生きていることの大切さ
かなり重いと思いますが、お付き合いください。
突然だが、これを読んでる君に質問しよう。え?本当に突然すぎるって?まぁそう言わず答えてくれ。
生きるとは何だろう?
君がパッと思いついたことを述べてくれればいい。そんな哲学的なことを聞かれても答えられないって?まぁ大半の人がそうだろう。この俺自身そうだった。俺たち人間にとって“生きる”ということはあたり前なことだ。普通に生活していれば“生”について真剣に考えることは少ない。“死”はなんとなく遠いものだと思っていた。けれど、“死”はとても身近なものだったんだ―――
彼女との出会いは高校3年の時。彼女とは初めて同じクラスになった。そしてベタに俺はひとめぼれしてしまった。高校3年最後の思い出に恋人が欲しかった俺は決意を胸に告白した。
「君のことが好きなんだ。ひとめぼれだったけど、それでも好きなんだ。つきあってほしい。」
「え?えぇー!?」
彼女はとても驚いていた。後から聞いたが、彼女は告白されたことがなかったらしい。何はともあれ彼女はOKしてくれた。受験で忙しい中合間を縫ってデートしたり、授業を抜け出して2人っきりで勉強したり、リア充を満喫していた。―――あの日までは。
あの日の俺は第1志望に落ち、この世に絶望していた。今考えると他の学校には受かっていたし、他の学校でも自分のやりたいことはやれたから問題なかった。あの時それに気づけばよかったんだ―――
あの日あいつは俺をなぐさめるために会いにきてくれた。
「大丈夫だよ!他の学校には受かったんでしょ。まだやれるよ!」
「わかったようなこと言うなよ。受験すらしてないのに。」
あいつは大学はおろか専門学校にすら受験していなかった。俺がそれを理由にやつあたりした。どうしてあいつが受験していなかったのか考えもせずに。そして“あの”言葉を言ってしまった。
「もう死にたいよ。」
その瞬間、俺の右頬に痛みが走った。あいつが俺をビンタしたんだ。
「そんなこと言わないで!そんな簡単に死にたいなんて口にしないで!生きたくても生きれない人もたくさんいるんだよ!?あたり前のように毎日を生きられることが・・・今日を、明日を、1年後をあたり前に迎えられることがどれだけ幸せかわかってるの!?大学に、それもたかだか第1志望に落ちただけでこの世の絶望みたいな顔しないで!!」
早口にまくしたてるとそのままあいつは立ち去ってしまった。
「何なんだよ、いきなり。たかがじゃないから言ってんのに。」
この時、俺は追いかけるべきだった。知らなかった、これが、あいつとの、“最後”になるなんて―――――
この日からあいつと連絡が取れなくなった。最初は怒ってるのかと思った。それでも3日も返信がなくさすがに心配になって家を訪ねた。インターホンを鳴らし、出たのは彼女の母親だった。俺が名乗ると何も聞かず中に案内された。そして飲み物と1通の手紙を渡してきた。
「何も言わずにこれを読んであげて。」
そう言われ、俺はその通りに手紙を読んだ。その手紙にこう書かれていた。
世界で1番愛しい大切なあなたへ
あなたがこれを読んでいる時、私はそこには・・いえこの世にはいないでしょう。
私は未知の病に侵されています。治療法はおろか、原因及び要因も不明、症状も確立されていません。この病についてたった2つだけわかっていることがあります。1つはこの病気になった時、必ず体調をくずし意識を失い、1週間眠り続けるということ。そしてもう1つは、一切の例外なく、絶対に、成人する前に死が訪れるということです。つまり大人になることができないんです、絶対に。そのことからこの病は『不成人病』成人することが不可能な病気と名付けられています。
この病気は本当に不可思議で私の場合、普段生活する上で一切の支障はありません。それどころか何の問題もなく、病院に通うことすらいりません。けれど、成人することはできないんです。
私はもう18歳。きっともうすぐ死んでしまうでしょう。だからこそこの手紙を残します。最後の最後に私に幸せをくれたあなたに向けて。
ありがとう。
さようなら。
あなたの世界で1番愛しい人でありたい私より
俺は泣いていた。そんな俺に彼女の母親はハンカチをさしだしてくれた。そして口を開いた。
「あの子が『不成人病』と診断されたのは小学校4年の時だったわ。2,3日前から体調がよくないって言ってて、明日病院に行こうねって話をした金曜の授業中に倒れたの。救急車で運ばれて1週間眠り続けたわ。色々調べても原因も要因も病名もわからなくて、その結果『不成人病だろう』って言われたの。」
「・・・『だろう』なんですか?」
「えぇ。この病気は未だ未知数。断言はできないの。実際に亡くなるまでは。だから、私は、半信半疑だった・・・・いいえ、信じたくなかっただけかもしれないわ。・・でも、それでも、あの子は信じてた、信じて受け入れた。自分の天命を。」
俺は何も言えなくなった。だって言葉になんかできない。計り知れない。たった10歳の少女が突然、死の宣告をされた。しかもいつ死ぬかもわからないなんて。いったいどれほどの恐怖だったのか、いったいどれほどの悲しみを得たのか、計り知れない。わからない、なんて簡単に口にしてはいけない。言葉にすることさえ許されない。そして俺は心底自分を呪った。生きたくて生きたくてしかたがないのに、どうしようもない死を悟り受け入れた人に、なんて残酷な言葉を吐いたのだろう。なんて身勝手な言葉を吐いたのだろう。たかだか大学に落ちただけの、何の病気も抱えていない健康な人間が“死にたい”なんて。
「あの子はあなたのことをいつも話してくれたわ。こんな私を好きになってくれた人がいたって。私は幸せだって。」
謝りたい。許されるためにじゃない。許されないためにだ。でも死んでしまったら、それすら伝えられない。
「ただ1つだけ、やっぱり結婚してみたかったって言ってたわね。」
その時1つ思い浮かんだ。
「お母さん、死亡届は出されましたか?」
「え、ま、まだよ。まだ葬儀も終わっていないから忙しくて・・・。」
「お願いがあります。」
「医院長、私とお付き合いしていただけませんか?」
もう数え切れなくなった告白に俺はいつも通りに返す。
「僕は既婚者ですよ。」
俺の左の薬指にはシンプルな結婚指輪がはまっている。
「で、でも!奥様は亡くされていると聞きました。」
相手を睨んだ、そして言い放った。
「どこでそんな嘘を聞いたのか知らないけど、僕は人の心に土足で入ってくるような人は嫌いなんだ。失礼するよ。」
俺はあの時、彼女の母親に頼んで死亡届を出す前に婚姻届を出した。彼女の最初で最後のたった1つだけのわがままを叶えるために。そして親にも教師にも頭を下げて、受かっていたすべての大学を蹴り、医学部に入るために勉強し医者になった。理由は簡単だ、彼女のような人を1人でもなくすために。そしてお金を貯め、世界でたった2つだけの特注の結婚指輪を作った。俺はそれを買ってから1度も外したことはないし、彼女が亡くなっている話もしたことがないのに告白が途絶えない。けれど俺は彼女以外誰とも付き合うつもりはないし、彼女以外を好きになることもない。俺はたった1年だけ一緒だった彼女を、たったの18年間を一生懸命生きた彼女だけを愛しているからだ。俺はあの日を境に人生が変わった。死はとても身近なものになった。だからこそその“死”を身近なものにしないために、誰かを助けるために医者になった。
俺が1番最初に訊いた“生きるとは何だろう?”という質問。俺はこう答えよう。
明日があるということ
健康な人は知らない。明日があることがどれだけ幸せか。死を恐れる心配がないことがどれだけ幸せか。この世には病気で簡単に明日を迎えられない人がいる。戦争でいつ死ぬかわからない人がいる。この平和な日本がどれだけ幸せか。けれどこの世には自ら命を絶つものがいる。自殺をバカバカしいことだと言うつもりはない。けれどいま1度考えなおしてほしい。本当に死ぬことでしか救われないのか?家族や友人、はたまた見知らぬ誰かは君を必要としているかもしれない。君を助けてくれるかもしれない。君に見えていない世界では君を待っているかもしれない。君は真剣に悩んで決めたかもしれないが、簡単に死にたいなんて言わないでほしい。
周りの人も自分には関係ないなんて思わないでほしい。君の言葉で行動で救われる人は必ずいる。だからもっと周りを見てあげてくれ。
願わくばこの世から自ら命を絶つ人がいなくなるように―――――――
まず、初めに・・・偉そうなこと言ってすんません!!それから決して周りで亡くなった方がいるわけでも、不幸なことが起きたわけでも、病んでるわけでもありませんのでご安心ください。なんか、なんとなく書きたくなっただけなんです。特に深い意図はありません。
「生きたくても生きれない人もたくさんいるんだよ」って言葉が突如頭の中に現れ、それを元に小説を書こうとした結果がこれです。
思いつきでどんどん話を書いていたら、気がつけば男女の恋愛話になってるし、気がつけば男は女に人生を変えられてるし、気がつけば男は女と結婚してるし、作者も思いもよらない話になり、話をどこで完結させるかに悩み、結果こんな形になりました。
個人的には悲劇は好きではないのですが、これを喜劇にするのは無理があったので、できるだけライトにする方向で落ち着きました。
今回あえて登場人物たちには名前をつけていません。つけないことで親近感を持ってほしいためです。また、ここで出てくる病気は勝手に作ったものなので現実世界とは一切関係ありません。
他の小説もあると言うのに別の話ばかり書いておりますが、他も完結させる気はありますので、亀更新ですがお付き合いください。