013.復讐を誓う少女
ティニーがパーティーに加わった次の日。
まずはティニーに冒険者としてパーティーでの戦闘に慣れてもらおうと良さそうな依頼を捜し、依頼を決めてミリーシャさんに依頼を受ける手続きをしてもらっていると、
「もうお前はクビだ!」
「ま、待って。次ぎは役に立って見せるから!」
「役立たずならまだいいけどな。完全に足手まといなんだよ!」
「あうっ…」
なんて声が聞こえて見てみると、男数人が大きな槌を持った女の子を突き放している所だった。
「本当なら俺達だってメンバーを追いだすなんてしたく無いんだ。だけど俺達だってもっと上を目指してるのに君と一緒だと俺達は上に行けないんだ。分かってくれ」
「はい…、今までありがとうございました…」
女の子は悲しそうな顔をしてギルドの隅っこに座りこんだ。
気になったのでミリーシャさんに話を聞いてみる事にした。
「ミリーシャさんあの子は?」
「ああ、ノエルさんですね。ドワーフの新人さんなんですが、今回で入ったパーティー三つ目のクビを受けてしまったようですね…」
「なんか足手まといだとか言われてたけど?」
「はい、彼女は何か理由があるようで『強くならないといけない』とやる気は凄くあるのですが…ステータスに問題があるらしくて毎回足手まといだと言われてますね」
「ステータスに問題?」
「はい、実は彼女はものすごく極端なステータスをしているんです。HP・STR・DEFはものすごく優秀なのですが、他が最低値の様で…」
「最低値ですか」
「はい…」
皆の事を見ると皆が頷いた。
「あのミリーシャさん。依頼の受注をキャンセルしてもいいですか?」
「まだ受注が完了していないので問題ありませんが…あの子をパーティーに入れるのですか?しかしこう言ってはなんですが、彼女はGランクの初心者パーティーにも付いていけなかったようでクビにされてましたよ?」
「まずは話を聞いてみてからですね」
そして俺達はその子の元に向かう。
「ちょっといいかな?」
俺が代表して声をかけると女の子は顔を上げてこちらを見る。
「なんですか?」
「君は強くならないといけないと頑張っているって聞いてね。その理由を訊いてもいいかな?」
「…訊いてどうするつもりですか?」
「理由によっては俺達のパーティーに誘おうと思ってね」
「…貴方達のランクを訊いても良いですか?」
「俺達はEランクだな」
「それでは僕は邪魔になると思いますよ。せめてF出来ればGランクでないと…」
「ステータスに問題があるって事は聞いてる。ほとんどが最低値なんだって?」
「はい…」
「それも知っていての勧誘を考えてるんだ。どうだ?俺達と少し話さないか?」
「…分かりました」
他の人達に話を聞かれない様に俺達の宿へと移動した。
移動中ステータスの関係だろうけど、ノエルの移動速度は遅かった。
その道中でお互いの名前を教えあう。
「さて、まずは何で強くなりたいのか…いや強くならないといけないのか訊いていいか?」
「…はい。実は私は両親をある理由から亡くしまして、その後お姉ちゃんと一緒にに故郷を出たのですが…その道中で山賊を見つけました。
下手に動くと見つかりそうだけどこのままでも見つかってしまいそうで、どうしようと思って居たらお姉ちゃんが木の根に一人だけ入れそうなスキマを見つけて私を中に入れて持っていたお金を全部渡して草で隠してくれたんです。
『人の気配がなくなるまで絶対に声を出したり物音を立てない様に』と言われていたのですが、しばらくして聞こえた声からお姉ちゃんが見つかってしまったのが分かったんです。
それからお姉ちゃんの悲鳴や嗚咽、山賊達の嫌な笑い声がからお姉ちゃんが襲われているのが分かったんです。
私は怖くてただ声を出さない様に耳を押さえながら震える事しか出来ませんでした。
本当はどれくらい続いたのかも分かりませんでしたが、とても長い時間に感じました。
それから声が聞こえ無くなってしばらくして気配が離れていくのを感じて、更にしばらく待ってから私は外に出ました。
するとそこには全裸のお姉ちゃんが山賊達に襲われた形跡が残った状態で殺されていたんです…。
私は山賊に聞こえてお姉ちゃんが助けてくれたのを無駄にしては駄目だと口を押さえて声を可能な限り抑えて泣き続けました。
それから近くに落ちていた石を使って時間を掛けてお姉ちゃんの遺体を埋めて復讐を誓いました。
これが私が強くなりたい理由です」
彼女がそんなに辛い目にあっていたなんて…。
俺は言葉を失い女性陣は彼女の話に泣いていた。
そして話をして強く思い出させてしまったのだろう。涙を流すノエルをアルティナとティニーがノエルの事を抱きしめる。
「辛い事を思い出させちゃってゴメンね…。みんな私はこの子の力になりたい。この子をパーティーに勧誘しよう」
アルティナの言葉に皆が頷く。
勿論俺も賛成だ。
皆が落ち着くのを待ってから話を再開する。
「まずノエルのステータスを見せてもらっていいか?」
「はい」
ノエルのステータスは確かにHP・STR・DEFは凄く優秀だが、他のステータスが見事に1だった。
「これは本当に極端だな…」
「はい…、他のはまだいいんですけどSPDが1の所為でここに来る時に感じたと思いますが移動でも迷惑をかけるし、戦闘でもまったく動きについていけなくて…、最初は狙われるんですけど攻撃力とかはあるけど動きが遅いのが魔物にも分かるのか、途中から無視される様になりまして…そうすると何も出来無くなってしまって…」
「なるほどな…」
「ですから私はせめて初心者パーティーじゃないと…」
「なあノエル。今から話す事は秘密にして欲しい事なんだが…」
それからノエルに俺のスキルの事を教えて俺達のステータスを見せる。
「それじゃあ貴方の奴隷になれば私もSPDが?」
「そうなるな」
「お願いします!僕も貴方の奴隷にしてください。お姉ちゃんの仇を僕自身が取れるなら僕を好きにしてくれて良いですから!」
「特に変な事を命令したりするつもりは無いけどな。とりあえず契約をしてみようか」
「はい」
契約の言葉を紡ぐ。
ノエルはどう見ても本気なので間違いなく白首輪が現れるだろうな。
そう考えているとやはりノエルの首に白首輪が現れた。
ノエルは首に手をやって確認すると慌ててステータスをみる。
「本当にステータスが…」
「それじゃあ依頼を受けて試してみようか」
「はい!!」
それからギルドに行くと先ほどの依頼があったので今度こそ依頼を受ける事にした。
それと同時にティニーとノエルのパーティー登録を行なう。
「本当に彼女を入れたんですね。しかも彼女ももう一人の方も白首輪を付けて…、リックさんてもしかして女誑しですか?」
「ぶはっ、そう言うんじゃ無いですよ」
「あはは、それでは頑張ってくださいね。それとノエルさんの事をよろしくお願いしますね」
後半は俺にだけ聞こえる様に言ってきた。
今回受けたのはウルフとレッドウルフの群れの討伐。
今回は俺とアルティナは防御メインで攻撃はノエルに任せる事にした。
アリッサは魔法を撃ちたそうだったが我慢してもらう。
ウルフに対峙するとノエルが槌を振り上げて突っ込んでいく。
そして振り下ろした攻撃は見事にウルフに当たって一撃でウルフの頭部を破壊した。
「すごい…。移動もそうだったけどレッドウルフでもどうにか付いていけてる…」
流石にまだ速いとは言えないがウルフ相手でもどうにか対応が出来るぐらいの速度が出ていた。
それからもノエルには攻撃に集中してもらう。
当然迎撃の為に俺とアルティナも何匹かは倒したが、殆どのウルフ達はノエルが倒していた。
ウルフの討伐証明の為に剥ぎ取りをした後。
「ありがとうございます。こんな風に戦えたの初めてです!」
「それは良かった。ところですぐに山賊の居る場所に行くのか?」
「いえ…、その山賊達を調べたらどうも広い範囲で行動しているようで今どこに居るのかまったく分からないんです。
それなので皆さんさえ良ければ冒険者を続けながらそいつ等に出会えたらと考えています」
「俺達は構わないぞ。それっぽい情報が入ったら優先的に調べてみる事にしようか」
俺の言葉に皆が頷いてくれた。
「っ!ありがとうございます。僕皆さんに会えて、皆さんのパーティーに入れてもらえて本当に良かったです。これからもよろしくお願いします!」
そしてサイタールに戻り依頼達成の報告をする。
「はい確かに確認しました」
ちなみに証明部位についてだが、冒険者ギルドに常備されているマジックアイテムでその部位素材がいつ剥ぎ取られた物か分かる様になっていて、その為に予め取っていた物を提出したり、店で素材として売られている物を証明部位として提出しても嘘がバレる様になっている。
報告後にミリーシャさんは笑顔のノエルの事を見ていた。
「ノエルさん大丈夫そうですね」
「はい、彼女はこれからも役に立ってくれそうです」
「そうですか。それは良かったです」
報酬を受け取って皆に八等分して分ける。
何故八等分かというと、俺達個人・共有資産そして孤児院への寄付とする為だ。
これはティニーを仲間に迎えた時に決めた事で、ノエルも賛成してくれている。