嫁の腹は美しい
女性って凄いよな。
何が凄いって、この時代、二十一世紀に手前の腹を真一文字にかっ捌けるんだからよ。
この感覚はさ、日本人的っていうか、日本男児的っていうか。侍の切腹を理解できなきゃ無理なんだけれどよ。
それでも今の女性は……いいや、昔からだな。今も昔もこれからも、女性ってのは凄いんだよ。男とは違う。男の切腹とは違うんだよ。
切腹は何て言うか、利己的なもんだと俺は思ってる。実際は違うかもしれねえけど、それでもあの潔さってのは一種の我儘になるわけだ。
自決にしたって、詫び入れにしたって、結局は勝ち逃げみたいなもんだ。いや、死ぬから負けではあるんだけどよ。
それでも、見せ付けられた方は「やられた」ってなるわけで、思わず「天晴れ」ってな感じになっちまう。
まあ、今の時代だと冷めた目で見られるかもしれないけどな。俺なんかはそうだ。誰とは言わないがよ、未来を憂いて腹切る位なら、生きて未来のために尽力しろよって考えちまう。
話を戻そうか。
男の、侍の切腹について感じ方や捉え方、考え方は人それぞれだ。ここまではいいな。
じゃあ、女性の切腹についてはどうだ。聞き慣れねえよな?
実際、日本の歴史において女性が切腹した記録があるかは知らねえ。それでも女性は確実に腹を切ってきた歴史がある。
確実にだ。
ただその場合、切腹っていう表現の仕方はよろしくねえな。
間違いなく、言い間違いだ。
ただ俺としては、それは切腹に近い状況? 動作? であったってだけの話だ。利己的どころじゃない、素晴らしく衝撃的な、自己犠牲的な事だったぜって話だ。
もう一度言うぜ。
女性は凄え。
なんせ種をばら蒔くだけの男とは違って、常に命懸けだ。
命を賭けて、死ぬ覚悟で、腹を切る。
誰の命を誰の為に、なんて訊いてくれるなよ?
広義でとれば俺も含まれるかもな。
母ちゃんの腹見てビックリした同級生もいるだろうし。そうじゃない奴も知識では知ってるだろうし。
もしかしたら、将来お前の奥さんになる人も腹を切る事になるかもしれない。
だから覚悟しろよ。
断腸の思いだなんて言葉、軽々しく使えなくなるぜ。なんせお前のお母さんは、俺の奥さんは本当に膓をかっ切ってるんだからよ。
十年経とうが百年経とうが、絶対に忘れることはないって言い切れる。
あの真っ赤な一文字を強引に縫い付けた、痛々しくも誇らしい姿をよ。
今はただのみみず腫で、しかもぽよぽよに弛みきって押し上げなきゃ見えねえけどな!
がははははははははは!!
って、あれ。
母さんいつからそこに?
あの、そのフライパンは……ちょっ、ま。
きゃああーーーーーー?!