男の夢
スクールの窓口に行って事務のお姉さんと挨拶をする。
「理事長からは話を聞いております。こちらへ。」
僕らはお姉さんに案内されて学園の中に入る。
途中で生徒たちに畏敬の目を向けられるが気にしない。
お姉さんはドアを3回ノックし返事を待つ。
——入れ。
その返事を聞いて失礼しますと返してからドアを開けた。
「失礼します。」
職員室入る時こんなことしていたなぁ。
前世の懐かしい記憶が蘇る。
「し、失礼します・・・。」
クレアはこういう場所が初めてなのか周りをきょろきょろしながら入った。
「おぉ・・・!君たちか。よく来てくれた。歓迎しよう。」
書類とにらめっこしていた理事長が僕らの姿を見てニカッっと笑った。
「さて。君たちは私の学園に入ってくれる・・・。それでいいんだったね。もちろん学費は無しだ。更に寮も手配しよう。」
おお!これはありがたい。
それは宿の心配がなくなるということだ。
「はい。入学で間違いありません。クレアもそれでいい?」
「ええ。テリーさんがいいなら私も別に構いません。」
それはいくら何でも脳死なのでは?
まあ賛成してくれているってことでいっか。
「分かった。なら男子寮と女子寮の1部屋分確保しておこう。」
その発言にクレアは固まる。
「えっと。それはテリーと一緒の部屋じゃないってことですか?」
「うむ。」
それはクレアからしたら岩の事のように重い返事だったみたいで。
「やっぱテリーさん。断りましょう。」
クレアは物凄い怪力で僕の腕を握ってきた。
その力は凄まじいもので。
多分僕じゃなきゃちぎれてしまっているんじゃないかと思うような力だった。
そしてクレアの顔に絶対に引き下がりません!っと書かれてあった。
でもそんな力にひれ伏すようでは男の名が廃る。
何より学校での寮生活って凄く憧れていたのだ。
邪魔をしてもらっては困る。
「ふむ・・・。で。だ。どうするのだ。」
「「絶対に寮(宿)で!」」
「な・・・!なんで宿なんだ!?宿代かってタダじゃないんだぞ!一泊銀貨1枚するんだぞ!」
「だって!私1人で生活しろと言っているんですか!知ってますか!?私ってウサギより寂しがりや何ですよ!ほっといたら死んでしまいますよ!?いいんですか!!」
「あ~・・・。話の途中で済まない。なら専属メイドを付けるのはどうか?」
「お願いします!」
「ちょ!?なんでテリーさんが答えているんですか!それ私に聞いてくれた質問でしょ!テリーさん!?頭を下げないでください!どんなにメイドさんが欲しいんですかぁ!!」
当たり前だろう。
一度は男なら夢見たはずだ。
朝メイドに起こされて着替えの準備をし、歩くときは3歩後ろに下がって付いてきてくれる。
軽い雑用ならやってくれご奉仕してくれる。
一日中そばにいてくれるメイドさん。
いいね。何か胸にグッとくるよね。
「分かった。2人にはメイドを付けよう。それでいいか?」
「はい!」
多分僕はこの世界に来て一番の笑みをこぼしたと思う。
「あ~!もう!分かりましたよ!それでいいです!」
そう言ってクレアは頬をぷくっと膨らまして私は怒ってますよアピールをしている。
そんなにあの宿が気に入ったのか。
「よし。なら授業参加は明日にするとして今日は羽を休めてくれ。—―君。彼らに部屋の案内を頼む。」
理事長がそう言ってベルを鳴らすとお呼びでしょうか。と1人のメイドさんが来てくれた。
そしてそのまま僕らは寮へと案内されていく。
——パタンッ。
彼らが去ってドアが閉じた。
この理事長の部屋に残ったのは2人。
窓口のお姉さんと後は言うまでもなく理事長だ。
「——スラム街で助けられたからと言って寮までも提供するのですか。」
お姉さんは静かに口を開く。
「あぁ。彼らは命の恩人だ。それくらいはしてもいいだろう。」
「左様で。」
—―嘘ばっかし。
「では失礼しました。」
私は暇ではないのでこの部屋を後にする。
「うむ。ご苦労であった。」
そんな理事長の労いの声はドアが閉まる音にかき消される。
私は理事長の考えが分からない。
何故昨日あの汚い街に行ったのか。
何故あの少年達にそこまでしてこの学園に入ってほしいのか。
あの人は面倒ごとを嫌う、
平民の、どこでも居そうな少年が命を助けたからって理由で入学させる訳がない。
そもそも命を助けられたって話自体がおかしい。
私は知っている。
理事長は公表してないだけでこの王都の中でもトップクラスの戦闘力を持つS級ソルジャーだと言うこと。
「考えれば考えるほど頭が痛くなってきたわ。」
一度あの少年に話を聞いてみよう。
そう思って私は仕事に戻った。
――――――――――――――――――――――
「ここがテリー様のお部屋で御座います。」
そう言って案内されたのは何とも豪華な部屋だった。
広い部屋で寝室とお風呂とキッチンまで付いていた。
「ここからのご案内は私、アイシャが務めさせて頂きます。以後お見知りおきを。」
そう言って深い礼をしたのはすらっとしたモデルみたいな体系の薄い水色の髪と目の美人な方だった。
—―それじゃあ、アイシャ、ほどほどにね。
そう言ってここまで案内してくれたメイドさんは去っていった。
「え~と。とりあえずよろしくアイシャ。」
これから身の世話をしてくれるであろうアイシャに笑顔で挨拶をする。
「平民風情の分際で私に喋りかけないでください。」
笑顔のまま凍り付く。
「どうして平民のくせにこの学園へ?理事長のお許しがあるって言っても自分の身分をお考えで?」
「いや・・・。学校に行きたかったんです。」
「あ~やだやだ。これだから平民はどーせ貴族のお嬢様とお近づきになりたいとかそういう理由でしょう。」
「いや、僕はただ・・・。」
「もーいいわ。あなたの魂胆なんて分かってるわよ。それなら執事とかになればいいのに。それならお嬢様方と仲良くなれたのに。」
あれ?
僕が想像していたメイドさんとは違うんだけど。
「ちょっと失礼。」
「あら。どこに行くのよ?」
「少し返品を申し出に。」
「良いけど、この寮のメイドの貴方に対する感情は私みたいな人しかいないわよ?」
まじかよ。
僕ってそんなに嫌われてるの。
平民って肩書はそんなに重いものなのか・・・。
俺はショックで膝をつく。
「ならクレアは?クレアもこんな扱い受けているのか?」
クレアもこんな扱いを受けているのだとしら心配だ。
「クレアってあのエルフの子よね。安心して。彼女は可愛いからひどい扱い受けてないわよ。それどころが皆から好印象を受けてるわ。」
訂正。
この世は肩書ではなく顔でした。
俺は脱力感に苛まれながら寝室に向かう。
「あら。メイドの返品はしないのかしら。」
そう意地悪くいうアイシャの言葉を無視して柔らかいベッドに身をうずくめる。
「何も言わないの。詰まんない男。」
何とでも言え。
そう思いながら柔らかなベッドで寝る。
最近は床で寝ていたのと疲労ですぐ寝れた。
――――――――――――――――――――――
「夜よ。起きなさい。」
「—―ん。」
アイシャの声がして目覚める。
「夕食の時間よ。食べなさい。」
まるでペットに命令するかのようにそれを言うアイシャに眩暈がした。
本来なら起こしてもらう時、
「起きてくださいご主人様!」
とか言って欲しかったのに。
てかそういうイベントがあるって朝の時は信じていたのに。
「早く食べなさい。こっちは貴方と違い忙しいのよ。」
現実はこれだ。
何と残酷であろうか。
しかも忙しいって言ってる彼女は雑誌を読んでるし。
「はいはい、頂きますっと。」
椅子に座り出された料理を見る。
それは大変豪華な物であった。
色とりどりの食材が使われており、数々の料理があった。
それは多すぎず少なすぎず、ほどより量だ。
「うま。」
自然と言葉が出る。
「そう。それは良かったわね。」
「料理はしっかり出してくれるんだね。てっきり自分で作れっていわれるのかと思った。」
「それが希望ならそうするわ。」
「いえ、これでいいです。」
「なら黙って食べなさい。」
そうぶっきら棒に言いながら彼女は雑誌を読む。
どうやら必要最低限の仕事はやってくれるようだ。
それだけは救いだな。
「ごちそうさま。」
「あら。食べ終わった?」
「ああ。すごくおいしかった。ありがとう。」
「なら自分で食器洗いなさいね。」
ジャー。
ゴシゴシ。
拝啓、クレアさん。
僕は友達を作りに来たのに食器を洗っています。
そちらは元気でしょうか?
僕は食器を洗い終え、椅子に戻る。
さっきと変わらすアイシャは雑誌を読んでいる。
「なぁ、アイシャ。」
「何?」
「お前もしかして暇だろ。」
「当り前じゃない。」
「・・・そうか。」
今日は少し早いが寝ることにしよう。
明日は大事な日だし、