015.領主からの報告
例の院長呪い事件から15日。
この間討伐依頼を受けたりダンジョンを二十階まで潜ったりしてお金と経験値を貯めて、宿に帰った後はモコウサギに癒される。そんな生活を送っていた。
すると領主様より呼び出しを受けて俺達のパーティーメンバーと孤児院の院長は領主邸へとやってきた。
「りょ、領主様に呼ばれるなんて…。皆さん何かしたんですか?」
「ノエル。そんなに緊張しなくても大丈夫だと思うぞ。ノエルがパーティーに入る前にちょっとあってな。その報告を後日するって言ってたからその事だと思う」
そう言ってノエルの頭を撫でる。
この15日程で分かった事なのだが、ノエルは結構甘えん坊でこうして頭を撫でて上げたりすると喜ぶし、他の皆がノエルを抱きしめたりすると嬉しそうにしている。
だから余計にノエルの境遇は辛かっただろう…。
仇を討っただけで気持ちが晴れる事では無いだろうが、できる限り力になりノエルの事を守ってやりたいと言うのが皆の総意となっている。
メイドさんに案内された部屋に入ると、中にはリーファン伯爵とその家族も居た。
「よく来てくれた。もう分かっているとは思うがこの間の事を報告させてもらう。
まず始めにリーファンは降格となり、伯爵から子爵となる事になった。
次に現マウコール邸は没収となり私が預かる事になり、以前男爵が使っていた別荘をリーファン子爵の屋敷とする事が決まった。
他にはこれからリーファン殿は私の部下として働く事になった」
思ったよりも軽い罰だった。
もっと思い厳罰を与えられる物だと思っていた。
「罰はかなり軽い物ではあるが、これは被害者である院長の願いでもあったからだ」
全員の視線が院長に集まる。
「院長は『私は無事でしたし、つい魔が刺してしまうのは誰にでもある事でしょう。厳罰をよりも人の役立つ事をやってもらうと言うのは出来ないのでしょうか?』と言われてな。
その事を王にも報告した所今回の処罰となった」
領主がそう言うとリーファン子爵は席を立って院長の前に行くとその場で土下座をした。
「命に関わる事をした私を擁護してくださりありがとうございます。
貴女の言葉がなければ私だけ出なく家族にも罰が与えられていたかもしれません」
とその場で泣き出してしまった。
「元々リーファン殿は悪い人間ではなかった筈なのだがな…。
話を聞く限りその呪いを教えた魔法使いに唆された…と言うより半分洗脳された様な状態だったのでは無いかと思う」
「そうなのですか?」
「ああ、なんでも元々私に嫉妬していたのは本当の様だがな。
その魔法使いに会って話をしている内にその嫉妬心が膨らむ様に大きくなっていったらしい」
「そうなんだ…その魔法使いに『同じ伯爵なのにな』『あっちだって大きな実績を上げたわけでもない』『先祖が偶々領主だっただけ』等といった事を言われている内にな…。
だがそれでもやってしまった事は事実だ。それなので今回の罰に何の不満も無いしむしろ院長に助けられた」
なるほど、確かにその魔法使いがかなり怪しいな。
この後リーファン子爵の家族からもお礼を言われた。
リーファン子爵の奥さんはネージュさん、11歳の長男がイヴェール、10歳の長女がテートと言うそうだ。
「さてリーファン子爵の謝罪とお礼はこれぐらいで良いだろう。まだしたいのであれば後で個人的にして欲しい。
次にだが君達にいくつか聞きたい事がある」
そう言うと領主様は俺達…正確にはティニーの方を向く。
「この事件を調べている時にいくつかの疑問が出て来てな。
まずその魔法使いは『この町の司祭には解呪出来ない』と言っていた。それを修行中の君が解呪出来たと言うのが不思議なのだ。
実際に君は優秀だったようだが、まだ司祭には及ばなかった筈だ。
それとあの事件の朝には君の首には白首輪なんてものは無かった事も司祭から確認している」
それを聞いてティニーは困った顔で俺達の事を見る。
俺達はさすがにこれはごまかす事は出来ないだろうなと観念した。
「あの、それを説明するには私達…と言うよりも私の秘密を話さないとなりません。
それなのでせめて秘密を守ると約束していただきたいのですが…」
「分かった。それと話し辛そうだし普段通りでも構わないぞ。堅苦しく話す必要は無い、俺はそう言うのは気にしない」
「私も恩人の所属するパーティーリーダーの秘密を話す様なことはしません。それと私達にも普段通りに話してください」
リーファン子爵の言葉に彼の家族も首を縦に振った。
言葉遣いに関しては流石にいきなりは難しいのでゆっくりでも普通に話せるようになればと言う事になった。
それを確認して俺達はまずは自分達のステータスを提示する。
「これを見て分かると思うけど、俺達のステータスには普通とは違って()で囲まれた数字が存在します。
そしてこの()の数値分元々のステータスから強化されている状態になります」
「確かに普通と違う表示だな…これは特別な支援魔法か強化効果のある魔法装備でも持っているのか?」
「いえ、俺のスキルによる物です。発動条件は俺が奴隷を持つ事で俺や奴隷達の元々のステータスに応じて強化されるようなんです」
「…つまり君達は君の奴隷が増えれば増えるほど、更にその奴隷が強くなればなるほど強化されていくと言う事か?」
「そうなりますね」
俺の言葉にこの部屋にいる俺達以外の五人が驚いている。
まあこんなスキル聞いた事無いしな、きっとこの人達も初めて聞いたのだろう。
「そのスキルは黒首輪の奴隷でも発動するのか?」
「それは分かりません。俺の奴隷になってくれているのはこの五人だけですので」
「なるほどな…、もし黒首輪でも発動するとしたらかなり強力なスキルだな。しかもスキルの持ち手次第ではかなり危険でもある…」
そうだよな…。
もし黒首輪でも発動するのだとしたらお金さえあればそれこそいくらでも強くなれ、いくらでも強く逆らえない部下を持つ事が出来ると言う事になる。
こんなスキルを持ってると知られたら変な勧誘も来てもおかしく無いと思う。
だからこそ基本的には秘密にしているんだし…。
「分かった。この事は絶対に秘密にする。もし許可無く秘密を明かすような事をしてしまった場合私自身にも厳罰を与えると誓おう。勿論リーファン殿達にもだ」
『分かりました』
「それでこれはお願いなのだが…その能力を悪用するような事だけはしないでくれよ」
「ええ」
「リックなら大丈夫だと思うわよ。基本的にお人良しだしね。幼馴染の私が保証するし、もしリックが馬鹿な事をしようとしたら私が殴り飛ばすわ」
「ははっ頼むよ。あと出来れば黒奴隷を持つ事も止めてくれ、白奴隷は完全な強制力が無いから安心出来るが、黒奴隷を何人か手に入れられてしまうと流石に不安になる」
「分かりました。俺も黒奴隷を買うつもりはありませんし問題ありませんよ」
「それからこれは呪いを解いて問題が大きくなるのを防いでくれた礼だ」
そう言って結構な額を渡してくれた。
それと院長には迷惑をかけたと言う事で、リーファン子爵からお詫びの意味も込めて孤児院に結構な額を渡していた。
「あの、ティニーはともかく俺達は何もしていないのですが…」
「でも彼女が解呪出来たのは君のスキルのお陰で、更にそれには君達全員のステータスがあったからとも言えるだろう?それに彼女は君達のパーティーメンバーなんだろ?それであればそれは正当な報酬だ」
その後は軽く話をする事になったのだが、その時にネージュさんがお詫びの意味もあって孤児院で働かせて欲しいと院長先生に頼んだり、イヴェールとテートが冒険者としての話を聞かせて欲しいと言ってきたりして結局結構長い間話込んでしまった。




