スクール
「でも私たち貴族の出じゃないですよね?」
それは無謀なのでは。
そうクレアに真面目なことを言われるのは何か悔しい。
「絶対にいい方法があるはずだ。」
と言っても名案は浮かんでこない。
何もしないのは時間の無駄なので今日1日はお金を稼ぐことに。
盗賊退治は危険なのでクレアに街で自由にしてていいよって言ったら、
「テリーさんのそばが一番安全じゃないですか。それに私も戦力になりますよ。」
そう言われたので一緒に金銭を奪いに・・・おっと。盗賊退治に。
「盗賊退治って言ってもむやみやたらに犯罪者を殺すんですか?」
「いや、それは僕の美学に反するから殺人をした賊とか人を殺そうとしている賊だけを狩っている。」
「そんな簡単に人殺しいるもんなんですか?」
「いや、なかなかいないけど。」
「なら稼ぎは賊の気分って感じなんですね・・・。」
「そう。だから画期的な方法を思いついたんだ。今回はそれをクレアに見せてやるよ。」
そんな雑談をしながら歩いていくこと1時間、僕たちの稼ぎ場所に着いた。
もちろんスラム街、昨日人助けをした場所だ。
「うっわ・・・。あんな綺麗な街並みの中にこんな場所があるんですね・・・。」
そう言って鼻を抑えるクレア。
確かにここは臭いから仕方ない。
「それで?殺人鬼さんを見つけるので?」
「今日はこれを使ってみようかと思う。」
そう言ってクレアに見せたのは昨日稼いだ銀貨の袋だ。
それを腰のベルトに付け、いかにも取ってくださいアピールをしている。
「テリーさん!?バカなんですか!?そんな所に付けたらまたくすね取られますよ!」
「そう。それが今回の狙いだ。」
「な!?・・・なるほど!取りに来たやつの財布をぶん取ってしまおう。そういうことなんですね!」
「ふっふっふ。よく分かったなクレアよ。話が早くて助かる。」
「流石テリーさん・・・!強いだけではなく頭もいいなんて・・・!」
そうして僕らは互いの顔を見て気色悪くニタァ…と笑うのであった。
しばらくこのスラム街を歩く。
「・・・クレア。当たりがあったぞ。」
「よし。そいつの財布をパチリに行きましょう。」
今通りすがった男は僕らの財布をこすねてきたので。
そんなことをする奴には同じ目にあって貰おう。
同じ目にあわしても別に罪悪感とか沸かないという訳で。
「へへへ・・・!あいつらバカだなぁ。ここがどういう場所か分かっちゃいねぇ。気の毒だがあんな大金ぶら下げ取ったらそりゃあ取られるわなぁ。」
俺はスラム街の住人だ。
今日はすごく馬鹿なやつがいた。
何と、金が入った財布を堂々と見せびらかしながら歩いている奴だ。
そんなの盗んでくださいっと言っているようなものだ。
今日の戦利品を片手でお手玉しながら笑う。
ジャラッ、ジャラッ、っと音が鳴るそれを持って酒でも飲もうと思った。
しかし急にそれの重みは無くなり、お手玉をしていた手は空を切った。
「ん?」
落としたのかと思い下を見てもない。
「な・・・!なにぃぃぃいい!!」
僕らの背後で男の声が聞こえるが気にしない。
普通の人からしたら自分の財布を奪われたことに対して殺意が沸くだろうが、僕はそんなものは沸かない。
むしろ感謝までしている。
「さ、流石ですねテリーさん。エルフの私も見失うスピードとか・・・。」
「前から思ってたんだけどエルフと人間ってどう違うの?エルフのほうが優秀だと聞いたことあるんだけど対してそんな風に思えないし。」
僕は取り返した自分の財布を見る。
銀貨が1枚、2枚、3枚、・・・よしきっちり7枚あるな。
「う~んそうですね。基本的に体力とか筋力は人と同じです。ただ、唯一優れているのが目なんですよ。」
「ふ~ん。」
次に盗賊から奪った財布を確認する。
銅貨が・・・なんだこれたったの3枚しかない。
これはぜいぜい1食分といった所か。
「基本的に目が優れている人って有利じゃないですか。戦う時も相手も攻撃を見切れて簡単に反撃することができるし。多分そのせいでエルフが優秀って言われてるんじゃないですかね。」
「なるほどねぇ。でもクレア、君僕の動き見えないんでしょ?」
僕はまた獲物がかかったので奪い取ってすぐに戻ってきた。
後ろで俺の財布がないぞぉぉぉおお!!!っと誰かが叫んでたが知らない。
勝手に人様のお財布を盗もうとするほうが悪いのだ。
「テリーさんが早すぎるんです!!エルフの中でも比較的に上位だったこの、わ!た!し!が!目で追えないスピードがおかしいんですよ!」
「だろうね。その為に鍛えてきたんだから。」
まずは自分の財布を確認。
よし、きっちり銀貨が7枚ある。
「でもテリーさんてそんなに体ごつい訳じゃないですよね。むしろ華奢な体ですよね。」
「まーね。無駄に肥大化した筋肉とか実用性なさそうだし。」
次にさっきの盗賊から奪った財布。
・・・銀貨1枚に銅貨2枚か。
まぁまぁおいしいな。
「ふ~ん。そんなものなんですね。」
「うん。そんなものだ。」
そういえば僕は最近体を鍛えていない。
最低限のトレーニングはしているが・・・。
僕はあるとこに気づいたからだ。
それは鍛えても実践を積まねば強くなれないということ。
これに気づくまでに時間がかかったのは内緒。
僕らは夜が暗くなるまでスラム街を歩き続けた。
「結構稼げたんじゃないですか?」
「そうだね。そろそろ戻る?」
「ええ、こんな地域に長くは居たくありませんから。」
僕はずっしり思い財布を持って帰る。
ふと。
その帰る道中に、昨日盗賊を狩った場所が目に入る。
遺体とかそのままなのかなぁと思ったらそんなことはなく血痕までも処理されていた。
「君は昨日私を助けてくれて方か?」
前から軽くしわがれた声がしてその方向を見ると。
「やっぱりそうだ。私の勘に狂いはなかった。君はまたここに来るだろう。——そう思っていたさ。」
それは聞いていて心地が良く、ゆっくり話す人だった。
彼はその言葉の通り、昨日助けたダンディなおじいさんで間違いがなかった。
そばに護衛だろうか鎧をまとった大きな人がいる。
「僕らに何の用ですか?」
クレアはこの人に警戒をしているのか僕の後ろで袖をギュッを握る。
そんな彼女の頭にポンッと手を置く。
「うむ。確認したいことがあってな。朝、学園スクールに顔を出したか?」
学園スクールっていうのはあれだろうか。
貴族しか入れないっという僕らが追い出された所か。
「やはりか。朝に事務員からこんなことを聞いた。一般市民が我が学園に入学したいという者がいたので丁寧にお断りした。とな。」
「私はその者について尋ねた。なら黒髪黒目で少し血の付いた華奢な方とエルフの少女が訪ねてきたとその事務員は答えてくれた。」
その事務員とはあれか。
僕らに優しく諭してくれた方かな?
綺麗なお姉さんだったと記憶している。
「それで私は昨日の晩に助けてくれた不思議な者を思い出す。」
「なるほどね。それで僕らを探していたと。」
「えっと。テリーさんテリーさん。どゆことですか?」
クレアは袖をちょいちょいっと引っ張って小声で訪ねてくる。
「つまり。この人はスクールのお偉いさんで昨日助けたお礼に我が学園に入学してみないか。そういうことであってる?」
この答えがあっているのか確かめるためにおじいさんの顔を覗き込んだ。
「いかにも。私は学園スクールの理事長ソニア・フール。どうだ?わたしの権限で立場の問題は解決してあげよう。入学してみないか?」
その言葉に反応した理事長の護衛が少し動いた。
「大丈夫なのですか?こんな力のなさそうな少年が我が校に入っても。」
それは何とも無機質で特徴がない声だった。
「構わんよ。本来は才があるものこそが我が校にふさわしいものだ。」
—―私はどうなっても知りませんからね。
そう言って護衛は引き差がった。
「それでどうするかね?私としては入ってほしいのだが・・・。」
「お願いします。入学さしてください。」
僕は頭を下げて言う。
その後ろでクレアがなんか言っているが全部無視。
学園生活が待っているのに邪魔をしないでくれ。
「分かった。なら明日の朝に我が校に来てほしい。事務員には伝えておく。」
最後に彼は、ありがとう—―。
そう言ってこの汚い街から去っていった。
「なんかあの方裏がありそうでしたよ?本当に入学して大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ。何とかなるって。」
「まぁ。テリーさんがそういうのならば。」
「何も考えてないから期待はしないでほしいけどね。」
「やっぱりミスター無計画・・・。」
何とでも言え。
そして僕らは昨日止まった宿に戻ってきた。
お金を払って部屋に案内される。
とりあえず寝るのにはまだ早いので今日の稼ぎを確認しよう。
ジャララララ・・・
財布をひっくり返してみたらこの日の苦労が良くわかる。
「うわ。すごい量ですね・・・。」
「そりゃね。大体2~30人くらいでしょ。盗もうとしてきたの。」
「逆にすごいですね。そんなにも盗人がいるのって。」
確かに。
「よくよく冷静に考えたら私たちがしているこの行為も盗賊ですよね。」
「クレア。」
「何でしょうか。」
「気にしたら負けだよ。」
「絶対嘘ですよね!?むしろこれは私たちが盗賊じゃないですか!!あぁ・・・これから私たちはどうなっていくんだろう・・・。」
ふむ。大体銀貨16枚と銅貨50枚くらいか。
銅貨10枚で銀貨1枚換算だから大体銀貨21枚手に入った訳ね。
ふふ・・・。
思わず笑みがこぼれる一気にお金持ちになった。
「あ、悪人顔だ・・・。」
おっとそれは聞き捨てならん。
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朝、クレアのおはようで目が覚める。
もちろん床の上で。
今日はスクールに行く予定だけど、服くらいは何とかしないといけないという判断で買いに行く。
僕らは出会ったままの頃の服で少し汚い。
一応毎日洗っているのだが僕の洗い方が下手くそなのか生地がすごく痛んでしわしわなのだ。
クレアの服はそんなことないんだけどな。
理由を聞いたら、
「これは私の母が編んでくれた服で・・・。大切にしているんです。」
と。
これ以上は深く聞く気になれなかった。
服屋で適当に見繕って上と下を買った。
店に入って10分をたたずに購入した僕とは裏腹にクレアはずっと選んでいる。
店の隅々まで見ていて永遠に選んでそうなので、淡いピンクのワンピースを手に取ってこれはどう?似合いそうだけど。そう言ったらこれで。と。
案外クレアも適当なんだなぁ。
そう思ってそのワンピースを購入した。
店で着替えてもいいらしいので今ある服は捨てさして貰って新しく買った服を着る。
特に装飾はなく地味なやつ。
どこにでもいる村人Aという感じだ。
それに対してクレアは綺麗なワンピース姿(てかこの服高かったので少し後悔)で僕がクレアの従者みたいになってるが、まぁ似合っているのでいっか。
「どうですか!?すっごくかわいくないですか!?」
その場でくるくる回ったり袖を見たりしてはしゃいでるクレアは可愛かった。
「似合っているよ。」
「えへへ~。」
そう無邪気に笑う彼女を見て服代が高くても喜んでいるからいいかと。素直に思えた。
クレアは今まで来ていた服を袋に入れてそれを俺が持ってあげる。
クレアはお礼をした。
あとは適当に雑談しながらスクールを目指して歩いて行った。