016.ランクアップとお願い
領主邸に呼ばれた翌日。
今日も適当な依頼を受けようと冒険者ギルドに向かうと、
「あ、皆さん。皆さんのランクアップが決定しましたおめでとうございます」
とミリーシャさんに言われた。
「ランクアップですか?何故このタイミングに?」
「さあ?私はギルドマスターからそう言われただけですので詳しい事は分かりません」
「そうですか」
「それと皆さんが来たら自分の所に来る様に言っていましたのでそこで説明があると思います」
「分かりました。奥に居ますか?」
「はい、案内しますね」
ミリーシャさんは他の受付嬢に奥に行く事を伝えて俺達を案内してくれる。
「リックさん達が来ましたよ。入りますね」
「ああ」
ミリーシャさんが扉を開けて中に入る様にと誘導してくれたので俺達は言われた通りに中に入る。
「まずは座ってくれ、ミリーシャは人数分の飲み物を」
「はい」
ミリーシャさんが出て行くのを確認するとギルドマスターが話をしだす。
「ミリーシャからランクアップの話は聞いたか?」
「はい」
「まあお前さん達は依頼を確実にこなしてくれてるし、実際にそろそろランクアップの条件を満たしそうだったんだが今回は領主様からの後押しがあってな」
「領主様から?」
「ああ、詳しくは教えてくれなかったが大きな問題を解決してくれたから、ってな」
どうやらちゃんと秘密にしてくれたまま功績としてギルドマスターに報告してくれたようだ。
こうして俺達はDランクとなった。
Dランクになってから数日後。
今日も領主邸に呼ばれてやってきた。
「それで今日はなんですか?」
「ああ、今回は俺じゃなくて息子とリーファンの子供達が君達にお願いがあるみたいでな」
そう言うとイヴェールとテート、それと初めて見る男の子がいた。
お願いがあるのは息子とリーファン子爵の子供二人と言っていた。と言う事は…。
すると男の子が前に出て自己紹介をしてくれる。
「初めまして、フィル・サイタージュンといいます」
サイタージュンと言う事はやはり彼が領主の息子と言う事だろう。
歳はイヴェールと同じらしい。
「それでお願いと言うのは?」
「はい、私達に戦い方を教えてはくれないでしょうか?」
「戦い方を?」
「はい。私とイヴェールには剣を、テートには剣と魔法を教えていただきたいのです」
「ちなみに三人の職はなんなんだ?」
「私とイヴェールは剣士で、テートは魔法剣士です」
「リックとアルティナは前のパーティーでBランクまで行ったのだろう?君達ならランク的にも人柄的にも安心できるからな。勿論報酬もしっかりと払わせてもらう」
俺達は話し合って基本的には5日に一度のペースで良ければ受ける事に決めた。
基本的に受けるのは俺とアルティナとなるので他の皆はその間は休息日とするか、自分達だけで受けられそうな依頼を受けてレベル上げを行なうつもりらしい。
「レベル上げは良いけど前衛がノエルしかいないし気をつけてくれよ」
「はい、無理の無い依頼を受けるつもりですから」
「まずは簡単な魔物を狙って余裕ありそうならって感じでしょうか?」
「数が多いだけなら私が範囲魔法で一気に倒すよ」
「一体づつなら僕がしっかり抑えるね」
とスピカ・ティニー・アリッサ・ノエルの順で返事をする。
多分大丈夫だとは思うし、冒険者である以上変に過保護になってもしょうが無いしな。
とりあえず三人の剣の腕を見てみる事にした。
まずは素振りをしてもらい、その後アルティナに対して打ち込んでもらう。
剣の腕ではイヴェールとフィルが同じぐらいで、テートが二人より劣っている感じだ。
テートは一歳下の魔法剣士だしそこはしょうが無いだろう。
「基本的には一緒に教えるけど、個別に教える時はイヴェールとフィルはアルティナが、テートは俺が教えるって感じでいいかな?」
「そうね。魔法剣士同士の方が良いだろうしそれが良いわね」
フィル達に剣等を教える事になった二日後。
ティニーにお願いされて孤児院にやってきた。
何でも孤児院の子供達が冒険者としての話を聞きたいらしい。
「皆さんすいません。引き受けていただきありがとうございます」
「今急いでやる事があるわけでも無いし構わないよ」
「そうそう、私達は冒険者もゆっくりやるつもりだしね」
孤児の子達が集まってこれまで俺達のした冒険者としての依頼やダンジョンでの事を話していく。
当然首輪の事については話していない。
「リックお兄ちゃんも職で苦労したんだね…」
と追放された時の事を話したら女の子の一人が暗い顔をしてそう言ってきた。
話を聞いてみるとその子は8歳になった時に行われる信託の義で自分の職が盗賊と出た様だ。
信託の義…8歳になる子に対して行なわれる儀式でそこで職を授かる。
当然全員が自分の望む職になれる訳ではない。
それでその子は盗賊と出た事で親から捨てられたのだそうだ…。
盗賊と言うのは悪人だとイメージしている人も居て、村全員が信託の義で盗賊と出た子供に対して酷い扱いをする。なんて事もあるらしい。
この子…リスティと言うらしいが、両親が盗賊の事を悪く思っている人だったそうで、村から少し離れたこの町に捨てられたそうだ。
虐待されたり森に捨てられる子も居ると聞いたことがあるが、この町まで連れてきたのは少しは親としての良心があったかもしれない…。
その後路地で泣いて座りこんでいたのを院長に拾われたのだそうだ。
本来山賊や海賊なんかの人等を襲う人達と違って、盗賊と言うのはあくまでも職でしかないんだけどな…。
そこから話は追放された後での事になる。
スピカ達との出会いや院長の事等少し話を誤魔化したりしながら説明した。
話が終わって一息つくと女の子が話し掛けてきた。
「あの、私も冒険者になれますか?」
「一応誰でもなれるけど、冒険者になりたいのか?」
「私の職は僧侶なのでティニーお姉ちゃんみたいに誰かを助けられる様になりたいです」
「それなら訓練はティニーが理想だと思うが…」
「私は構いませんよ。そうですね…フィル様達と同じ日に教えると言うのはどうでしょうか、それでしたら私達の冒険にも影響は少ないですよね」
「それなら私も冒険者になりたい」
そう言ったのはリスティだった。
「ダンジョン探索の時に盗賊が居た方がいいんだよね?」
「まあそうだな」
「院長先生を助けてくれたお兄ちゃん達の力になりたいの。だから私が…盗賊の力が必要な時にお兄ちゃん達の力になりたい!」
と言う事だった。
確かに専属の盗賊が居ると言うのはダンジョンに行く時には頼りになる。
ただその時はパーティーメンバーから一人にお留守番をして貰う必要があるが、それでも罠の多い場所を通る時等は間違いなく盗賊は必要だ。
「二人とも一応確認するけど、冒険者は魔物と戦ったりするんだから当然危険なんだぞ、それでもなりたいのか?」
「はい」
「うん」
二人はすでにその事も考えていたのかすぐに返事をした。
一応院長に確認したけど、
「この子達の意志を尊重したいと思います」
と言う事だった。
それなのでこの二人の訓練やサポートも引き受けうる事にする。
最初に冒険者になりたいと言った僧侶の子はリースと言う名前らしい。
お話が終わった後。
院長からお話したい事があると言われて院長の部屋にやってきた。
「あの二人の事でお願いがあります。意志を尊重したいとは思うのですがやはり心配にはなってしまいます。
それなので可能であればなのですが…彼女達も白奴隷にしてあげてくれないでしょうか?
秘密にした方がいい事である以上無理を言っている事も失礼な事を言っているのは理解しています。
それでもあの子達を…私にとって子供同然の子達を少しでも守れるのであればとやはり考えてしまいまして…」
と言われた。
確かに俺のスキルの影響下にあればそれだけでもある程度安全になるのは間違いない。
自分にとって子供同然の二人の事を思えば…と言うのも理解できる。
それにパーティーメンバーを集めたいと考えていたり、境遇に同情したのだとしてもアリッサ達三人には簡単に教えてしまっているし…と思わなくも無いが…。
「さすがにすぐに決めるのは無理なので、二人と交流を持ちながら考えさせていただくと言う事で良いでしょうか?」
「はい勿論です。ありがとうございます」
実際信じられる人が白奴隷になってくれたら俺達にもメリットがあるからな…。
それにまずは相手に俺の白奴隷になっても良いと心から思ってもらわなくてはいけない。
この辺りの事もパーティーの皆と相談して教えていい人かを考えていくのが良いだろう。
孤児院から出た後。
どうせ二人にも教える事になったんだし一緒に教えたらどうかと考えた俺達は領主邸に行き、領主様やフィル達に孤児院の子二人も教える事になったから一緒で良いかを聞きに来たら、皆快く許可してくれたので五人を同時に教える事になった。