第6話
第6話です。今回は丸々戦闘回でございますよー。
空のあちこちで爆発と魔力光が煌めく中、146小隊の面々は粘り強く耐えていた。レオとアイナ、そして魔銃を機甲魔剣へと持ち換えた時雨が迫りくる黒呪生物を斬り飛ばし、その背中に守られながら詩織が周囲の仲間に指示を飛ばし、舞が近接3人の討ち漏らした個体をアサルトライフル型魔銃・ゴート=レイドとバルカン型魔光機関砲・ヴェリル=バーストでもって撃ち落とす。周りに集ってくる黒呪生物は際限なかったが、彼らは必死の善戦をしていた。
Gullaaaaaーーー!
デッド=ファングの変異種が状況の拮抗に耐えかねたのだろう、空気を震わせる咆哮を上げながら翼を広げて146小隊の輪へと突進する。流石に魔力障壁で受け止める事など不可能で、やむ無く散開して回避。再び輪形陣を作ろうとするが、そこへすかさず通常種が割り込み、巨体でもって彼らを分断した。
「邪魔なんだよっ・・・退け!」
レオが振りおろした魔刀が通常種の体を薙ぐが、その巨体はびくともしない。それどころか、逆にその巨体でアイナともども吹き飛ばされそうになり、慌てて回避行動を取る。
「落ち着いて対処して!倒せない敵じゃない!」
その様子を、デッド=ファング変異種と通常種の両方を相手に機砲魔杖を向ける詩織がそう指示を飛ばす。が、そちらに注意を向けた事で逆に目の前への注意が疎かになった。
変異種が周りを飛びつつ牽制をかけていた時雨に爪を振るい、同時に尾から鋭棘を放って舞へ叩きつける。障壁が間に合わず、まともにそれを喰らった舞が装着しているアヴァロンの装甲が破壊された。さらに、詩織の頭上から大口を開けた通常種が落下してくる。彼女が気付いた時には、もはや回避など間に合わない距離まで迫っていた。
仲間たちの叫び声が通信機ごしに耳へと届く中、デッド=ファングの大口が詩織へと迫りーーーそして。
ーーー黒い流星が駆け抜け、詩織を喰らわんとしていたデッド=ファングを一瞬にして爆散させた。何が起きたのか分からずにぼうっとする中、その黒い流星は薄日の差してきた空を駆け、レオとアイナが相手をしていたもう一体も瞬時に塵へと変え、周りに集っていた黒呪生物の群れさえも次々と焔の華へ変えていく。
その流星が自分の元へ飛んできて、目の前で急停止しーーー詩織を守るように背に庇った。その全身を黒い鎧に包み、背に巨大な翼を背負い、右手には巨大な機砲魔剣が携えられている。それが誰かを皆が把握しーーー同時に、各々が通信機へ向けて声を飛ばした。
『遅ぇぞ、バカ!』
『ヒーローは遅れて来るって言うけど、遅すぎ!』
『やっと、来たの?』
ーーーそんな、容赦もへったくれもない仲間たちの声を聞きながら。 魔導攻装 を纏った幼馴染みの少年は、詩織に顔だけを向けて。
「遅くなって悪かったな。もう大丈夫だ・・・絶対に。」
そう言って、もう片方の開いている手で、詩織の頭を撫でた。その横顔を、朝日に輝かせながら。
「良かった・・・!間に合った!」
146小隊の専用発着場では、モニタリングルームで冬花が安堵の声を上げていた。翠人が見ていた戦況モニタには、エリュシオンーーー翠人をしめす翠色のアイコンが、詩織のケルキオンと重なるように表示されている。
「やっといるべき場所に戻ったか。世話焼かせてくれやがって・・・。」
などと雲河は悪態をついていたが、その顔には確かに笑みが浮かんでいる。桜は、静かにそれを見守って、少しだけ嬉しそうにしていた。
「・・・さて、と。さっさと終わらせなきゃな。」
一人、そんな独白をしながら翠人は目の前に滞空しているデッド=ファングの変異種と、その周りを取り囲む小型・中型の黒呪生物を睨み据えた。新手の出現を警戒してか、そいつらは距離をとって様子見をしているように見える。
「詩織、あいつらと一緒に撤退しろ。後は俺が引き受ける。」
そう言うと、彼女は少し躊躇い気味に、けれど確かに頷く。
「皆、聞こえたな?詩織と一緒に撤退しろ。レオとアイナ、時雨が護衛役、舞は詩織についててやってくれ。後は俺が片付けるから、心配すんな。」
『・・・分かった。あんたもちゃっちゃと終わらせて帰ってきなさい。』
「言われるまでもないよ。いいからさっさと戻れ。」
散開していた仲間たちが翠人の元へ飛んできて、詩織を介抱しつつ天照へと戻っていく。すれ違い際にレオと拳をぶつけ合い、その姿を見送ってから、背中に背負ったもう一本の機砲魔剣を抜き放ち、左手で構える。そして、全身に力を込めーーー宙を蹴った。
黒呪生物たちの放つ光線を掻い潜り、前進しながら両の機砲魔剣ーーー"エクスレイズ"と"セイヴァー"を目の前に迫ったマンティス二体へ二閃し、即座にコアを破壊。そのまま止まる事なく、勢いを殺さずに両の手で巨大な剣を同時に、速く、強く、鋭く振るい、目の前に来る敵をただひたすら斬り倒していく。その後に残るは、黒呪生物の爆発。
Gullaaa!!
デッド=ファング変異種が咆哮を上げ、周りの空から黒呪生物が集まってくる。どうも周りの空域で戦闘中のを呼び寄せてきたらしかったが、翠人はそれを気にもしない。いや、そもそも気にする必要は無かった。
両の剣の切っ先を変形し、砲口を露出させる。そしてそれを、こちらへ向けて飛んでくる一軍と、目の前の一軍へとそれぞれ向けて。
「消えろ、化け物!」
普通のものを遥かに越える威力の魔力砲撃を薙ぎ習うように、数発放った。たったそれだけ、されどそれだけで、空に無数の紅の華が咲く。
ーーーだがまだ、これだけでは終わらない。左手に握っていたセイヴァーを背中へ戻し、今度は両手で握ったエクスレイズに力を込め、魔力を練り上げ、解放する。同時に、砲口から極々長大な魔力光刃を発生させる。その長さは、おおよそ天照の直径と変わらない。
それを頭上へと振り上げ、目を瞑り、深く深呼吸。前方で唸り声を上げているデッド=ファングの変異種を睨み据え、そして、烈迫の咆哮を上げ。
「これで、終わりだぁぁぁぁ!!」
エクスレイズを、360度薙ぎ払い。明け方の蒼空を、紅の華で焼き尽くした。
「・・・敵戦力、壊滅・・・!敵戦力は、壊滅!残存戦力が撤退していきます!」
オペレーターの声に、指令室全体は歓喜に沸く。通信機を投げたり、隣の者と抱き合ったり。ちょっとしたお祭り状態の光景を見ながら、優衣は安堵の息を吐いて正面のモニタを見やる。そこには、天照の全方位カメラに映る朝焼けの空とーーー黒い 魔導攻装 を纏い、それを静かに眺めている戦士の姿があった。
読んでくださった皆様、おはこんばんにちは!悠でございます。さて、主人公の戦闘回ですが、どうだったでしょう。まぁ、まず書き方とかに問題があったら、どうだったとか以前の問題ですが(汗)
とりあえず、今回に関しては主人公ーーー翠人の復帰回という事で初めからこのような構想にしていたので、予定通りですね。次のは来週末かな。次の話は日常回にしていく予定です。翠人をとりまく人物がわんさか出てくるので人物紹介の方も編集しないとですね。