5 決断
異能、それは人知を超えた力。
魔法とは同じものであると同時に違ったものでもある。
魔法が体内のマナを利用するのに対し、異能は体外のマナを利用する。魔法と異能はどちらも修得には長い時間がかかる。
ーーと、聞いたんだが。
どうやら果実で修得できるらしい。全くもって意味がわからん! お手上げである。
アリスは、この場で1人混乱しているクレスにフォローをする。
「果実を食べたからといって異能が発現するわけじゃないの。人工物にはよくある事なんだけど、適性によっては発現したりしなかったりするの」
つまりはどういうことだろうか。必死に考え一つの結論に達する。
「えっとー、結局その人の生まれながらの才能に依存するってこと? だったらなおさら俺には無理だろ。平民だし、そこそこの身体能力はあるけど良くて中の上だし」
クレスは、結局自分には無理な話だと、バッサリと切り捨てる。
それに対し、グレムが付け加える。
「確かに君の言うとおりだ。果実は個人の能力に依存し、能力が無いものには効果をなさない。しかし、私たちには君にその適性があると考えている、たったそれだけのことだよ」
「たったそれだけってーー」
自分にはその期待には応えられない。自分のことは自分が一番わかっている。
「だったらそれだけでも、ワタシたちには十分な理由になるの」
どういうことだ? なんで、それだけでも十分なんだ。
「アリスは精霊と話すことができる。だから、アリスの勘は精霊が由来だと考えていい。つまりは、精霊が君のことを認めているということだよ」
「なっ⁉︎」
絶句するほかなかった。精霊が自分のことを認めている? 俄かには信じがたいことだ。しかし、それは嘘だと、捏造だと、そんな訳がないと切り捨てれるほど知識があるわけじゃない。
「それに関しては、確かに精霊は君のことを認めてるみたい。でも、だからと言ってワタシは君に能力があるとは思わない。」
なおもアリスは続ける。
「それでも、適性だけに関しては精霊が認めてる通り、あるとは思う。それでも、まだ不服? 理由としては不十分?」
なんだか少し機嫌が悪いようだ。
俺がなかなか受け入れないから? そんな理不尽な。
それでも受け入れるしかないと言うのなら。
「••••••じゃあ、適性があったとしよう。その果実にデメリットはないのか? あるに決まってるよな。そんな都合の良いもんがあるはずがない。それで、質問に対する答えは?」
デメリット。それは時として看過できないものとなる。クレスはその点は明らかにしておきたかった。
それに対するグレムの返答はーー
「••••••その通りだとも。確かに、デメリットは存在する。しかし、それは大したものではーー」
「そんなことを聞いてるんじゃない」
ごまかそうとしたグレムの言葉を、怒気の混じった声音で遮る。その声に自分自身に驚きながらも苛立ちを隠そうとはしない。
「クレス、落ち着いて。お祖父様は別に隠そうとしたわけじゃなくて」
「グレム、とっとと答えてくれ。どんなデメリットがあるんだ。俺は初めからそれしか聞いてない」
アリスの言葉は聞こえていないかのように振る舞い、あくまでグレムの答えを待つ。
「••••••適性がある者が果実を食べると、体内で破壊と再構築が始まる。結果として、体もしくは精神がボロボロになって死ぬか、異能が発現する。それでも、その確率は五分五分である。これが、君の知りたかった最大のデメリットだ」
最大のデメリット。それが、肉体か精神の崩壊による死。
それをきいたクレスはーー不敵に笑っていた。
「どうかした、クレス?」
「やってやろう、犬死に上等。やってやるよ。その果実、俺が食ってやる。それで、死ぬならもとより神に挑むなんて無理だ。そうだろ? 二人とも」
「そう、だが。君は本当にそれで、良いのか? 君は••••••」
「俺は神を殺したい。たとえ果たされずに朽ちるとしても、何もしないよりは少しでも抗える方を選ぶ。その方が悔いが残らない」
母さんや村のみんなを殺されて、村を出るときに決めたんだ。もう悔いが残らないようにするって。絶対に復習してやるって。なら、少しでも可能性がある方を選んでやる。この先ずっと、後悔しないようにーー
「••••••君の覚悟は伝わってきた。君に、神樹ユグドラシルの果実を託そう」
そういうと、グレムは立ち上がり小屋の扉をあける。