038.ランクアップと討伐依頼
冒険者ギルドにやってきたら受付嬢であるミリーシャさんに呼ばれた。
「実は皆さんのランクアップが決定しました。それなので白い絆はBランクギルドとなります」
ギルドのランクは所属パーティーの最高ランクがそのまま登録される事になっている。
「とりあえずこれで前のランクに戻ったな」
「そうね」
「リック達ってそんなにランク高かったのね…。でも今なら納得できるわ。私も早く前と同じランクまで戻れるように頑張らないと…」
アルティナとレリィーと一緒にそんな事を話していたらミリーシャさんが更に話を続ける。
「それで実はですね。リックさん達にお願いしたい依頼があるのですが…」
「依頼ですか?」
「はい、ここから馬車で北に二日ほど行った所にある山道でワイバーンが確認されまして、もし山に住みついているのであれば討伐していただきたいのです」
「つまり山の調査と討伐ですか」
「はい」
パーティーメンバーを見ると皆が頷いた。
「分かりました受けさせていただきます。すぐに出た方がいいですよね?」
「そうですね。出来るだけ早い方が助かります」
「わかりました。と言う事で俺達は北の山に行ってくるから数日空けるからテート達も気を付けてくれよ」
『はい』
早速道具等の必要な物を調達し、馬車を借りて北へと向かう。
「そう言えばサイタールに来てから野営が必要な距離に行くのは初めてか」
「そうね。ずっとサイタール近辺での依頼かダンジョンに行ってたからね」
「遠出となると…ティニーは大丈夫なのか?」
「問題ないですよ。教会には冒険者をやっている事を伝えていますので」
移動中はそんな感じにのんびりと話をしながら移動していると、魔物に襲われる事もなく二日程で目的の山が見えてきた。
「さてワイバーンだが、空からの突進、足の爪での攻撃、噛み付き、尻尾の先にある針での攻撃に注意だな。尻尾の針には毒もあるからティニー針を受けた者には解毒もお願いする」
「はい、任せてください」
一応俺とアルティナは《勇気の剣》にいた時にワイバーンと戦った事はある。
あの時は番だったのか二匹が一緒にいて結構苦戦した。
まあ苦戦した一番の理由はやっぱりデルシスだったが…。
剣がまともに届かない所にいるのにやたら挑発をしてデルシスへの尻尾の攻撃をアルティナが全て受け止めた。
俺はもう一匹に魔法を撃ちながら後衛三人にヘイトが向かわないように立ち回る必要があって、後衛三人はデルシスへの援護を優先していたからしばらくの間一人で一匹を抑える事になったんだよな…。
そんな事を考えていると山に付いた。
まだ昼だったのでそのまま山の中を調査する事にする。
しばらく捜していると山道からそこそこ外れたところに岩山があり、そこにワイバーンの姿を確認した。
見えているのは一匹だが岩山の逆側が見えないのが嫌な感じがする…。
「ご主人様攻撃しますか?」
スピカが弓に手をかける。
「…いや、念の為に遠回りして逆側も見てみよう」
そして逆側に行くとこちらにもワイバーンが一匹地面に降りていた。
「二匹ですかね?」
「うーん…さっきの場所とここまで結構距離があったからな…。あそこはおそらく窪地になってるんだと思う。そうするとその窪地になにがあるのかが問題だが…」
「かと言って倒さないわけにもいかないわよね」
「だよな…よしワイバーンは遠距離攻撃は無いから遠距離メインで立ち回るぞ。ティニーは離れすぎないけどワイバーンの攻撃範囲に入らないようにしながら状況を見て回復を、アルティナは防御、ノエルは防御優先で状況を見ながら投石もしてくれ」
『はい』
一度少し離れてティニーに支援魔法をかけてもらって遠距離攻撃を一斉に放つ。
それで見えていた一匹を倒す事は出来たが、当然もう一匹に気付かれたらしくてワイバーンの鳴き声が響き渡る。
すると窪地になっている場所から数匹のワイバーンが飛び上がってきた。
もしかしたらとは思っていたが他にもいたか…。
四人で只管遠距離攻撃を放つが当然ある程度回避もされるし数も多く、近づかれずに倒しきるのは不可能だった。
結構な数を倒したがまだ四匹残っている状況でアルティナとノエルの場所に一匹のワイバーンがたどり着く、後ろからは他の三匹も当然来ている。
先頭のワイバーンが一番前に居たアルティナに尻尾で攻撃をしてくるが、アルティナはそれをしっかりと盾でガードした。
そこに二つのウインドカッターと矢がそのワイバーンに飛んで行きワイバーンの尻尾と片翼を切り落とし、矢はワイバーンの胸に刺さる。
すると後ろの三匹が今度は一斉に襲いかかって来る。
俺も前に出て俺とアルティナとノエルで一匹づつ抑えに向かう。
俺とアルティナは尻尾の攻撃に対処したが、ノエルは腕に尻尾の攻撃を受けてしまったようだ。
「三人はノエルの援護を、アルティナ俺達でこの二匹を抑えるぞ」
「うん」
そうこの時は前の時みたいにワイバーンを抑えるつもりでいた。
だけどやっぱりステータスが大きく上がっているからだろう。
連続で飛んできた尻尾攻撃を避けてそのまま尻尾を切りつけると、ワイバーンの尻尾を切り落とした。
そして怯んだワイバーンの首に向けて飛び剣を振るとあっさりとワイバーンの首を切り落とす事に成功した。
前の苦戦はなんだったんだ…と思えるほど簡単に倒してしまった…。
すぐに残りの二匹と思ったが、アルティナもワイバーンの胸を切り裂いていたし、ノエルの方もハンマーでワイバーンの頭を砕いていた。
その後はノエルの回復をティニーにしてもらい、遠距離攻撃で落としはしたもののまだ生きていたワイバーンに止めを刺していく。
ワイバーンの素材は結構高く売れるし肉も人気があるので、マジックバッグに可能な限り仕舞って入りきらなかったのはある程度の大きさに解体して馬車に詰め込んでいく。
さらに窪地には割れていないワイバーンの卵が三個見つかった。
どうやらワイバーン達はここで卵を守っていたらしい…。
帰り道。
「なんかワイバーンが弱く感じた…」
「私も…ステータスの所為よね…」
「だろうな…」
実際今のステータスだとどれくらいの魔物と戦えるのだろうか。
気にはなるけど流石に無理をする気は無いので少しづつ強いのと戦う機会があれば程度に考えておこう。
そして荷物が多くなった為に移動の速度も行きよりは遅くなったのもあり三日後にサイタールに戻ってきた。
馬車のままギルドの前まで移動して俺とアルティナで報告に向かって、四人には馬車を見ていてもらう。
「ミリーシャさん報告に来ました」
「あ、リックさんにアルティナさんお帰りなさい。お二人しかいませんが残りの方々は?」
「外で馬車を見てもらってます。馬車には素材とかを積んであるので」
「そうですか。ワイバーンを無事に討伐できたようで何よりです。それでは詳しい報告をお願いします」
「はい。まずワイバーンがいた理由ですが、窪地になっているところで卵を守っていたようでした」
「卵…ですか」
「はい、三つほど割れずに残っていたので回収して来ました」
「本物…ですよね?卵を孵化させる時には多くのワイバーンと一緒に行なうと聞いていますが…」
「勿論本物ですよ。ワイバーンもたくさんいましたし」
「あの…ワイバーンって何匹いました?」
「えっと…十七匹ですね」
「じゅ、十七!?すいませんギルドマスターを呼んできますので」
そう言うとミリーシャさんは奥へと走って行くと、しばらくしてドーガさんと一緒に戻ってきた。
「話はミリーシャから聞いた。馬車にも素材なんかを積んでいるそうだが、当然証明部位は全部持って帰ってるよな?」
「ああ」
「すまないが裏の解体倉庫に持って行くから一緒に来てくれ」
ドーガさんとミリーシャさんの二人と一度表にいる皆と合流して裏の方に回り、倉庫の中に素材を降ろしながら数を確認して行く。
「確かに…。これ全部売るって事でいいのか?」
「五匹分はこちらで持ち帰りたいから残りの十二匹分を売りたいんだが、あと解体は全て解体屋に任せたい」
「分かった」
ドーガさんが解体屋の人と話をする。
「とりあえず五匹分は明日には終わりそうだが全てとなると早くても明後日になるそうだ」
「それならとりあえず一匹分を今日解体してくれるか?それで明日残りの四匹を受け取りに来るから、残りは明後日に査定してもらうって事でどうだ?」
「ああそれで構わない」
「それじゃあ今から今日の分の解体を行なうので後で取りに来てくれるか?おっと、それと俺はここの解体責任者のマーカスだ。これからも家を使うならよろしく頼む」
「ああ、こちらこそ」
「その間に今回の依頼の処理をしようか、もう一度ギルドに来てくれるか」
「ああ」
もう一度ギルドへと移動する。
「さて…まずはこれが依頼達成報酬だ」
「確かに」
「ちなみにもっと難しい依頼でも大丈夫そうか?」
「まあ内容によるが…」
「と言う事はまだ余裕はあったと言う事か…」
「…もしかして試されたか?」
「まあ…な。正直何か重大な依頼をしたい時の為に高ランクの冒険者の実力は可能な限り把握しておきたいんだ」
「そう言う事か…」
「とりあえずワイバーンの群れを相手に余裕がある事は分かったからその内難しい依頼を頼むかもしれないがその時は頼むぞ」
そして依頼報告を終えて解体屋の所に行くと一匹分の素材と肉を渡してくれた。
馬車を返してからある程度の量の肉を孤児院とハリエルの所にプレゼントしてホームに帰って、イリアさんに残りの肉を渡す。
リビングでゆっくりしているとテート達が帰ってきた。
何故かレリィーだけは疲れているようだった。
「あ、リック様達お帰りなさい」
「ただいま。レリィー以外のみんなも元気そうで良かったよ。レリィーは何かあったのか?」
「リック…この子達どうなってるのよ…。レベルと実力が確実にあって無いわ…。バングスワロー相手の剣の練習に付き合ってくれてたんだけど、私より明らかに実力が上だったわ…それなのにレベルを聞いたら私の半分以下だし…。ねえ、私ってもしかして冒険者の才能無いのかな…」
ああ、技術はレリィーが覚え始めたばかりでテート達が上だし、ステータスも【ご主人様】の影響でテート達の方が高いだろうからな…。
「いや、少なくともレリィーは弓矢を使う弓術師としては優秀な部類だと思うぞ。どっちかというと他の皆がレベルに見合って無いだけだから気にしなくていい」
「そう…だよね…」
うーん、このスキル。初心者相手にはともかくある程度の熟練者には知らないとそう思っちゃうか…。
実際ステータスだけを見ればテートがすでに元のアルティナよりも上だからな…。
でも実際にレリィーは上を目指したいなんて言っていただけあって弓矢の練習は良くやってたのもあって腕はかなりいい。
だからレリィーに才能が無いとかそう言う事では無いのだ。
「ちなみに短剣の方はどうだ?」
「この五日間でどうにか短剣だけでもあそこで大分倒せる様にはなったわよ。ただ流石に疲れたけど…」
「そうか…、まあしっかりと疲れは取ってくれ」
「ええ…、それでそっちも大丈夫だったみたいね」
「まあな。ちなみにさっきイリナさんにワイバーンの肉を渡したから今日料理に使ってくれるかもしれないぞ」
「お、ワイバーンか懐かしいわね。前にあれを倒した時には殆ど売ったけど一食分をステーキにしてもらって食べたのよね。あれは美味しかったわ」
「明日解体屋でまた四匹分を受け取ってくるからな孤児院とかにプレゼントしても腹いっぱい食えるぞ」
「…ちょっと待って。何匹倒したのよ」
「十七だな」
「じゅっ!?リックとアルティナってもしかして私たちと組んでた時本気出してなかった?それとも残りの四人が強いのかしら?」
「あ…いや…。一応前も本気だったぞ?」
「それじゃあ他の四人かしら…。皆って何レベルなの?」
「…二十ちょっとだな」
「…は?え?マジ?」
「ああ」
「…とりあえずこのギルドにいる皆がおかしいのは理解したわ。と言うかリック。おそらく貴方もかなり強くなってるわよね。いくらアルティナが元からデルシスよりもリックの方が強かったと言ってたとしてもあそこまで余裕なのは流石におかしいし」
「いや…まあ…」
「ふ~ん。何か秘密があるみたいね。まあいいわ教えてくれ無いって事は秘密って事だろうし無理に聞かないわ。リックが秘密にするって事は本当に大変な秘密なんだろうし」
そう言ってレリィーはソファーに体を深く預けるようにして伸びる。
「意外だな。結構俺の事を信じてるんだな」
「ん~まあ私もミレイもアイーダも元々リックの事が嫌いどころか友人としては好きだしね。
追い出したのは本当に恋は盲目って事だったんだと思うわ…。
なんだかんだ言っても長く一緒にいたからリックがあそこまで探られても秘密にしたって事は本当に人に話せ無い事だってのは分かるし、だからと言って貴方達が犯罪となるような事をしてるとは思え無いしね。
それだったらそれでいいかな。ってね」
確かにレリィー達との付き合いは冒険者になってすぐにパーティーを組んでからずっとだったしな。
そう考えると結構長い事一緒に居たんだよな。
「でもそう考えるとデルシスって本当に鈍感よね。リックとアルティナが両想いだなんて私達はパーティーを組んですぐに分かったのにさ、と言うか貴方達ってもしかして本格的に付き合い出した?前より距離近いわよね」
「うん。付き合ってるよ。それにもうリックに初めても捧げたわ」
「もう…というよりやっとよね。正直私達は二人はいつになったらくっ付くんだろう。早くくっ付いてくれた方が私達にとってもいいのに。なんて良く話をしてたわよ」
「そうなんだ…」
なんかそこから二人を中心とした女子の恋愛話へと発展した…。
居辛かった俺は部屋でゆっくりとする事にする。




