040・水彩のダンジョンの更に奥へ
ワイバーン討伐から数日後。
水彩のダンジョンを更に潜ってみようとなった。
同じ様なパターンでアシュラサハギンを倒して更に奥へと進む。
水彩のダンジョン十二階層。
この階層から殆どの場所が水没しているらしい。
実際に降りてくると膝したぐらいまで水没していた。この階層は全てがそれぐらいの水で埋まっていた。
そしてこの階層にいる魔物は…。
ビッグシーアネモネ…高さ二メートルぐらいのイソギンチャク型の魔物。
獲物が一艇距離まで近づくと触手を伸ばし捕獲し、自分の体内に取り込んでゆっくりと消化する。
消化自体はゆっくりであり、獲物を取り込んだビッグシーアネモネは外への攻撃を行わなくなるので仲間が取り込まれた場合は消化する前に助けよう。
本体は自分から動かず触手も一定距離に入らなければ何もして来ないので遠距離攻撃で倒そう。
見えるビッグシーアネモネを遠距離攻撃で倒しながら進んでいく。
こいつは通用する遠距離攻撃があれば正直問題ない。
どちらかというと歩き辛い方が厄介かもしれない。
倒しながら奥に進み階段を降りる。
水彩のダンジョン十三階層。
ここも同じ様に全体が水没していた…しかも腰まで…。
階段の途中から水の中を見る。
ここからが本当に厄介だ…。
この階層にいるのは…。
スピアフィッシュ…細長い魚型の魔物で口部分が尖っていて水中をそのまま突撃してくる。
その威力は高く鉄にも突き刺さり、当たり所が悪ければ一撃で致命傷もありえるため注意。
動きは速いが直線的なのでしっかりと対策を取るか感覚を掴めるまで無理をしない様に。
突き刺さった後は真後ろに下がる力は無いので貫通されなければ動けなくなる。
「さてそれじゃあ行って来る」
「気を付けてね」
俺が一人で水の中へと入って階段の近くで待機をする。
しっかりと目を凝らしていると水中をこちらに向かっている物が見えた。
それに合わせるように剣を振る。
ぐっ、水中だけあって剣が重くなる。
それでも無理矢理剣を振りぬくとステータスのお陰か剣が間に合った。
スピアフィッシュの体を綺麗に半分とは言えないがしっかりと切り裂いた。
しかし勢いの乗ったスピアフィッシュの前部分がそのままの勢いで足に刺さった。
「ぐっ…」
DEFのお陰か深くまでは刺さらなかったのでそこまでダメージは無かったがこれは予想以上に厄介だ。
「大丈夫?」
「ああ、ダメージ自体は問題無いが後衛を守りながらは難しそうだ。先に進むとしたらしばらくは慣らしてからの方が良さそうだな」
ちなみにこの階層。
突破している人達は何枚かの大きな盾で身を守りながら進むという方法を取っている様だ。
そして階段まで行って盾に刺さったスピアフィッシュに止めを刺すらしい。
後はまったく倒すつもりが無ければマジックバッグで筏を持ってくると言う方法もあるが、とりあえずその方法以外で行けないかと今回は試しに来たのだ。
アルティナとノエルも水中に入り少し離れて三人で立ってスピアフィッシュが来るのを待って迎撃する。
しばらくの間倒し続けたがこれはかなり難しい…。
疲れたので階段に戻って休憩する事にした。
「予想以上に難しいな…」
「ええ、迎撃だけなら出来るけど勢いを殺さないといけないわね。私は一応盾で受ける事が出来るけど…」
「アリッサ。何か良い魔法はあるか?」
「正直に言うと難しいかな。アースウォールもここだと効果が薄いし…」
アースウォールはその場の地面を壁状に盛り上げてそれを魔法で固める魔法だ。
それなので地面の硬さに思いっきり影響されるし、ここの水中は砂状なので殆ど効果が無い。
せめて地面が岩場とかなら良かったんだが…。
とりあえずもう一度練習してみよう。となって三人で中に入る。
しばらくしてイラつきからか疲れからか大振りになったノエルのハンマーがその階層の階段近くの壁を水中で思いっきり叩いた。
ダンジョンの壁はかなり硬くなっていて簡単には壊れない様になっている。
実際に水中とは言えノエルが思いっきり叩いたのに壁は衝撃こそ凄かったが壊れる事は無かった。
「あう…」
硬い壁を叩いた為かノエルが顔を顰める。
大丈夫かと声をかけようとしたら、スピアフィッシュが水中から大量に浮いてきた。
何か知らない攻撃の予兆かと身構えたがそのまま動かなかったので近寄り触って確認してみる。
俺が触ってもまったく動かない…。
どうやら既に死んでいる様だ。
「何があった?」
「もしかしたらノエルが壁を叩いたからじゃない?」
確かに変わった事と言えばそれくらいだろう。
とりあえず浮いてきたスピアフィッシュをマジックバッグに仕舞ってから階段に戻りしばらく待ってから同じ様にノエルに壁を叩いてもらった。
するとやっぱり少しして大量にスピアフィッシュが浮いてくる。
「こんな事が出来たんだな」
「ノエル。魔法を使ってるわけじゃないのよね?」
「うん。僕は魔法の練習すらした事ないし使えないよ」
おそらくはハンマーで叩いた時の衝撃が原因だろう。
と言う事は壁際を進み定期的にノエルに壁を叩いてもらえば殆どダメージを受けないでここを突破できそうだ。
試しにその方法で先に進んで見た。
魔物の沸くタイミングが完全に分かるわけでは無いので数回ダメージを受けたが、殆ど問題も無いレベルのダメージで突破する事に成功した。
水彩のダンジョン十四階層。
実はこの階層が水彩のダンジョンでの最深踏破階となっている。
つまりこの階層は誰も突破出来ていないのだ。
まずこの階層の作りだが、階段を降りると砂浜になっていてその先が深い海水になっている。
その深さは出てくる魔物から水深200m程だと分かっている。
つまり泳いでいくかマジックバッグでいかだや小型の船を使っていくしか無いのだが、問題はここにいるモンスターだ。
アッパーシャーク…大きな鮫型の魔物。
水深200m程から水面まで獲物を感知する能力を持ち、下から一気に上昇しながら捕食する。
小型の船ぐらいならひっくり返す力を持っているので注意。
どこまで正確に感知しているか等は謎となっている。
「ここは流石に試せないよな…」
「ええ、そもそも鎧で泳ぐのも無理だしいかだとかだと真下は攻撃出来ないわよね…」
そう、その所為でここまで来ても誰も先に進めないでいる。
魔物の正体が分かっているのは、筏を持ってきて試した人達が居たらしい。
遠くの方を見るとここ意外にも何箇所か狭いが砂浜が見える。
しかし飛んでいける距離ではないし、そこまで筏で行く事も出来ないか試した人も当然いるけど駄目だったのだろう。
砂浜の上には開いていないと思われる宝箱があるように見える。
ちなみに取得した宝箱の蓋は開けっぱなしにしておくのがマナーとなっている。
理由としては宝箱は危険な場所にある物も少なくなく、頑張って取りに行って空だったと言うのを防ぐ為である。
命からがら宝箱にたどり着いたら空だったと言う事が昔にはあったらしい。
しばらく方法が無いか考えてみたが思い付かないので引き返す事になった。
十一階層まで戻ってアシュラサハギンを倒して帰還する。
とりあえず水彩のダンジョンはあそこをクリア出来る方法を見つけるまでは素材や食材を取りにいく用になりそうだ。
現在水彩のダンジョンをあそこまで潜れているのは俺達入れて三パーティーらしい。
理由としては水彩はあそこで止まってしまい、西深の方は特に美味しいと言える場所が無いからそこまでいける人達はほとんどが別の場所に移ってしまったらしい。
ちなみにスピアフィッシュは結構美味しいらしく大きさの割には悪くは無い値段で売れる。
それなので配るのと自分達で食べる分を残して売る事にする。
あ、そうだ。
「レリィーこれ使ってくれ」
「ん?なに…は?これってたしか魔法武器じゃなかった?」
「ああ、スプラッシュダガーな。殺傷力はほとんど無いが相手を怯ませるぐらいの威力がある水弾を撃ち出せるダガーだ」
「魔法武器の中では安いのは覚えてるけどそれでも悪くない値段するわよね…いいの?」
「ああ、家で必要そうなリスティはもう持ってるしな。他に使う人もいないから短剣の練習をしていて魔法の使えないレリィーにあげるのが良いだろうってなった」
「ありがとう…。しかしリック意外もお人好しと言うかなんと言うか…普通売ろうと考えない?」
「まあそうかもだが、レリィーだってしばらくはテート達の仲間として動くんだしな。それなら装備は回した方が良いだろうってな」
「そう…それならありがたく使わせてもらうわ」