2 お祖父様
『地上世界』には多くの都市が存在している。
『イルミス』もその一つであり、広大な平原に囲まれ都市自体も大きいため、4大都市の一つに数えられている。
『イルミス』は何重にも連なる壁に囲まれており、3つの区画に分けられている。
まるで要塞のような外観から軍事都市と間違われがちである。
だがその実、海が近くにあり、平原には川が流れていることから、商業が盛んに行われている都市でもある。
クレスとアリスはイルミス・下層区画の商業区にいた。
ーー約一時間前。
「おい! ちょっと待てって!」
「何? 早く行かないと行けないんだけど」
「天上世界から来たってどういうことだよ。それに私たちって、お前以外にもあっちの世界から来たやつが居るのかよ」
「それはついて来ればわかること。そんな事より聞きたいことがあるんだけど」
「ついて来ればわかるって、あのなぁ」
「イルミスってとこに行きたいんだけど」
「••••••は?」
「だからイルミスに行きたいの」
「いや、それは聞こえてたから。てか、反対方向歩いてるんだけど」
なんて奴だ。場所もわからずについて来いって言ってたのか。もしくは方向音痴か?
どちらにせよ、何かこいつについて行くのはヤダ。
「イルミスに行きたいんなら俺が連れて行ってやるよ。その代わり、着いたら絶対に話せよな」
アリスは顔を赤くしながらコクッとうなづいた。
「じゃあとっとと行くぞ。日が沈む」
アリスは尚も顔を赤くしている。そんなに恥ずかしかったのだろうか?
ーー1時間後
店が所狭しと林立する通りを歩いていた。
「そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか? 何で言ってくれないんだよ」
「話せるような場所じゃないのは見ればわかる」
「まあ、確かにな」
確かにアリスの言っている事は間違っていない。だが、人がいないところは何回か通っているのだから、話せる機会は何回もあった。どこに連れて行く気なんだ。
「どこまで行くんだよ。そろそろ場所だけでも教えろよ」
「着いた」
「へ?」
「ここが目的地。早く入ってきて」
そこは通りを抜け、人があまり寄ってこないような所にあった。また、店というよりはちょっとした倉庫のような場所であった。
「お祖父様、やっと見つかったよ」
中には兵士でもしていたのか、老いぼれてはいるものの逞しい身体つきをした老人が座っていた。
老人の髪の色も銀色である事から、アリスの言葉通り、親族なのだろう。
「••••••アリスか。ここまで来なさい」
アリスは、聞く人を威圧するかのような老人の声にハイ、と短く答えると老人に近づいていく。
「••••••何してるの?あなたもこっちに来て」
「••••••行かなきゃダメか?」
「アナタがいないと始まらないから」
やっぱりか。うすうす感じてはいたけど、さっきの話の続きはあの怖い人がするのか。
やべぇ、早く帰りたい。
心の中でちょっとした弱音を吐きつつも、従うしか無いと考え、アリスのあとについていく。
「••••••こいつが、果たしてくれると?」
「ええ、そうよお祖父様。この人には神に対しての強い『怒り』がある。この人なら、かならず」
「そうか、ならば君に任せよう。君の名は?」
「••••••クレス、です。というか、勝手に話を進めないでください。何ひとつ知らないんですが」
言わないほうがよかったかもしれない。老人が物凄い睨んできている。というかアリスが凄く笑いたいって顔してるんだが、怖すぎてそれどころじゃない。
「••••••クク、おもしろい奴だ。私を前に怯えることなく意見するとはな。クレスか、承知した。アリスがまだ話してないなら私から話そう。なに、ちょっとした話だ、そこに座って楽にしてくれ」
アリスは面白いものを見た、といったような顔をしている。少しイラッとくるな。
クレスは老人が指差した椅子に座り、言われた通り楽にした。
すると、いつの間にかアリスがお茶を淹れてきた。
「初対面でお祖父様に意見した人はアナタが初めてよ。少しビックリした、アナタにそんなどきょうがあったなんて思わなかった」
「そりゃどうも。褒め言葉として受け取っとくよ」
皮肉を言われ少しイラッとした。だが、その当の本人は何故か不思議そうな顔をしていた。まるで最初から褒め言葉のつもりで、それ以外に何の意味があるのかわからないといった顔だ。
「悪いね。アリスは少し世間知らずだから、そういう事はわからないんだ」
「••••••なら仕方ないんですけどね」
「そういえばまだ名乗っていないな。私の名はグレム。アリスの祖父にあたる。さて、どこから話したものか」
そう言うとグレムと名乗った老人は考え始めたが、考えがまとまるまではさほど時間がかからなかった。
「そうだな、まず私やアリスの話からしようか」