第2話
どうも皆様、おはこんばんにちは。悠です。
さて、「黒と蒼空の魔導戦線」、第2話です。恐らく、まだまだ至らない部分もあるでしょう。それでも、私なりに一生懸命書いてみたつもりです。
では、本編をお楽しみください。
「全く、貴方たちはどうしていつもこうなんですか・・・っ!?」
空中都市・天照、その総合管理棟の最上階にある統括執務室の長たる少女ーーー奈津原優衣は溜め息をつくと、146小隊の面々を見た。詩織はデスクの前で心底申し訳なさそうに俯き、翠人はソファに座って手元に持った書類を見ながら何かを考えており、舞は携帯端末に何かのデータを表示して翠人に見せている。アイナは部屋の隅でレオに説教をかましている最中だし、時雨は時雨で壁に立て掛けた武装を綺麗に磨いていた。何というか、纏まりがない。
ーーーあの後。
レオが急いで書き終わっている書類を提出し、書き終わっていない書類を翠人が速攻で書きあげた後。統括室長である優衣から「黒呪生物の近況に関して大事な話がある」との呼び出しを受け、集まった146小隊の面々・・・なのだが。集まって早々この様である。
「なぜこうも纏まりがないのですか、貴方たちはーっ!ちゃんと話を聞いてください!そもそも、そういった日々の怠惰が戦闘にまで響いてしまうのであって・・・」
ついに優衣が爆発した。詩織顔負けの説教タイムの始まりである。
「いいですか、貴方たちはこの天照でたった二つしか存在しないAランク小隊なんですよ?皆の希望の光になるべき存在なんですよ?それなのにそんな態度で・・・一体どうするんですか!?」
と、優衣が次々にまくしたてていると。
「落ち着いてくれよ、室長殿。どうせ新型の黒呪生物に関する話だろ?そんなにカリカリしてると寿命が縮むぞ?」
全部察した様子で翠人がそう言った。図星だったのだろう、優衣の目が驚きで見開かれ、あれだけ開きっぱなしだった説教口も閉じてしまう。ついでに周りの面々は「流石は翠人」と言わんばかりの視線を向けていた。
「ま、まぁ、確かにそうなんですけど・・・ていうか分かってたなら始めから言ってくださいよ!?」
「いや、まだ資料の準備済んでなかったんで言わなかったんだが・・・まぁいいか。話の内容は察したんで、その黒呪生物に関しての情報確認するぞ。とりあえず室長はプロジェクターとスクリーン用意してください。詩織は端末使ってこの資料のデータ化を頼む。室長、PC借りますよ。それと、お前らは黙ってそこのソファに座って話聞け。いざとなったら出るのはお前らなんだから。」
そう言うと、翠人は持っていた資料を詩織に渡して優衣のデスクを部屋の端にどけ、その上のPCと優衣が出してきたプロジェクターのコードを繋ぐ。そこから先は統括室長である優衣の役目だ。彼女が部屋の電気を暗くすると、スクリーンに写ったのは例の新型黒呪生物と、魔法士の戦闘記録映像だった。
『・・・い、無事か!?損傷・・酷・・者は撤・・しろ・・・!』
映像からはひっきりなしに、ノイズに混じって小隊員のやりとりが聞こえてくる。
スクリーンの横にたった優衣が、苦しげに言う。
「これが先日、戦艦型空中都市から派遣された小隊が新型黒呪生物と戦闘した際の記録映像です。この小隊は、この映像記録を持ち帰った隊員を除く全員が帰還できていません。恐らくは・・・」
「・・・やられた、か。まぁ、そうなるだろうな。コイツ、はっきり言って通常のやつとは違いすぎる。」
壁に背を預けてその映像を見ていた翠人が、険しい顔をしてそう言った。その目には、かつての翠人が常に抱き続け、ここ最近は全く見せる事の無かった黒呪生物への怒りが見てとれる。
「違うって・・・どこが変わってるの?攻撃手段にしたって、外見にしたって他の龍型と違う所は無いように見えるけど。」
詩織がそう聞くと、翠人が優衣と入れ替わりにスクリーンの横に立った。翠人がリモコンを操作すると、先程まで写っていた映像が消え、代わりに巨龍型黒呪生物のデータ資料が映る。巨大な対の後ろ足とは正反対に小さな前足、そして3メートルはあろうかという翼と発達した巨顎。そのデータには「巨龍種ーーーデッド=ファング」とあった。
「見た目は、な。簡潔に言うと、新型黒呪生物はコイツ・・・デッド=ファングの突然変異個体だよ。基本的なフォルムはほとんど変わってないが、全体的に体色が紫がかってるし、なにより翼と顎の発達が通常のより激しいからな。」
そういうと、翠人は映像に映っている龍型黒呪生物を鮮明化したものとデッド=ファングの映像を同時に写して見せる。確かに翠人の言う通り、特徴に明らかな変化があった。
「ここからは完全に憶測だ。恐らくだが・・・この龍型黒呪生物は、癪気に対して耐性をつけてる可能性が高い。体色が紫がかってるのも、多分それが原因だ。そして、その癪気は攻撃にも転用してると見ていい。何せ報告書によると、この映像を記録した隊員はブレスをまともに受けたせいで戦えない体になったあげく戦線を抜けてるからな。癪気をまともに受けたせいで、体内に瞬間的に大量の毒素が入り込んだからだろう。」
最後の辺りで少し声を詰まらせながらではあったが、翠人はそう言った。一同が翠人に視線を向けると、その表情は複雑な感情に揺らいでいる。
「・・・まぁ、とにかく。今回の相手は今までの奴とは明らかに違う。他の空中都市から寄せられてる目撃情報から考えると、近い内にこの天照近辺を通過するはずだ。・・・気を付けろ。」
そう言うと、翠人は話を終わらせた。入れ替わりに優衣が146小隊の面々の前に立ち、統括室長としての命令を伝える。
「今回の事態に際して、146小隊には178小隊と合同での交代制哨戒任務を命じます。まず178小隊が午後3時から6時まで哨戒にあたり、その10分後に146小隊が午後9時までの哨戒をしてください。もし任務中に黒呪生物と遭遇した際には一度こちらに連絡を入れるように。絶対に、勝手な戦闘行動は禁じます。」
その日以来、146小隊は午後の時間をいざという時のためのコンディション調整、あるいは任務に向けた鍛練に割くようになった。
詩織はあらゆる可能性を考えて小隊室に籠って作戦を考えているし、レオとアイナは互いに模擬戦形式の鍛練をし、舞と時雨は連携の確認を繰り返している。そして翠人は・・・
「で、久し振りに声かけてきたと思ったら、模擬戦やってくれと。心意気は買うが・・・今のお前はまだ戦える体じゃないんだぞ。それでもやるのか?」
担当教官であり、翠人に「魔法士の何たるか」を教えた師匠ーーー雲河誠一とグラウンドで剣を向けあっていた。
「まだそうと決まったわけじゃないだろ?それに、それが鍛練を止める理由にはならないし。」
「ま、その通りだわな。んじゃ、久し振りにやるか。魔力強化はなしの、純粋な力量勝負だ・・・手加減なしだから覚悟しとけよ。」
言われるまでもない・・・そう理解している顔で
、翠人はかつての愛機の武装であった魔刀「桜舞」を構えた。雲河も大剣型の魔剣を握り、その切っ先を翠人へと向ける。そしてーーーその一瞬の後。
「・・・ぬんッ!!」
「・・・ハァッ!!」
二人が同時に動く。縮地の要領で翠人が瞬時に距離を詰め、下段から切り上げるのを大剣の腹でいなし、お返しとばかりに雲河が振り下ろした一撃を翠人は素早く逆手に持ち変えた魔刀で受け流した。刃と刃がぶつかり合い、火花を散らす。受け流した勢いのまま翠人が逆手の刀を振り下ろすのを、雲河は宙後転で避ける。
「お前、また腕上げたな・・・。昔のひたすら突っ込んでくるお前はどこいったんだか。」
雲河は呻き声でそう呟くが、その手が緩む事はない。その手に握られた剣は、途切れる事なく飛んでくる翠人の攻撃を防ぎきっていた。翠人が斬り上げ、振り下ろし、薙ぎ払う。攻撃の度に雲河はそれを受け止め、反撃を見舞うが翠人は翠人でそれを完全に受け流し反撃する。その繰り返しだ。
「でもま、まだ対応出来ないレベルではないな。どうするよ?このまま続けてもお互い疲れるだけだし。つうか俺は息上がるの嫌なんで止めたいんだが?」
「嘘こけ。まだそんな年じゃないだろ、アンタ。今日こそは勝つ・・・!」
翠人もまだ息は上がっていないが、額にはうっすらと汗が浮かんでいた。さらに続ければ、息が上がるのも時間の問題である。そもそも翠人の戦い方は龍崎家が昔から継いできた武術を雲河が体得したものを翠人に教えたものであり、全体的に動きが激しいため、今では魔力による肉体強化を前提とした武術だ。当然ながらそれを翠人に教えた雲河自身も同じ武術を使っているため、力量だけで戦おうものなら数時間も持たないのが当たり前なのである。
「ったく、勝ちに拘る所は両親譲りかっての・・・!こうなりゃお前がバテるまで付き合ってやるよ!」
・・・まぁ、師弟揃って負けず嫌いなので中途半端に止める訳が無かった。
「まーたやってるんだ・・・懲りないなぁ、翠人も。」
146小隊室の窓から二人を見ていた詩織は呆れ半分、苦笑いだった。よく見ると周りの学生たちも教室の窓やグラウンド周りに集まって二人の模擬戦を見守っている。
「さて、と。そろそろ時間だし、行かないとね。」
誰に聞かせる訳でもなくそう呟き、小隊室を出て地下の屋内発着場に向かうと、すでに他のメンバーは魔導攻装を装着し終えて発着カタパルトに足を乗せていた。
『遅いよー、詩織。・・・そういえば翠人は?アイツ、いつもならここに来てるはずだけど。』
モニターの映像越しに、メカニックルームから話しかけてくる少女ーーー雪宮冬花の疑問に、どこか嬉しそうに微笑みながら詩織は答えた。
「翠人なら、教官と久し振りに喧嘩してるよ。せっかくだから、今日は放っておいてあげようと思って。」
そう言いつつ更衣室で制服を脱ぎ、魔導攻装の下着にあたる防護装に着替える。右耳に通信機を装着し、発着カタパルトの手前で立ち止まり、魔導攻装の起動コードを唱える。
「ケルキオンーーー起動」
詩織がそう唱えると。彼女の全身を魔力光が包み込んだ。両の手足が、それよりも巨大な機械の手足に覆われる。胴にも装甲が装着され、頭部が天使の羽を模した装甲で包まれる。さらに、背中から透き通った白の布が身体を覆うように伸び、彼女の身体を包み込んだ。詩織専用魔導攻装、ケルキオン。それを纏った詩織も発着カタパルトに足を乗せ、出撃体勢をとる。
『いい?統括室長からも聞いてると思うけど、黒呪生物を見つけたらまずこっちに連絡入れる事。戦闘するかの判断は此方でするから、絶対に勝手な行動はしないでね。もし貴方たちに何かあったら、アイツは多分自分を酷く責めるだろうから・・・絶対に、生きて帰ってくる事。これ、146小隊の約束だからね。』
『分かってるよ。ちゃんと、生きて帰ってくる。ーーーA146小隊、出撃します!』
凛奈がそう宣言すると同時に発着カタパルトが加速しーーー彼女たちは微かに赤らんでいる蒼空へと飛び立った。
「ぜぇー・・・ぜぇー・・・。」
「ハァー・・・ハァー・・・。」
凛奈達が蒼空へと飛び立った頃。天照のグラウンドでは、翠人と雲河が力尽きてぶっ倒れていた。二人とも土埃と汗にまみれ、随分とやりあっていた様子が伺える。
「・・・随分強くなったじゃねえか、翠人。」
雲河が息も絶え絶えにそう言うと、翠人はどこか清々しい笑みを浮かべた。
「アンタが師匠だったからだよ。多分、アンタが師匠じゃなかったらここまで頑張れてない。」
「・・・フン、一丁前な事言いやがって。」
憎まれ口を叩きながらも、雲河の口元には笑みが浮かんでいた。
よく考えれば、初めの頃の翠人はかなり酷いものだった。日常生活の中でも凛奈やレオといった小隊仲間くらいしかまともに関わる相手はおらず、任務では自分の命を省みないで、ただひたすら剣を振っていた。翠人自身は詩織をーーー孤独になった自分とずっと一緒に居てくれた彼女を守るために動いていただけで、雲河に教えを請うたのもそれが一番の理由だったが、周りからすれば彼の行為は自殺行為に映っていたのだろう。
だが、ある日を境に翠人は変わった。1年前と少し前のある日、任務で大怪我を負い生死をさ迷った翠人は、目覚めてからすぐに詩織と話をしたらしい。その時に何があったのかは彼らしか知らないがーーー詩織があの日、病室で翠人に「救い」を与えたのは間違いない。その任務以来、出撃していないが、それでもーーーまたいつか蒼空に上がり、凛奈を守って戦える事を信じているからこそ、自分も翠人もこうして鍛練を続けているのだろうと、雲河は思った。
「・・・おい、翠人。俺がお前に教えた言葉、絶対に忘れるなよ。」
雲河が空を見ながらそう言うと。
「・・・忘れるかよ。」
と、翠人もそう言って。
『大切なものがあるなら。守りたいものがあるなら、生きろ。守って死ぬんじゃなく、生きて、そいつを守れ。絶対に、這いつくばってでも生きて、そいつの所に帰ってやれ。』
そっと、右手を空へと伸ばした。
ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました。まだまだ至らない部分も多々あったと思います。私がこの作品の中でも特に重視している、翠人と詩織の関係の片鱗を書かせて頂きました。分かりづらい点、ここはこうしてみたら?など、ありましたらコメントにてお願い致します。