近くの岩を使って、吐きながら、ボロボロに潰して、処理した、私の気持ちが分かる?
しかも、そんな事した理由が、お姉ちゃんに振られたから?ふざけるな!!!」
そこでノエルの拳が止まる。
バルザスの顔はまたもや腫れて原型が無くなっていた。
「もう、ゆるじで…、ごろじで…ぐだ…ざい…」
「いいよ。私の手も痛くなってきたし、終わらせてあげる」
ノエルはこれまでより大きく拳を振りかぶるとそのままバルザスに打ち降ろす。するとバルザスの体がビクンと跳ねた後に痙攣しそのまま動かなくなる。
ノエルが立ち上がると怖かったのか周りのドワーフ数人が後ずさる。
そんなノエルをアルティナとティニーが走りよって抱きしめた。
「二人ともありがとう…。でもごめんなさい。まだ終わって無いから…」
そう行って二人に放して貰ってノエルは村長達三人に近づく。
「村人の変わりに三人が罰を受けるんだったよね?」
「ああ、二言は無い。バルザスと同じ様にしてもいいしそれ以上の制裁でも受けさせてもらう」
「そう…とりあえず一発づつ殴らせてね」
「分かった。ドンと来い!」
三人はその場で踏ん張るように構えるとノエルが一人づつ頬に拳をめり込ませていく。
その一発で三人の頬は腫れていた。
「次は私達と三人だけで話したい事があるから誰にも聞かれない場所を貸して」
「お、おお。分かった」
三人に案内されたのは村長の家の一室。
しっかりと扉を閉めて、一応アリッサとスピカには部屋の周りを見張ってもらった。
「それで話とは?」
「うん、確か三人とも昔は冒険者だったって言ってたよね?」
「ああ、壁にぶつかったのとやっぱり鍛冶仕事をしたくて引退したがの」
「壁って五十レベルの壁?」
「そうだ。そして今もレベル五十だな」
「そう…三人には約束通り奴隷になってもらうよ。私じゃなくてリックさんのだけどね」
「…分かった。それならこれから町の奴隷商のところに行って…」
「ううん。それは大丈夫。契約書は持ってるから」
「おいおい、奴隷の契約書は許可無しには…」
「大丈夫。王様から許可貰ってるから」
「何?そうなのか?」
「うん」
「分かった。そう言う事なら構わん」
そして契約書を使って三人は俺の黒奴隷となり、俺のスキルの説明とそれを誰にも教えない事、ステータスを誰にも見せない事、悪用しない事を命令した。
「うん。後は普段どおり生活してくれればいいから」
「…いいのか?」
「うん、これから黒奴隷として恥を晒しながら生きて私達のステータスを上げるのに役立ってもらう」
「分かった。本当に申し訳なかった」
三人はまた頭を下げてノエルに謝罪をする。
村長の村を出ると三人に付けられた黒い首輪を見て皆が驚いていたが、すぐにその場で全員がノエルに向かって地面に頭を付けて謝ってきた。
ノエルは一瞥するだけで特に反応はしない。
ノエルはその後嘘の証言を行なった者達の元に歩きだす。
「あんた達は三発で許してあげる」
そう言うとノエルはそいつ等の顔を殴っては胸倉を掴んで立たせ三発づつ殴り飛ばした。
三人の顔は大きく腫れ歯も何本も無くなっていた。
しかし誰もがそんな三人に同情の瞳すらむける事は無かった。
「こいつ等の事は後は任せるよ。それで、お父さんとお母さんのお墓ってどこにあるの?」
「ああ、こっちだ」
そこは洞窟から出て村から外れた場所。
「こんな所に…」
「すまん…。犯罪者だと他の村人の墓から離れた場所に埋めたのだ…。あとで責任を持って村の皆と同じ場所に移させてもらう」
「…分かった」
町までは馬車で送ってくれる事になった。
ノエルがお墓にお参りをするので俺達も一緒にお参りをさせてもらう事にした。
それから町に帰るのだが、ノエルのお願いで途中で寄り道をする事にする。
ノエルが思い出す様に森の中を歩いて行き、ある大きな気の根元に生えた草を掻き分けるとボロボロの人の骨が出てくる。
どうやらこの骨がノエルの姉であるノイエのようだ。
「お姉ちゃん…。お父さんとお母さんの無実が証明されたよ…。本当の犯人だったバルザスもやっつけたから…、ううぅ…うああああああぁぁぁぁぁ!!」
ノエルが泣き出してアルティナに抱き付いた。
ノエルが泣き止むのを待ってノイエの骨を予備で持っていたマジックバッグにしまってドワーフの村長に渡す。
「お姉ちゃんをお父さんとお母さんと一緒に埋めてあげて」
「ああ、こちらも責任を持ってやらせてもらう」
「お姉ちゃん…お姉ちゃんの仇を討ったら報告に行くからね」
馬車に戻り帰りの道中。
「ノエル。私達は前に言った通り家族も同然だからね」
と言うアルティナの言葉に全員が頷く。
「はい。ありがとうございます」
ノエルは笑顔でそう返してくれた。
そしてサイタールまで戻った。
ノエルは、
「今日は早めに休ませて貰うね」
と言って帰ってすぐにお風呂に入って寝たようだ。
翌日。
ノエルに会うと俺達はお礼とこれからもよろしくお願いしますと言われた。
両親の名誉が守られた事とお姉さんを両親と一緒にしてあげられた事が嬉しかったようだ。
まだノエルの仇は残っているけど前より少し明るくなった気がする。




