春風の歌
遠い遠いあるところに、不思議な国がありました。その国には、雲までも届くとても立派な、高い高い塔があったのです。
その塔には、四人の王女様が交代で塔に住むことで、この国へ四季の彩りを与えていたのです。
季節は巡り、楽しく穏やかな歌声と共に、春には麗らかな風が吹いて、芽吹いた草花が野原に虹を咲かせます。
明るく活発な歌声と共に、夏には一面の緑の絨毯が広がり、国に暮らす人々の笑顔のように、サンサンと太陽が張り切ってくにを照らします。
朗らかに愁いを帯びた歌声と共に、秋にはたくさんの自然の恵みが国へと届けられます。紅葉の広がった国は黄金の夕暮れに包まれ、それはそれは綺麗な光景です。
落ち着きしんみりとした歌声と共に、冬は国は真っ白に包まれます。降り積もった雪が、銀色の世界を作り出し、次の春の為に国がお休みをする季節です。
どの季節も、とても素敵な王女様がその歌声で、季節を連れて来てくれていたのですが、どういうことでしょう?
国の王様はとても困っているようです。
「あぁ、大変だ大変だ。これは国の一大事だ!」
王様はバタバタと慌ただしく走り回ります。
「春の王女がやって来ない! このままだとずっとこの国は冬のまんまだ!」
冬が始まってから随分と経ちますが、春の王女様が国に来なくなってしまったのです。これは大変です。みんなみんな、国中の人々が春の訪れを待ち焦がれていたのです。
冬の王女様が塔の中に居る限り、振り続ける雪がやむ事はありません。春の王女様と交代をしなければ、雪の王女様も外に出ることが出来ないのです。
春の歌声が来ないことを国中の人々は不安に思いました。待てど暮らせど、一向に春は来ません。
そこで、国王様は国へお触れを出しました。
『誰でもよい。この冬を終わらせ、春を訪れさせた者に褒美を与えよう。一刻も早く、春を連れてくるのだ』
凍り付いた掲示板に貼られた紙は、その内容から瞬く間に国中へと広がってゆきました。
それからというものの、毎日のようにお城には人が訪れ、それぞれが春を連れてくる方法を提案したり、春を連れてきたと様々なものがお城へと運ばれて来ました。
けれども、雪は降り続けるばかりです。
「ええい、もっとまともな方法はないのか!」
しんしんと降り続ける雪は、日に日に国を覆い尽くしていきます。このままでは、いつの日か国が雪の中に埋まってしまうかもしれません。
そうなる前に、春を連れてくる方法を見つけなくては。
王様は様々な方法を試してみました。お外で火をくべて、雪を溶かそうとしましたが、溶けた雪ですぐに火は消えてしまいます。
次に王様は、国中の人々に部屋を春らしいもので装飾するように呼び掛けました。けれども、春は来ませんでした。
あれもダメ、これもダメ。度重なる失敗の連続に、ついには王様の元気もだんだんとなくなっていってしまいました。
それでも王様は諦めません。王様は国中から寄せられてくる春を連れてくる方法を一つ一つ試していきました。それでも、春はまだやってきません。
その間も冬はただただ寒さを募らせていきます。
来ない春を待ち続け、まるで氷のように、人々の表情や態度も冷たく、静かになっていってしまいます。このままでは、国から笑顔が、笑う声が聞こえなくなってしまうかもしれません。
ただ、寒さに震えて、春を待ち続ける生活に、みんな元気がなくなっていってしまうのです。
いつしか、子どもの遊んでいる姿も、笑っている声もなくなってしまいました。
そして、ある時、お城へ一人の少女がやってきました。
「……君も春を持ってきたのかね」
王様は疲れた顔で言いました。
いつの間にか、お城の中はへんてこなものでいっぱいに埋められてしまっていました。
「ううん、ちがうの。王様に、聞きたいことが一つだけあって」
「聞きたいこと?」
「いつも、春がくるとき、どんな感じだったかしら?」
少女の問いかけに、王様は少し考えます。
「ええと、どんな感じだったかな。春の王女が春を連れてくる時、山の向こうから楽しそうにやってきていたのは覚えているんだが……」
王様は思い出そうと、頭を捻ります。
「あのね、春の王女様が来るときは、季節の王女様が来るときはみんな歌って来るの!」
少女が口ずさむメロディに、王様は目を丸くします。
「そうだ、王女はみんな歌が大好きだったな!」
「それでね、今は王女様が来れないから、みんなで春の歌を歌いましょう。そうしたら、楽しそうな歌声にひかれて、王女様が来てくれるかもしれない!」
少女は一人、歌います。暖かい歌声が、お城の人たちの耳に届き、みるみるうちに冷たかった表情に明るさが取り戻されていくではないですか。
「あら、この歌は……」
やがて、歌う人数は二人に増え、その歌声を聞きつけた人達が次々に歌い出します。
歌声はお城の中だけに留まらず、お城から国中へと広がってゆきます。楽しく、穏やかな歌声は国中へと響き、やがて暖かな風となってメロディは国を駆け抜けていきました。
歌声は沈んでいた人の気持ちを浮かび上がらせ、歌声が聞こえると家に籠っていた人達も外に顔を出しに来ました。
楽しそうに歌う人を見て、一人、また一人と歌う人数は増えていきます。
その歌声は国に住む色んな生き物達の歌声も合わさり、みんなが春を呼びました。
空を覆っていた暗い雲が風に吹かれ、青空と太陽が顔を出します。
太陽が積もった雪を照らし、春風の歌と共に雪は溶かされていきました。
溶かされた雪は水になり、流れていった後に草花の蕾を残していきます。
歌声は遥か遠くへと響きました。遠く遠く、山の向こうまで届きそうな歌声は天高く響き渡ります。
「あぁ、歌が聴こえる……やっと、春が来たのね」
冬の王女様は塔の窓から見える景色が変わっていくのを見て、涙を流します。
国の人々が奏でるメロディに、笑顔がいっぱいに広がっていきます。
そして、ついに、春の王女様は春風に乗ってやってきました。国中のみんなの力を合わせて呼び出した、春風に吹かれて、ふわりとやってきたのです。
素敵な歌声と、春を連れて。
楽しく、穏やかに歌う人々に出迎えられ、春の王女様と共に国へ春が訪れました。
「春の王女よ、いったいどうしたのだ」
「どうやら、私の春を呼ぶ力が少し弱まって来ているみたいなの。私だけの歌じゃ、春を連れてくることが出来なかったわ」
春の王女様は悲しそうに言います。
「春の王女様、だいじょうぶだよ! 春は、今日みたいにみんなで呼べばきっと来てくれるから!」
少女は両手をいっぱいに広げ、辺りを見渡します。
そこには春の王女様を笑顔で迎えてくれた国の人々がいました。
「……新しい春の王女様は、ここにいたのね」
春の王女様は自分の冠を、少女の頭に乗せました。
「王女様、これは……?」
「春を連れてきてくれた貴女への感謝の気持ちよ。私だけじゃなくて、国のみんなが貴女に感謝しているのよ」
沸き起こる拍手と、感謝の声が少女に向かって送られます。みんなの心を歌声で一つにした少女は、照れくさそうに笑いました。
「それでは、少女に褒美を与えよう」
「それなら私、みんなでもっと春が来た喜びを歌いたいわ!」
少女はまた、歌い始めます。
楽しく、穏やかで、優しい歌声は春風の奏でるメロディに乗って、国中へと響き渡っていきます。
少女のメロディは人々に春だけではなく、もっとたくさんのものを届けに来たのです。
こうして、この国にはまた、春が訪れるようになりました。
王女様だけでなく、みんなが歌って、春を呼びます。
春風の歌が、春を連れてくるまで。




