第5話
第5話を投稿させていただきました。まだまだ至らない部分はあるでしょうが、暇潰しにでもなっていただければ幸いです。
午前4時、まだ日も出てきていない時間帯。突然の警報で目を覚ました天照の学生達は、慌ただしく持ち場へと駆け回っていた。戦闘科Cランク以上の戦闘員は各小隊の発着場へと急ぎ、整備科の学生は魔導攻装の整備・調整に追われ、支援科の学生は情報収集と指令室への報告を繰り返し、その他の学生たちも非戦闘員の避難誘導に勤しんでいた。
「敵の数はかなり、というか相当多いですよ。裕に3000は超えているかと。」
支援科の学生の、そんな報告を聞きながら優衣は厳しい目つきで戦況モニタを睨んでいた。久方ぶりの大規模襲撃に、自然と身が引き締まる。
「とにもかくにも、敵の全体数が分からない内は魔力消費を抑えるよう徹底してください。それから、これだけの数ならば何体か指令役の大型がいるはずです。大型を発見したら優先的に撃破するように通達を。」
そう指令室のメンバーに呼び掛け、再び戦況モニタに視線を戻す。そのモニタが示す厳しい状況に、彼女は唇を噛んでいた。
「ちょこまかと、しつこいんだよ!」
そう愚痴りながら、魔導攻装ースサノオを纏ったレオが対の魔刀でテントウムシのような黒蟲種ーブラフスを2体同時に斬り倒す。横では、アイナが2本の魔槍を構え、そのリーチを活かして黒蟲種ーマンティスの鎌状の腕を斬り飛ばし、同時に胸部のコアへ槍の穂先を突き込んでいた。
「二人とも、一旦退避!」
後ろから聞こえた声を合図に二人が飛び退くと、無数の火線が彼らへと向かってくる黒呪生物たちを貫き、爆散させた。その火線の火元は、二人の後ろに陣取っている詩織、舞、時雨の3人だ。詩織のケルキオンによる広範囲魔力砲撃に、舞のアヴァロンによる魔光粒子砲と魔光量子弾頭、時雨の魔銃による拡散弾。こういう大規模戦闘においては、広範囲殲滅が可能な戦力はかなり重要になる。
「次が来る・・・!」
時雨の示す方向を見れば、また新たな一団が迫ってきていた。黒呪生物が爆散するたびに発生する火球を背景に黒い一団が迫り来る様は、さながら恐怖そのものだ。
「あぁ、もう!これじゃきりがない!やっぱり面倒くさいだけだわ、あいつら!」
舞の叫びに心中で同意しつつ、再び機砲魔杖を構え直す。自分が、前線を退かねばならなくなった翠人の分まで頑張ると決めたのだ。
「とにかく、ここで食い止めるよ!一匹残さず倒す!」
そう仲間たちに呼び掛けながら、機砲魔杖の引き金を力一杯押し込む。再び無数の火線が飛び、空に紅の華を咲かせた。
「まずい・・・!奴等、詩織達を物量で潰すつもりか!」
その頃、発着場で戦況モニタを睨んでいた翠人は苦しげに顔を歪め、呻いていた。モニタには、詩織たちを示す青いアイコンの周りを囲うように赤いアイコンが表示されている。
「それだけじゃない!そろそろレオとアイナ以外の皆の魔力残量が半分切る!」
冬花も、いつになく切羽詰まった表情でモニタを操作している。彼女の言うとおり、遠距離武装持ちの3人の魔力残量は半分を切りかけていた。
「くそっ・・・!長引いても魔力切れでアウト、長引かなくても物量で押し潰される・・・どのみち御陀仏じゃねえかよ!」
こんな時、自分が出られたなら。そう思わずには居られなかった。翠人の脳裏に、仲間たちの顔が浮かぶ。その中心で笑っている、同い年の女の子。
『翠人が私を守ってくれるなら、私も翠人を守るよ。独りぼっちになんてさせない。』
1年前、病院で言われた言葉がふと浮かんでくる。同時に、やるべき事が決まっていた。
「冬花・・・予備の魔導攻装出せ。俺が行く。」
自分の身体の事を分かっていて、それでもなおそう言って、ロッカールームへと歩き出す。その手を引っ張って、冬花は必死に説得しようとする。
「駄目だよ!翠人、次に黒呪生物と接触したら死んじゃうかもしれないんだよ!?そしたら、誰が一番泣くか分かってるでしょ!?」
「んな事言ってる場合じゃねえだろ!このままあいつが殺されるのを見てろってのか!?」
発着場に、二人の言い争う声が響く。それを止めたのは、発着場に入ってきた雲河の咳払いだった。
「落ち着け、翠人。焦った所で何にもならないぞ。」
その落ち着き払った声は、翠人の神経を逆撫でした。つい、相手が自分の師匠である事を忘れて怒鳴ってしまう。
「なんであんたはそんな落ち着き払ってられるんだよ!?あいつが危ないんだぞ!それとも、あんたにとってあいつはどうでもいい存在なのかよ!」
「だから、こういう時こそ落ち着けって言ってるんだよ、バカ弟子。」
そう言うや否や、頭に拳骨を落とされた。再び怒鳴りそうになった所で、発着場の入り口にずっと立っている女性ーーと言っても容姿や身長のせいで翠人と同い年にしか見えないがーーに気付く。それが誰か分かった瞬間、翠人の中に渦巻いていた怒りは一瞬にして驚きに塗り替えられる。
「う、そ・・・何で・・・。」
冬花の掠れた声が、嫌に大きく聞こえる。一拍遅れて、翠人もようやく声を出した。
「何で・・・こんなとこにいるんだよーーー姉さん。」
そう、その女性は紛れもなくーーー5年前に失踪したはずの姉、龍崎桜だった。
「久し振り、翠人。元気そうで良かったよ。」
そう言うと、実の姉ーーー龍崎桜はふわりと微笑んだ。どんな場面でも笑顔でいる所も、翠人への接し方も、昔から変わっていない。
「・・・あぁ、久し振り。5年前と、全然変わってないんだな。」
若干の皮肉を込めてそう言うと、桜は少しだけ申し訳なさそうにしながら、苦笑いを浮かべた。
「今日は、これを渡しにきたの。翠人と、詩織さんのためにね。」
と、そう言って手に持っていたアタッシュケースを渡してくる。中を開けてみると、魔導攻装の呼び出しや武装展開に必要な専用腕輪に、魔導攻装を量子化して格納するキューブが黒いものと白いもので二つずつ仕舞ってあった。
「これ・・・まさか。」
そんな翠人の独白を聞きながら、桜は静かに頷いた。
「白い方は詩織さんのもので、黒い方が翠人用。叔父さんと雪宮さんのお父様が協力して完成させてくれたの。」
「お父さんが、これの完成に・・・。」
横からアタッシュケースを覗き込む冬花は、不思議そうにそれを眺めている。それを見ながら、桜がさらに言葉を続けようとした、その時。魔導攻装が破壊された事を知らせる警告音が鳴り響いた。モニタに駆け寄った冬花が、蒼白になりながら言葉を紡ぐ。
「魔導攻装損傷率78%・・・ALERT、ケルキオン・・・」
その言葉が、恐ろしいくらいに発着場に反響する。同時に、翠人は覚悟を決めていた。
『・・・い!詩・・・聞こ・・・なら、返事を・・・!』
ノイズ混じりに、耳につけた通信機から翠人の声が聞こえた。途切れそうな意識を無理矢理引き戻し、応答する。
「何とか、生きてるよ・・・。でも、周り、囲まれちゃって・・・。かなり、きついかな。これは、ちょっと帰るの、無理かも・・・。」
彼女の魔導攻装は完全に大破し、彼女自身もボロボロだった。辛うじて胸部や頭など、一部の装甲は残っているがほとんどは壊れたりヒビが入っているし、一部は防護装まで破れている。
ーーーあの後。際限なく迫ってくる一団を相手し続け、魔力消費がきつくなってきた頃に、例のデッド・ファング変異種が大型を引き連れて現れた。周りを囲まれ、逃げ道が無くなった所に放たれた、死角からのデッド・ファング通常種のブレスを詩織はまともに喰らったのだ。
「何とか、してはみるけど・・・。多分、どうにもならないと思う。」
詩織が、そんな弱音を吐くと。通信機の向こうから、いつものダメ性とは違う、真剣で力強い声が聞こえた。
『馬鹿言うなよ。死なせる訳ないだろ。・・・今から、そっちに行く。だから、諦めるな。俺を、信じろ。』
そう言うと、一方的に通信は切られた。身体の事があるのに、とは思ったが、何故か「翠人はもう大丈夫なんだ」と思えた。
「駄目だなぁ、私。守るつもりが、守られる立場になるなんて・・・。ほんと、駄目だね。」
そんな独白の後、自分を守るように円陣を組んでいる仲間たちを見る。
「ごめんね、小隊長なのに。もう大丈夫だから。翠人が来るまで、絶対に生き延びるよ・・・絶対に。」
その言葉を受けて、周りの仲間たちは皆、一様に固い表情から、笑みへと変わる。仲間同士の信頼があってこその笑みを浮かべながら、彼らは再び、各々が握っている武器へ力を込めた。
「こいつがあれば、俺でも何の問題なく戦えるんだよな?」
詩織との通信を切った後。アタッシュケースから取り出した黒い腕輪を右手につけ、二度と着る事は無いと思っていたコート型の防護装を羽織った姿で、魔導攻装が格納されているキューブを見ながら翠人は姉にそう問うた。桜が静かに頷くのを見、翠人はキューブのスイッチを入れる。内部に格納されていた魔導攻装が姿を見せる。
全体的にがっちりとしたフォルムに、丸みと鋭角性が両立された装甲。全体は漆黒の鎧で覆われたフルカバータイプで、唯一、目と鼻の周りが少し露出している。胸部は動力炉を守るために分厚い水晶体型のアーマーが配置され、それを守るように、旧時代の戦艦の艦首を思わせる形状のアーマーがある。背部には機体の半分近くもある大きなウイングユニットが大型スラスターとして装着され、そのウイングユニットに干渉しない配置で、翠人の身長近くもある大きさの機砲魔剣が2本装備されている。両腕には魔力刃の展開機構が備え付けてあった。翠人の戦闘スタイルに合わせた、完璧な調整がされている。
その前に立ち、漆黒の装甲に触れる。そして。
「『エリュシオン』ーーー醒動!」
翠人がそう唱えると同時に機体が輝きだした。機体に触れていた右腕から全身へ、そして、背中へと装甲が装着されていく。ほんの数秒で、翠人は漆黒の装甲を纏った戦士へと姿を変えていた。
そのまま発着カタパルトへと足を乗せ、一度だけ後ろを振り返って。雲河を見、冬花を見、最後に姉を見て、一言。
「行ってくる」
そう告げると同時に、安全壁が降り、翠人と彼らを隔てる。それを確認し、翠人が動力炉へと魔力を注入する。半自動的にウイングユニットが開き、左右2枚、計4枚のエネルギーウイングが展開される。同時に機体から青白い魔光粒子と魔力波動が放出される。
「龍崎翠人、『エリュシオン』ーーー出撃る!」
1年前、二度と感じないだろうと思っていた、懐かしい感覚。それを肌に感じつつ、少年は蒼空を駆けた。
皆様、おはこんばんにちは。悠です。
さて、早速今話について話していきますが・・・とりあえず一言。
「二人の関係深くするのが早すぎた」
とりあえずこれが言いたかった。いや、自分でも見返したんですがね。二人の関係が進みすぎてるんですよ、自分でも分かるくらいに。
本来だったら、これくらい深い関係にするのはかなり後の方だったんですよね。いや、二人のキャラ設定としては間違っていないんですよ?ただ、進みすぎてるな、と。
まぁ、正直今さら戻すと逆に違和感ありありな感じになりそうなのでこのまま行きます(笑)
前のように長々と書くのもどうかと思うので、ここらでシメとさせていただきます。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!