7 魔族
「ーーやっと着いた。でも、もう暗くなったから、全然見えないけど。大丈夫なの?」
3人が小屋を出たのは夕暮れ。公園に着いた頃には、もう日が沈みきっていた。
「場所はわかる。というよりは魔力の残滓が色濃く残ってる場所を辿ればいいだけだからな。••••••正直マズイかも知れん」
実際、神樹のある公園に来て初めて、クレスにも漠然と『嫌な感じ』というように、感じ取れるようなってきた。
魔力の残滓を感じるって、こういうことなんだろうか?
「••••••お祖父様。精霊のみんなに聞いた限り、魔族が来てたみたい。一緒にここの人間が何人も連れられてたみたい」
「魔族、か。面倒なことになりそうだ。やはり早く神樹のところに行くべきだな」
へぇー。精霊術師って、精霊使ってこんなことも出来るのか。スゲー便利じゃん。ていうか、魔族ってなんだ?
クレスは考えていたことを言葉にする。
「さっきから話に出てきてる魔族って何のこと? それも天上世界から来たの?」
すると、アリスは信じられないとばかりに目を見開き、グレムは仕方ないといったように一瞬目を閉じる。
もしかして俺がおかしいのか?
「クレスって魔族も知らないんだ。」
アリスに馬鹿にされているような、というより絶対に馬鹿にされてる。
「魔族とは、数世紀も前に、それこそ古代と言われるような時代に、天上世界からこちらの世界に来た奴らだ。こちらの言い方に沿うならば、悪魔と言われるものだ。魔族と言われてわからないのは仕方がないことだ」
頭の中にある、母親や村のみんなに教わった悪魔についての知識を引っ張り出す。
「悪魔って、人を唆して悪さをするっていう? 確か、小さな子供みたいな大きさで、羽とツノがあって、あとは尻尾もあるとか無いとか」
「クレスの知識、すごく偏ってる。それって、下級悪魔の特徴」
「その話はまた今度にしよう。魔族に先を越されては、意味がなくなってしまう」
「魔族が何かわかんないけども、早く行かなきゃいけないなら。••••••なんだこれ?」
「今度は、どうしたの? クレスに構ってあげられるほど時間はない」
クレスはグレムに従い、先に進もうとするが、変な気配を感じ取る。
「いや、なんて言うか。こう、見られてる気がしたから。それとなんとなく、寒気がするんだ」
それが、生物としての本能なのか、それともその気配自体が異様だからなのか。どちらにしても、気づいたことにより不意打ちは免れた。
「まさか、魔族か⁉︎ アリス、すぐにーー」
「ーーその必要には及びませんよ。よもやただの人に、私の存在を察知されてしまうとは。私もまだまだのようですね」
「‼︎」
物陰に隠れていたのだろうか、グレムの言葉を遮り、1人の男と思しき人物が現れる。
「ごきげんよう、グレム殿。貴方とお会いするのは初めてですかね。改めて自己紹介を」
突如として現れた人物に、クレスたちは3人とも警戒を強めていく。
「私の名は、バルバトス・ジ・デューク。魔族序列は8位となっております。以後お見知り置きを」
バルバトスと名乗った魔族の言葉に、グレムは焦り、アリスは驚き、クレスは困惑した。
そして、魔族は3人の顔を見て満足そうな顔をすると、言葉を続けた。
「貴方たちの目的は恐らく、その人の少年に果実を食べさせる。違いますか?」
今度は3人とも驚かざるを得なかった。
「ですが、残念ながらそれはできないでしょうね。果実は12個全て私たち魔族がもらう。貴方たちには1個も残らない。力づくで私を押さえるなら、手に入るかもしれませんがね」
バルバトスと名乗った魔族の言葉にようやく口を開く。
「聞きたいことは色々あるが、なぜ我々の狙いが果実にあると?」
静かではあるが、威圧の感じるグレムの言葉に、クレスは内心ヒヤヒヤしながらも耳を傾ける。
「んー、それは教えられませんね。良いのですか? 早くいかなくて。もうすぐ終わりますよ」
バルバトスとグレムが話を進めるなか、アリスが横から突いてくる。こんな時にどうしたんだろうか。
すると、小声で話しかけてきた。
「お祖父様があいつを止めてる間に、ワタシたちは神樹のところに行く」
アリスの言葉にようやく自分がやらなければいけないことに気づく。
「わかった。でも、グレムだけでもいけるのか? なんだか、あいつ強そうだけど」
「それは大丈夫。お祖父様、あとはお願いします。お気をつけて」
「ああ、アリスもクレスのことを頼むぞ」
短い会話。小声だったとはいえ、バルバトスの耳に入ってしまう。
「やっと動きますか。でも、そう簡単には行かせまさんよ? 一応任されてますので」
バルバトスとグレムの2人の様子が変わる。それは、魔力を知覚出来ずともわかるほどであり、周りの木の葉が風に流されていく。その様は見惚れてしまうほどであった。
「ぼうっとしてないで。早く行かないと」
アリスの言葉に突き動かされる形で2人の間を通り過ぎていく。
「••••••見逃してくれるのかな? だとしたら、願ってもないのだが」
「ふふ、彼らを追えば貴方から目を話すことになりますからね。流石にそれは出来ませんよ、元将軍殿」
その言葉を皮切りに、魔法による戦闘が始まる。