第2章3 新たな技
風にたなびく黒髪をおさえ、女は1人つぶやく。
「…あの少年、なかなか面白い事をするではないか。よもや真後ろに跳んでくるとは、想像もつかなんだ。それにあの剣、炎を纏っていなかったか? 魔法によっては焼き切られていたかもしれんな。…ふふ、全くもって面白い」
女は懐から1枚の破り取られたような紙切れを取り出す。
女がその紙切れを持ってブツブツと何やら唱えると、横に控えていた人形が動き出した。
「そろそろこの仕事にも飽きていたところだ。せいぜい楽しませてもらうとしよう」
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前方から駆けてくる2つの人影。
それを見て、手に持つ刀を握りなおす。
「近づかれて初めて分かりましたが、人じゃありませんね」
どういう意味かわからず、クレリアを見る。
「“人形”と呼ばれるものです。いわば小さな建築物、あるいは大きなアクセサリーといったところでしょうか。彼らには自我と呼べるものは全く存在しません。主人の命令に忠実に従う道具です。事実、彼らは土から作られてますし」
事も無げに話すクレリアだが、その声には少なからず怒気が混じっていた。
クレリアが声に感情をのせる事は無い。
短い付き合いではあるが、そういう事をしないだろう事はわかった。
そのクレリアが怒気を滲ませているという事は、相当ご立腹だという事だろう。
クレスは話題を変える為に人形の頭の上を指差す。
「…で? あの頭の上にある炎は何だ?」
「あれは“フレイム”という名前の下級魔法です。あの程度の魔法であれば、クレスさんの障害になる事はまず無いでしょう。それに私も参戦させていただきますので」
そう言うと、服の中から一冊の本を取り出す。あまり分厚くは無いが、かと言って薄いというわけでも無い。表紙には円形の模様が複雑に絡み合っているデザインが施されており、全体的に黒い彩色が為されている。
「これは“大魔導書”、魔法が記録されている書物ですが、その書物の一部を複製した物です。一般的に魔書と呼ばれているのですが、これは使用者の魔力を通して、記録されている魔法を発動できるという代物です。これなら微力ながらもサポート出来るかと」
「そりゃ助かる。っと、もうそこまで近づいてきてたのか」
敵がすでに半分以上近づいてきている事に気付き、刀を構える。
と同時に敵の魔法が先行して飛んできた。
クレスは刀で空気を切る。
「空震」
次の瞬間、切られた箇所を中心に周りの空気が伸縮をはじめる。
その伸縮はさらに周りの空気へと伝わっていく。
文字通り空気が震動していた。
空気を伝う揺れは飛んできた魔法を飲み込み、四散させる。
「魔法に伝わった揺れが内側から分裂させた?」
「まあ、そんなもんだな」
クレリアの言う通り、魔法を内側から分裂させたのだが、正しくは“魔法に伝わった震動”だけでは無く、“周りの空気の震動”も関係してくる。
とはいえ、些細な違いであり“内側から分裂させた”というのはまぎれも無い事実なので、わざわざ訂正する必要も無い。
クレスは、クレリアの洞察力に驚いていた。まさか“内側から分裂させた”という答えにたどり着くとは思わなかったからだ。
「そんな事より今は目の前の敵だ。あの2人組を任せられるか? 俺は奥にいる奴と戦う」
「人形なら任せてください。ですが、すぐにそちらには向かえませんよ?」
「大丈夫。その前に決着つけるから」
ーーそれに嫌な臭いもしたからな。
クレスはその言葉を心の中だけに留め、もう1つ、能力を解放する。
「ーーサイクロン」
クレスを中心に起きた風はクレスを持ち上げ、敵のところへと運んでいく。
「では私も」
残ったクレリアはページをめくり、目当ての魔法を探す。人形に有効で、クレスの邪魔にならない魔法を。
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ちょうどその頃、とある一室でアリスとヘルの2人も戦闘していた。悪魔と。
「もう終わりかい? もう少し楽しんでいたかったのだけど」
ワンサイドゲームではあるが。
というよりもう勝負はついていた。
「はぁはぁ、クソっ。なんでこんなところに剣聖が!」
ヘルが相対している悪魔の名はピリヤという男で、実力はある。
だが、相手が悪かった。
ピリヤは既に悪魔本来の力を解放しているにも関わらず、所どころに裂傷やら打撲やらが見受けられる。
対してヘルの方は全くの無傷であった。
「ヘル、少し痛めつけすぎ。目的忘れてるでしょ?」
「ああ、そういえば聞くことが有るんだった。何故悪魔がここに居るんだ?」
当初の目的では何かしら探し出す事ではあったが、途中で悪魔と出会いそのまま戦闘になっていたのですっかり忘れていた。
「…! わかった、言うからこれ以上はやめてくれ!」
ヘルの問いかけに無言を徹しようとするピリヤだが、ヘルが剣を抜こうとすると、コロッと態度が変わる。相当痛めつけられていたようだ。
「俺たちの狙いは、っ⁉︎」
突如として、ピリヤの体が燃え上がる。
「なっ⁉︎」
「グワァァァァァ!」
部屋にピリヤの絶叫がこだまし、暫くしてピリヤは炭へと変わっていた。
ヘルたちも消火しようとしていたが、炎を消すことはできずなすすべ無く、ピリヤが燃えカスになるのを見届けるしかなかった。
「情報を売ろうとした悪魔を消した、といったところでしょうか」
だとしたら悪魔は相当なことをしでかそうとしているに違いない。
「…そう、だね」
自然と2人とも暗くなってしまう。
ヘルとアリスはもう一組のことを思わずには居られなかった。
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