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冬野菜の増産

農業の安全こそ国家の基本戦略だと思います。

冬になると食料の値段が跳ね上がるので、南方地域での冬野菜の増産を指示する外様であった。

不作が来るのが分かっているのだから九州沖縄辺りで増産すれば、少しは価格が抑えられる。

消費に走り、税収アップに貢献する心算でも、流石に白菜千円とかになってしまったら、よほどの物好きか資産家しか白菜は食べなくなるだろう。

「小麦の芽が出たよ。大きく育ったら家畜に食べさせて付加価値を付けような」

「自衛隊の皆さんには感謝しております。俺の家は息子が帰って来たのでサポートから外してくださっても結構ですが、出来たら草を調達していただけると有り難い。

最近牛や豚が急激に増えたので、養う為に草が必要なのだが、輸入物は駄目だと言う。

その努力も実って今年(2018年)の冬は比較的温暖な冬であったのが幸いだった。

いや寒いのだが、去年よりはマシなので、価格も安定しているのが救いである。

今のところは多少高値な位で消費にも影響はなかったが、この先どうなるかは誰にも分からない。

「暇な公務員は、農作業に派遣しろ。農業の安定こそが国家の礎となるのだ」

外様は作った作物を売り込む為、TPPの参加国を巡って交渉を行っていた。

食料は基本的に輸入して、余った食料は蓄えと外国輸出用のドル箱になるだろう。

最悪1兆円は税収が見込める筈だと外様は考えていた。

「お願いです。うちの商品を買ってください。俺にも妻や娘がいるんです」

外国との交渉担当官に任命された、辣腕鈴木が土下座で各国にお願いしていた。

こんな態度を取られると恥をかかせる訳にもいかないから、妥協するしかなくなると読んでいる。

「まあ最初の取り決め通りでよいなら売りに来るのは構わないよ」

「本当ですか?良かった。これで俺の首がつながる」

これを閣僚に土下座で売り込んでいた外様に報告すると大喜びで閣僚に向き合った。

だが辣腕鈴木は閣僚の1人を説得したに過ぎない。

日本の作物を売り込むには、まだまだ困難が大きいだろう。

「まあ日本の食料自給率って大体39%(今年は30%の設定)ですよね?本当に安定して輸出出来るんですか?俺達も商売だから売れる商品なら喜んで買いますけど」

「少なくとも冬野菜は大丈夫です。どんな手段を使ってでも雪から作物を守ります」

今年の冬は例年に比べて作物の値段が安いので、外国に売れば利益率が高い。

「自衛隊まで動員して作物を作らせてるその熱意には、感服いたしますけどねぇ・・・」

日本が本気で作物の増産をしたって、せいぜい食料自給率75%位が限界だろうと思う。

「最近麦を作らせているんです。美味くいけば3%は食料自給率が上がります」

まあ国の力で無理矢理食料自給率を上げるだけだが、野党とも話し合わないとな。

「牛乳と乳製品も増産する予定です。外様内閣の政策は、農業安保ですからご安心を」

「それをされたら我が国の作物は日本で売れなくなりますな。全く国家権力はずるい」

愚痴を言う閣僚達だが、辣腕鈴木と外様に作物販売の許可を与える事になった。

もともと自由競争が前提のTPPだから、日本の作物を拒むことは出来ない筈である。

閣僚達に約束を取り付けた外様は大喜びで日本に帰ると、農業の代表者にあって報告した。

「日本の食料は外国に売るんだ。日本の食料なら高値でも買ってくれる国はある」

「本当ですか?俺芋農家なんですが、小麦は作るの初めてなんですよ?素人の農作物を買ってくれるんですか?TPPの参加国は俺の小麦を高く買うほど飢えていないと思いますけどね」

「そうだそうだ」

などと言っても、万一国内で売れなかったら外国で売るという意味だと農家は受け取った。

国産とて安ければ買うと断言する高齢者や若者は多い。

小麦だとどちらかというとパン食の方が主流だから、小麦粉にして売るのが最適だろう。

「間伐材で火を起こせ~。熱量を上げれば作物が良く育つ」

「太陽光パネルも良いが、やはり間伐材使わないと森が荒れる一方だからな」

外様からして自分の農地に小麦の種をを蒔いて使用人に育てさせていた。

天候さえ良ければ、来年の今頃は食料自給率55%位には跳ね上がる筈である。

「余った作物は全て政府が買い上げてやる。安心して増産しろ」

外様は農民たちに約束したので農民は安心して増産に踏み切ったのだが、自衛隊頼みである。

「それともやしの増産も行うように指示を出しておいてくれないか」

「良いよ。もやしの値段維持しないと食料品買う客が減るからね。大豆を輸入しないと」

最近もやし農家が原料の高騰などもあって危機に瀕していた。

値上げしたいのだが、それをやるとスーパーに客が来なくなるのである。

もやしは1袋19円の安さだが、これで業者が安楽に暮らしてると本気で信じてるか?

「小麦ではなく豆を増産した方が良かったですかね?温室や水耕栽培なら季節は関係ないですし」

「もう遅いよ来年の春にでも緑豆の生産を指示してみよう」

それもでは何とか持ちこたえてくれと思ったが、もやし農家にはジビエ料理を届けさせた。

「この料理で春まで飢えをしのげというのか?有り難いがなんでジビエ料理何だろう?」

「文句言うなよ。政府は一応俺達の窮状を理解してくれてるって事なんだからさぁ」

だったら値上げのお墨付きが欲しいが、そんな事を言ったら、マジで客に見捨てられてしまう。

「で、もやしを増産するのは良いんだが、緑豆の手配は政府がしてくれるんだろうな?」

将来的には日本で作るにしても、当面は輸入に頼らないといけないのでもやし農家は困った。

緑豆は確か相場が3倍に膨れ上がっているぞ。

政府が買ってくれるのか?

「勿論政府が責任をもって用意する。だから値上げするんじゃないぞ。値上げされたら消費が冷え込む」

そうなったら外様政権は崩壊して、日本は今度こそ崩壊するだろうと思われる。

国民の多くが生活出来なくなるだろう。

「分かりましたよ。何時の時代も結局なくのは女子供と農家に中小企業なんだ・・・」

数日後、政府が緊急に輸入してきた緑豆がもやし農家に配られた。

一応有償だが、価格は例年並みに抑えられている。

政府はこの緑豆会の資金をねん出する為に、蓄えの1兆円に手を付けた。

残りの予備資金は6兆円であるが、もやし農家はこれで救われたのである。

「有り難い。これで何とか生活出来ます。なんとお礼を言ってよいやら分かりません」

その感謝の気持ちも、外様の本心を聞いたら色あせる。

「礼はいらんからたらふく儲けて税金を納めろ。それが国民と俺の義務だ」

俺も農家なんだから早速緑豆の栽培に取り掛かろうかと思った。

気候的に日本の風土では育ちにくいらしいが、水耕栽培なら何とかなるかもしれない。

「そんな訳で俺の農地で緑豆を栽培してくれ。水耕栽培の機械があっただろう」

「構いませんがもやし農家は冬の時代ですよ」

使用人が苦情を言うが、もやし農家を救うには、俺が緑豆を作って安く売るしかないだろう。

「緊急にな。緑豆さえ作れればもやし農家は貴重な税収減に変貌する筈だ」

外様の指示により、自宅の水耕栽培上でもやしが作られた。

2019年1月、緑豆は何とか育ち、もやし農家は救われる事になる。

「緑豆の値段が下落し始めました。これで俺達助かったぞ」

「早速緑豆の作れる農地を探したいと思います。政府に頼ってばかりじゃ儲かりませんし」

政府の介入でひとまず救われたもやし農家は、久しぶりにお茶を飲みながら休憩を取っていた。

サボりなどとは言われたくない。

ここ20年近くも苦しい時代が続いたのだ。

消費税が2度も増税したのに、もやしの値段は上がらいんだぞ。

「農水大臣には、緑豆の生産拠点を調べて緑豆を育てる事をお願いしたい」

もやしは消費の生命線だ・・・。

もやしの値段を維持出来るなら、多少の散財は仕方がない事なのである。

「良いですけど日本の気候では良い緑豆は育ちませんよ」

「構わない。多少質が落ちても数があれば取り敢えずは文句は言えないから、我慢する」

でも生産拡大はちょっと待て的な雰囲気も多いもやし農家である。

もやし農家は長年積み重なった借金を返済しないといけないので設備投資にお金がいかない。

現状を維持するだけで精一杯なのである。

「政府のおかげで今年度は大丈夫そうですが、来年も緑豆買ってもらえるとは限りませんし」

「確かに予算が足りないな。税収の見込みは82兆円だが支出はどうなるか分らんし」

去年が59兆円だから、驚異的な伸び率である。

民衆の外様を信じた消費の効果が出ているようであった。

「農家を救えば、税収が1兆円アップ。林業が栄えれば税収が1兆円アップ」

それで2兆円増収する見込みはあるが、何年か先であろう。

「今年度の税収が楽しみですね。あれだけ身を削って散財したんだぜ」

「これで税収が上がらなかったら外様を恨むぞ」

「信じていたからなぁ」

民衆は期待と不安に心躍らせながら税収の発表まで待つ事にした。

そしてその前に自衛隊による材木伐採の許可が唐突に政府によって降りる事になった・・・。





政府が本気になればこの位の事は出来ると俺は信じていますけどね。


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