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なにか可笑しいシンデレラ  作者: みど里
アメリーヌ
1/7

物語開始~森での邂逅

 サンドリヨンです。

 そう挨拶して深くお辞儀をした幼い異母妹を見て、わたしは妙な既視感に囚われた。

 あれ、これ知ってる。



 森の奥、誰も寄り付けないよう結界が張られた仙女の住まい。そこでわたしは胸を張って仁王立ちしてみせた。

 わたしの魔術の師匠である仙女・クラウディ様は、そんなわたしに呆れたような感心したような顔を向ける。

「これは素直に驚いたわ……シンデレラ、ねぇ……」

 脚を組んでソファに背を預けたお師様は、かねてからわたしが言い募ってきたこの時を信じてはくれなかった。


 こことは違う世界の物語の一つに『シンデレラ』という童話がある。

 詳しい話は割愛するけど、いわゆる、虐げられてきた美しい娘が成りあがって王子様と結婚してめでたしめでたし、という話。

 そしてわたしはシンデレラのいじわるな姉その2。アメリーヌ。

 きたる身の破滅を防ぐために、わたしは幼い頃から仙女が住むという森へ通い続けた。魔術の指導を仰ぐために。

 仙女には会えたけど門前払いをくらったために、わたしは何度も足繁く通った。何としても自衛のための力が欲しいと縋り付いた。

 根負けした仙女が力を欲する理由を聞いたのが、それから一年後。


 わたしはシンデレラの物語を語って聞かせた。

 そしてわたしがその中の登場人物であること。ついでに言うと仙女も。あれだ、シンデレラに魔法をかけた魔女の立ち位置だ。

 仙女は信じなかった。

 だから、当時のわたしの家族環境が物語開始時のそれに変わる事を、預言めいてしてみせた。

 数年後、わたしの言った通りに、父は死に、娘の母も死に――。

 そして娘――サンドリヨン――は、母と姉にこき使われ、他の使用人たちからも遠巻きにされている状態だ。

 わたしはあの性悪な母と姉にとてもじゃないけど関わりたくないし、注意なんてできない。だからこっそりと、義妹を助けるとも言えない助けを入れているけど、果たして救いになっているのやら。

 そして王城から王子の婚約者選びの舞踏会が開催されるという御触れ。


 ここまで符号してしまえばお師様も認めざるを得ないだろう。

 まあ情が沸いたのか、あまりにわたしがしつこかったのかはわからないけど、お師様に教えを乞う事はできたからわたしの将来は何とかなる。

 いざとなればお師様のところに転がり込んでやろう。それが駄目なら国外へ逃亡する。

 そのための教養とか貯金とか頑張ってきたんだから。


「そういう訳で、お師様。よろしくお願いしますね」

「は?」

 お師様は気怠そうにわたしを見上げた。

「ですから、舞踏会に行きたがっているサンドリヨンに魔法をかける役です。説明したではありませんか」

「えー。嫌よめんどくさい」

 お師様はソファに横になってしまった。こうなったらてこでも動かないのがこの人だ。

「あんたがやればいいのよ。そのために教えたんだから」

 もう目を閉じてしまったお師様。

「お師様……! 信じないなんて言っていたのに……結局こうなる事を見越してわたしを鍛えてくれていたんですね!」

 わたしは感動した。何だかんだ仙女の名は伊達じゃないのだ。

 天邪鬼なところがあるお師様ににやにやしていたら、煩わしそうにクッションを投げてきた。

「うっさい。いいから早く帰りなさいよ。舞踏会、明日なんでしょ」

「はい! あ、ちょっとここで練習していいですか?」

 了承の言葉を貰う前にわたしは自身を変化させた。お師様の姿をお借りするわけにはいかないから何となく魔女っぽい美女に。

 姿見で確認して、どこをどうみてもわたしには見えない事に満足した。これでサンドリヨンの前に出て魔法を掛ければ後は流れに身を任せるのみ。

「では、お師様。また来ますね!」

 わたしは森の入口へ転移した。


 そんな横着がいけなかったのか――。


 突然現れた妖艶な美女の存在に目を見開いた男性とわたしは見合っている。

 そう、姿を戻していなかった事が幸いした。

 貴族然とした佇まいのこの男性は、こんな森の入口で何をしていたのか。多分向こうも同じ事を思っているんだろう。

「貴女はもしや……この森に住むという仙女殿だろうか」

「ち、違います! 人違いです! 恐れ多い!」

 とんでもないとわたしは首を振った。その失言に気付かないまま。

「……ならば仙女殿の関係者だな。どうか仙女殿に会わせてほしい」

(あ、しまったああ! まるで知ってます、みたいな言い方……!)

 がっしりと手首を掴まれた。ちょっと痛いんですけど!

「本当に知りません! 何ですかあなた!」

 もう半ばやけくそで涙まで滲んできた。

 そんなわたしをどう思ったのかじっと見下ろす男性。瞳孔が開いていませんか!?

「ならば……貴女の名は?」

 名前――そんなもの考えてないし、本名を言う訳にはいかない。

「名前……名前……」

 呟いたわたしを見下ろし口の片端を上げて笑う男性。何だその妖艶な、楽しい物を見つけたような笑みは。

「今考えているな?」

「どうして!?」

 読心術の心得でもあるのか。

 喉の奥で笑いを堪えた男性はなおもわたしを追い詰める。

「心が読める訳ではない」

「やっぱり読んでる!?」

 なんとか掴まれた手首を振り払おうとするけどまあ無理だ。

 お師様助けて! そう願ったら頭の中に舌打ちが響いた。酷い!


 こうなったら。

 わたしは手に魔力を集めて陽炎を呼び寄せ、まるでわたしの身がぼやけて歪んでいく錯覚を与えた。

 その隙に、力が緩んだ男性の手をそっと払い、茫然としている彼を置いて静かにその場を離れた。


 姿を戻して屋敷に帰ると、どっと疲れが押し寄せてきた。

 ああ、明日は舞踏会なのに。今日は早く湯浴みして寝てしまおう。


 そう考えながら廊下を歩いていると、通り過ぎた部屋から怒声が聞こえた。これはお姉様ね……。

 ちらりと扉の隙間から覗き込んでみると、母と姉がものすごい形相でサンドリヨンを囲んでいた。

「なんて身の程知らずな子かしら! そんな薄汚い恰好で王城に踏み入る気なの!?」

「図々しい娘だわね。着ていくドレスもないくせに」

 金切声をあげるお姉様と本気で見下したような目をしたお母様。二人の言葉からして、どうやら物語通りにサンドリヨンは舞踏会に行きたいと進言したみたい。

 言い足りないのか尚もサンドリヨンに詰め寄る二人に後ろから声をかけた。今現れましたみたいな様子で。

「お母様、お姉様。お針子が探していましてよ? 明日のドレスの確認じゃないかしら」

 そう言うと二人はサンドリヨンを最初からいなかったかのようにして、姦しく被服室へ向かったようだ。


 今思うと、この子もそうとうやるわよね。いい意味で図太いというか。

 こんなに虐げられているのに、自分も連れて行って貰えると思ったのだろうか。わたしなら涙を呑んで黙って恨み辛みを思う事しかできなさそうだわ。

 でもこのくらいじゃないと物語の主人公は務まらないのかもしれないわね。

 わたしはそう結論付けて自室へ戻った。

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