3 能力
「単刀直入に、ワシとアリスは『天上世界』から来た。君らの中では、『夢世界』と言われていたかな」
「じゃあ、あの神とかいうのと同じ世界から?」
「まあ、そういうことになるな。アリスは何も説明して無いのか」
「お祖父様から説明してもらったほうが良いかと思って」
「そうか、じゃあ話を続けるが。その前にひとつ、君は何故神を?」
「そんなの! ••••••話したくない」
あんなの話すわけない。誰が村のことを話すものか。
「••••••そうか、余程のことがあったのだろう。これ以上は聞くまい」
「••••••すみません。お願いします」
「いや、君は悪くないんだから。謝る必要はない」
そう言うとグレムは立ち上がり、アリスとなにやら話し始めた。
「••••••うん、わかった」
アリスは「少し待ってて」と言うと、奥へと駆けて行った。
「どうしたんですか?」
「少し道具をとりにいってもらったんだよ。今からする話に必要だからね」
何が必要なんだろうか。それよりも、今から何を話してくれるんだろうか。しかし不思議な人たちだなぁ。天上世界とかいうとこから来たらしいけど、本当かどうかも疑わしいし。
「じゃあ、天上世界の事をはなすか。まず、さっきも言ったように天上世界からワシとアリスは来た。そして、天上世界の住人は地上世界の住人とは違い、特殊な力が使える」
「特殊な力、ですか?」
「簡単に言えば、魔法とでも思ってくれていいだろう。これはワシやアリスも使える」
「魔法?そんなのがあるんですか?」
「お祖父様、持ってきました。これでよかったですよね」
「ちょうど良かった。アリス、簡単な魔法を見せてやりなさい」
「はい、お祖父様。••••••クレス、これを見ててね」
アリスが指差した先には、今持ってきた燭台だった。蝋燭も刺さってない、ただの燭台。いまからこれで何をするんだろうか。
「••••••精霊よ、盟約に従い、私に力をーー」
すると、蝋燭のついてない燭台に火が灯った。
「⁉︎」
今何が起きたんだ⁉︎ いや、それよりも燭台から火が出てる? どうなってるんだーー
「驚いたかい? これが魔法だ。といっても、アリスのは精霊を介さないと出来ないがね」
「はい、お祖父様の言うとおりです。こちらにも精霊がいて本当に良かった」
クレスは目の前の事態についていけずに、放心するしかなかった。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※※
「••••••つまり、魔法っていうのは精霊を介して使う、謂わば超能力のようなものか?」
放心を解き、何とか頭を回転させることができたクレスは、起こったことを自分なりに解釈してみた。
「当たらずとも遠からず、といったところだな。魔法について詳しく説明すると、まず生き物にはマナと呼ばれる魔力の源がある」
「つまり、それをどうにかすると魔法が使える?」
グレムは無言でうなづき、クレスの言葉を肯定する。
「魔法を使うには、2つの方法がある。1つ目はさっきアリスがした、精霊術。これは精霊を介することで、精霊の力の一部を使える魔法だ」
「じゃあ、もう1つの方法は?」
「2つ目は、全ての生き物にあるマナを使う、自然魔術。簡単に魔術と言われている」
「どうやって使うんだ? というか俺でも使えるのか?」
グレムはクレスの質問に軽く首を横に振る。
「誰もが使えるわけではない。現にアリスは精霊術しか使えん。しかし、魔術士と精霊術士では魔術士の方が多い。その上、精霊術士にはデメリットも存在する」
「デメリット?」
「精霊術士は精霊と契約を持続するためにマナを使い続ける。そのため魔術が使えないんだ」
「じゃあ、アリスは魔術が使えないってこと?」
「まあ、そういうことになる。それでも魔術よりも強力な魔法が使えるんだがな」
アリスが何食わぬ顔をして、燭台を奥へと持っていく。しかし、クレスには心なしか疲れているように見えた。
「次に神についてだが、アレらはマナの塊だと考えてくれていい」
「それって、どういう」
「アレらにに通常兵器の効き目が悪いのは、アレらが物質じゃないからだ。基本的に魔法しか効かない」
「じゃあ、神を倒すには魔法を習得するしかないと?」
「そこで問題になるのが、魔法とは別の能力、異能と呼ばれるものだ」
「異能••••••それは魔法とはどう違うんだ?」
「魔法が体内のマナを使うのに対して、異能は体外のマナを使う。魔法を使うものからすれば異端。だから異質な能力、異能と呼ばれている」
クレスはふと生じた疑問を言葉にする。
「でも体外のマナを使うなら、魔法よりも万能なんじゃ」
「絶対多数の絶対権力、ということだ。どれほど優れていようと、少なければ迫害される」
グレムは自分の言葉に一瞬顔を歪め、目を瞑る。クレスも相手が何を考えているのか計りかね、その場が静まりかえる。
最初にその静寂を破ったのはアリスだった。
「お祖父様、早く続きを話してあげて。クレスには知っていて貰う必要がある」
「そうだったな。クレス、君には魔法ではなく、異能を身につけて貰う。それ相応の対価が必要にはなるが」
クレスは自分が言われたことが理解できなかった。
「ワタシたちには異能を持つものが必要なの」
クレスは、また放心せざるを得なくなった。